樹海の糸



私が、貴方に対して――――この傘を。

『武器』として使う事なんて、予想だにしていなかった。

共に『万事屋』として、時を過ごしていた筈なのに。

何処から、道が違えてしまったんだろう?

これ以上に、無いってくらいに。

頭から爪先まで、紅い液体が染み付いている。

一体・・・・・どれくらいの、『血』を浴びたノ?

浮かんだ疑問に、答えなぞ出て来やしない。

―――――その、代わり。

足元には、夥しい程の血溜まりが・・・・・歪んだ円を、描いていくだけ。

こんな私の姿を見ても、貴方は――――。

決して動じず、普段通りの『坂田銀時』。

・・・・だけど。

微かに・・・・愛刀を握った手が、震えているのを確認出来た。

怒ってる?

――――そうだよネ。無関係の人々を、手掛けてしまったんだから。

貴方が一番嫌いな事を、私は行ってしまったのだから。

『自分の刀が届く限りは、オレの国』だと。

いつか・・・・宇宙海賊の頭に言った言葉が、自分の脳裏に浮かぶ。

そんな貴方の『国』を、私は崩壊させてしまった。

――――深く関わっていた、人々でさえも。

そして――――今。

私の目の前にいる、貴方を。

手に掛けようと、対峙している。

「神楽」

凛としつつも――――心地良い低音が、私の名を呼んだ。

静かな怒りを秘めた、その声も。

私を凝視する、その瞳も。

全身から放たれる、『戸惑い』と『怒気』も。

全て・・・・自分に、向けられたモノ。

心から信頼していた人物から、『裏切り』を受けた衝撃は。

・・・・・計り、知れないだろう。

――――貴方の悲しみ・怒り・・・・更に複雑に、絡み合う感情達を。

この身に受けたら、私にも感じる事が出来るだろうか?

「神楽」

貴方の持つ、愛刀の切っ先が――――。

ゆっくりと・・・・自分に――――向けられる。

それと同時に私は、笑顔を浮かべていた。

銀髪の男は、私を『敵』と見なしてくれたのだ。

『万事屋』での日々は・・・・宝だった。

一生このまま、傍にいたいと――――銀ちゃんの傍にいたいと、望んだ。

騒がしいけど穏やかで、暖かい場所が心地良かった。

でも・・・・あの頃には、もう――――引き返せない。

前方で対峙する銀髪の侍の表情が、木刀を構えた瞬間。

―――――激しく、歪んだ。

ああ・・・・初めて見るヨ、銀ちゃんのそんな顔。

『悲痛な表情』

―――――そんな言葉が、一番似合う。

胡散臭い笑みや、意地の悪い笑み・・・・穏やかな笑み。

怒った顔・小馬鹿にした顔・・・・眉間に皺を寄せた顔。

いつも――――私に向けられるのは、そんな表情ばかりだった。

でも―――――貴方から自分に向けられる表情が、大好きだった。

今は眉間に皺を最大に寄せ、下唇を一滴の血が出るまで噛み締めている。

そんな表情、見たく無かったのに。

・・・・そうさせてしまったのは、誰でもない。私だ。

「何で・・・・こうなっちまったんだよ?」

うん、そうだネ。

――――私にも、良く分からない。

ただ言えるのは――――これは自分の意思で、動いている事

「神楽・・・・・」

先程とは打って変わって、儚い声が私の名を紡ぐ。

それに応える様に、静かに笑みを浮かべたまま。

――――私が、憎いデショ?銀ちゃん。

――――貴方が大切にしていた『国』を、滅ぼしてしまった私が。

ならば・・・・さあ。







貴方の全身から溢れている、その『憎しみ』を『怒り』の糸を。

躊躇う、その両手に絡ませ・・・・織り上げ・・・・宿らせ。

私を、優しく殺めて。






※先に謝ります。申し訳ありません。私的に、こういった類の話が好きでして。
主人公を裏切り、対峙するヒロイン・・・・・・しかも、主人公の手に掛かって。
死ぬ事を望んでいる・・・・・と言った、パターンが。特に大好きです。←聞いてねえよ。
銀さんと神楽ちゃんじゃ、絶対に訪れないパターンだと思いますが。
この様なイタイ駄文を読んで頂き、真に有難うございました。

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