私の横で佇む――――金髪の、美丈夫の男は。

一瞬だけ息を止めて、力強い視線をを送りつけていた。







かくされた狂気






『組織』にとって、仲間の裏切りは。

大きな痛手となり、存在さえも危うくさせる。

私が今。右手に収めている、黒い金属の獲物の行方は。

己の・・・・・『組織』を裏切った、部下へ向けられていた。

対峙している男は、既に地面に尻餅を着いて。

両手を挙げ「撃つな」と、泣きながら懇願して来る。

此処は『歌舞伎町』の、繁華街――――更にその奥まった、暗闇が支配する裏路地。

廃ビルとなった敷地の一角に、裏切り者を放り出し部下達に退路を絶たせて。

今正に、『粛清』を行おうとしていた。

「・・・・どの面を下げて、そんな事が言えるのかしら?」

陳腐な台詞を放った男に、思わず笑みが毀れてしまう。

「貴方は、『私達』を――――敵側の手に陥れ様としたのよ?
『幹部』になれると言う、奴等の甘言に唆されて。『組織』の『重大機密』を、売ろうとしたのよね?
貴方のお陰で、ひょっとしたら――――私の『組織』は、潰されていたかも知れない」

――――本当、馬鹿な男。

万が一事がうまく運んだって、どうせ利用価値が無くなったと。

奴等に、『殺害』されて。

初めから存在無かった様に、扱われるだけだというのに。

「ばれないとでも、思った?――――残念ね。貴方は既に、監視下に置かれていたのよ。
もうちょっと、うまく立ち回っていたら。こんな目に、遭わずに済んだのにね」

唇の両端を上げて、両目を細め。

指を掛けていた引鉄を引こうと、力を篭める。

「――――あっ・・・・ああ」

「残念だわ。良く働いてくれてると、思っていたのに」

「お・・・・お許しを!どうか、ご慈悲を!『ボス』!」

涙と鼻水を垂れ流し続け、助けを求める男の声を私は綺麗に無視をして。

これから黄泉へと旅立つ裏切り者に向けて、今日一番の笑顔を贈った。

さよなら

躊躇する事無く、引鉄を引けば。

空気の抜けた様な発砲音をさせ、弾丸は飛び出して行く。

銃口の先からは小さく火花が散り、瞬時に火薬の匂いを発生させた。

腹部を狙撃された裏切り者の身体は、派手な音を立てると――――地面にうつ伏す。

苦悶の表情を浮かべ、必死に両手で傷口を塞ぎ。

額に尋常じゃない程の、透明な雫達を浮かばせ。

苦しそうに呻き声を上げて、両手を真っ赤に染めさせていた。

尚も『生』への執着心を、捨てきれない男の姿に。

私は微笑を、絶やさないまま。

2発・3発と、弾丸を――――その身体へと、贈った。

衝撃を連続で喰らい、横たわった身体は海老の様に仰け反る。

―――――そして。数分の後。

『粛清』を受けた男は、ぴたりとも動かなくなった。

それを確認すると、すぐ傍で待機していた側近に。

サイレンサーが装備された、黒い金属の塊を渡す。

『裏切り者には死』を。

それがこの『世界』での、暗黙のルールであり掟。

「――――後の始末は、任せるわ」

「御意」

深々と一礼する、部下達に視線を滑らせて――――この場を去ろうとした時。

・・・・・右側から、強い視線を感じた。

私はその視線に気付かない振りをして、その人物を見やり。

唇の両端を軽く上げて、質問を投げ掛ける。

「――――どうかした?金時」

「・・・・・いや。別に」

『別に』という、顔をしてはいない。それ所か、眉間に幾つもの皺を寄せている。

『大いに意見あり』といった感じが、目に見て取れた。

――――だが。それすらも、気付かない振りをして。

「そう」とだけ、言葉を述べる。

暗闇に囲まれた場所から、煌々とするネオン街へと戻る為。

ピンヒールを履いた二本の足を動かし、通常の速さでこの場から離れる。

「・・・・なあ」

私の後を付いて来ている男が、力無く声を掛けて来た。

「何かしら?」

「―――――『あれ』。やっぱり、必要な事なのかよ?」

金髪男の声には、嫌悪感が含まれている。

『堅気』側にいる人間である事を、改めて実感しながら。

男に見られない事を、良い事に。苦笑いを浮かべると、質問を質問で返した。

「あれって?」

「・・・・・・」

意地の悪い質問をした事は、自覚済み。

「――――何も。命絶つ必要、なくね?」

歯に詰まりそうな言い方をしながらも、こちらに抗議をして来る。

男の台詞に両肩を竦めると、動かしていた両足を止め振り返った。

「警察に、連絡でもする?」

出来る訳が無い事は、承知の上――――その証拠に。

「・・・・・・・」

眼前の金髪男は、バツが悪そうに私から視線を逸らすと。

下唇を、強く噛み締めている。

その様子に、盛大に溜息を吐き。両腕を、組んだ。

「私の『本業』を見てみたいと、言ったのは。貴方でしょう?金時。
・・・・だから、止めておけって言ったじゃない。あれも私の、『本業』の一つなの。
『組織』は、たった一人の裏切りでさえ。存続の危機に、繋がってしまう
――――綺麗事なんか、言ってられないわ」

