「オレはお前の事を、そういう対象では見ていない」

期待と不安を込めた顔を、視線を逸らさず見つめて。

「・・・・・・・」

真顔で口を割って出て来た言葉に、眼前の『女』は悲しげに笑った。




僕はこの()で嘘をつく





己の口から毎度の如く、居候兼同居人に向けられていたKEY WORD。

『ガキ』・『クソガキ』・『大食漢』・『お子様』・・・・数え上げたら切が無い。

だがそんな言葉を覆すかの様に、少女だった娘は。

月日を重ねると共に、徐々に『女』へと変貌していった。

発展途上だった胸も、今では存在を否応無く示し。

あどけない子供だった顔は、秀麗さを漂わせて。

陶磁の様に白く透き通った、両腕と両足は艶を増す。

ピタリと身体のラインを、浮き立たせるチャイナ服は。

誰もが認める程の、プロポーションで。

街中を歩けば、野郎共の視線を独占しているに違いない。

当然一つ屋根の下、こんな超絶美女との同居生活にて。

オレの心が、揺らぐ筈も無く・・・・・だが。

『男』としての本能を、必死に理性で繋ぎとめているのだ。

目の前に極上のステーキがあれば、誰だって喰らいつきたくなるのは当然だろう。

年齢を重ねた居候に対して、オレはいつも通りに振舞うだけ。

どんなに目を奪われる様な、仕草や言動を――――繰り出されても。

それが無意識なのか、それとも狙ったものなのか?

『銀ちゃん』と、魅惑的な唇で名を呼ばれても。

ポーカーフェイスを、貫き通す。

死んだ魚の瞳の様だと言われた、この瞳で彼女を視界に映す。

だが・・・・オレは態度を、変えたりしない。

眼前の超絶美女に心を奪われ、己だけのモノにしたい欲望を。

決して、悟られたりはしない。

―――――そんな日々が、続いていた。

そんなオレに焦れたのか?それとも唯単に、疑問からなのか。

美女の口から――――こんな台詞が、飛び出して来たのだ。

『ねえ?銀ちゃんは、私の事をどう思ってるネ?未だにガキのまま?――――それとも』

妖艶に微笑む眼前の女は、首を傾げて問い掛けて来る。

下ろしていた右腕を上げて、白く細い人差し指と中指で。

着流しとシャツの間、僅かに覗かせている肌・・・・・胸板にそっと触れて来た。

触れられた箇所が、ひんやりと冷たく感じる。

だがそれも最初の内で、今では温さを通り越し熱い。

オレの全神経が、目の前の美女に向けられている。

『ああ。お前が欲しいよ、神楽。心も身体も、全てが欲しい。
死ぬほど、抱き締めたい。お前がオレから離れられない様に、いつまでも閉じ込めておきたい』

本当なら今すぐにでも、この両腕にお前全身を包み込んでしまいたいよ。

2つの碧眼はオレの姿を写し、熱っぽく・・・・潤んでいる。

―――――ああ。これ以上、煽るなよ。神楽。

お前がオレに対して、何を望んでいるのか。この口から、何を言わせたいのか。

十分承知して、理解している。

そう・・・・・・だからこそ。


「オレはお前の事を、そういう対象では見ていない」


期待と不安を込めた顔を、視線を逸らさず見つめて。

「・・・・・・・」

真顔で口を割って出て来た言葉に、眼前の『女』は悲しげに笑った。

「・・・・やっぱりネ」

触れていた二本の指が離れたと同時に、外気に晒され熱は奪われる。

――――――気付かれてはならない。

己の欲望を・・・・・この娘を己のエゴで、穢してはいけない。

一度穢してしまったら、最期――――オレはきっとコイツを、
『快楽』と共に奈落の底へと引き摺り込んでしまう。愛し過ぎて、気が狂いそうな程に。

お前を・・・・・壊してしまうかも知れない。

それだけはしては、ならない。

愛している――――愛しているから。

だから。

僕はこの()で嘘をつく




銀神処へ戻る

ABOUTへ戻る