そう。その甘い考えが、命取りになる。此処はそういう世界。

「その為に『粛清』という、暗黙のルールがあるのよ。次の愚か者を、出現させない為にもね」

「・・・・見せしめ・・・・って事か」

視線をアスファルト・コンクリートに固定したまま、重々しい口調で言葉を放つ。

普段とはうって変わった、彼の態度に軽く息を吐きつつも。

首を小さく縦に動かして、是を示す。

「そう取って貰って、構わないわ」

「―――――本当に、『組織』の存続の為なんだよな」

此処で男が視線を地面から、私に移動させた。

「―――――どういう意味?」

両腕を組んだまま、首を僅かに傾け――――眼前の男の言葉を促す。

さっきの・・・・・お前。凄く『悦』に、入ってる様に見えたから

容の良い唇から、解き放たれた言葉を受け入れたと同時に。

心臓が、一度だけ大きく震えた。

「何の事?」と、ポーカーフェイスを装い・・・・静かに問い掛ける。

――――が。金髪の男は。射抜く様な視線を、私に浴びせて来た。

「物騒な『獲物』を、握ってたお前は。明らかに、楽しんでた気がしたぜ?」

「・・・・・・」

『粛清』という名の、『殺し』を

―――――やはり。連れてくるべきでは無かった。

・・・・心の機微に、敏い男である事は。理解していた筈だったのに。

自分の奥底に隠していた『狂気』を、この男は難なく見抜いてしまった。

ええ、そうよ。金時。

私は――――この両手を、赤く染め上げる事に。嫌だと感じた事は、一度も無い。

寧ろ、銃を構える感覚。銃口を向け、命を奪うという――――その感覚によって。

貴方の腕で抱かれる時とは、また別の『快感』が私の全身を駆け巡る。

隠されていた『狂気』が、目覚めてしまうの。

私は諦めにも似た笑みを浮かべて、「そう」とだけ告げる。

――――怖い?私が

一瞬だけ瞠目した男は、「ああ」と首を縦に振り。

――――怖い

真摯な表情で、正直な言葉を述べて来る。

男のこういう所が、私はとても好きだ。

怯む事も無く、媚びる事もせず――――正面から、ぶつかって来る所が。

「だが」

「何?」

NO.1ホストの異名を取る、金髪美形の男は。

真顔で――――こちらに、近づいて来ると。

スラックスのポケットに捻じ込んでいた、両手を徐ろに出し。

私の身体を、引き寄せる。

――――それ以上に、綺麗だった

珍しく抵抗しない私を良い事に、金時は両腕に力を篭めて来る。

身体を拘束されながらも、自由に効く左腕を持ち上げて。

そっと男の胸板に、掌を当て頬を委ねた。

己の右耳の鼓膜には、男の心臓の脈が確かに届けられている。

「―――――『人殺し』の、顔なのに?」

「奴さんには悪いが、嫉妬しちまったよ。オレにはあんな顔、向けてくれねえくせにってな
・・・・・場違いだとは、思ったが」

「馬鹿ね、当然でしょ?見せる気なんか、全然無いわ」

「即答かよ。酷いね、『オーナー』」

当たり前よ―――――狂気に囚われた、私の笑顔なんて。

貴方には、見せたくないもの。

「・・・・だったら。私を裏切ってみる?」

「オレが出来る訳ねえだろ、んな事。分かってるくせに」

喉元を鳴らして笑うと端正な顔立ちに苦笑いを浮かばせて、私の顎に右手の親指を掛けて来る。

ええ、知ってるわ。貴方は私を絶対に、裏切らない事は。

確証は無いけれど・・・・・何故か、そう思える。

――――ああ、でも。あの笑顔を向けてくれるんなら、オレ死んでも良いかも

お互いの顔が徐々に近づき、吐息が唇に触れ合い始め。

「言ったでしょ?見せる気無いって」

「・・・・それじゃあ。ベットの上は?」

「それは――――貴方の――――」






『努力次第』と紡ごうとした言葉は、男の唇に吸い込まれていた。









※申し訳ありません。何だか脈略の無い話になってしまいました・・・・・・ORZ
・・・・・最近、本当スランプ気味と痛感しております。←駄目じゃねえか。
この様な駄文に目を通して下さり、真に有難うございました。





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