いつまでも、二人の関係は。

変わらないって、思っていた。





彼は友達





「――――ふう〜・・・・懐かしいアルナ」

掛けていたゴーグルを外せば、茶色一色だった視界が。

鮮やかな色彩へと、一転する。

銀河ターミナルの内装も、『地球』を後にした当時のまんま。

何ら、変わり映えもしていない。

父親と同じ『肩書き』を背負う事に決めて、『出航』したのが数年前。

今では『一人前』と禿げ親父から、お墨付きを貰う程にまでなった。

そんな成長した私を労っての事か、父親の方から珍しくこんな言葉を言って来たのだ。

『宿り木に、顔出して来い』と。

一瞬何の事か分からず、首を傾げてしまったのだが。

『地球へ、行って来い』

そう言ってくれたのだと、直後に気付いた。

なら・・・・・お言葉に甘えてと、数年ぶりにこの『地球』に帰還したのである。

銀河の出入り口を後にし、私は一目散にとある場所へと向かった。

『万事屋 銀ちゃん』

私の憩いの場であり、安らぎの場であった場所。

そして――――この場を拠点とする、2人と1匹。

銀髪の、マダオ侍。

アイドルオタクの、ダメガネ。

愛くるしい、白い巨大犬。

・・・・逢うの凄く、久し振りネ。

戻って来たと知ったら、どんな顔するんだろう?

間の抜けた顔をしながら、最大限に瞳を見開いて。

大声を解き放つ――――二人のダメ男が、容易に想像出来てしまい。

思わず両頬が、緩むのを感じる。

きっと定春は、突進して来るんだろうな。

早く・・・・・早く、逢いたい。

逸る気持ちを胸に、『かぶき町』界隈を―――息堰駆けて行く。

「あ!」

――――――と。遥か前方に、見慣れた全身像。

銀色の髪・着流しにブーツ・腰に納めている木刀。

忘れる訳が、無い。

まさか、こんなにも早く――――出逢えるとは思わなかった。

駆けていた両足を更に力を篭めて、地面を蹴り上げる。

銀ちゃん!!

名を呼ばれた男は一瞬だけ、身体を硬直させたが。

顔だけこちらを向けて、視線を私に合わせた。

視線が合わさった瞬間、銀髪侍はやはり予想通りのリアクションをしてくれる。

死んだ魚の様なと揶揄された、2つの瞳は最大限に開かれていき。

か・・・神楽ああああ!?

間の抜けた表情を浮かべたまま、私の名を大声で周囲に響かせた。

――――期待通りの反応、有難うネ。

後一歩という所で、男の前で立ち止まり。

鼻息鳴らし、右手を掲げて笑顔を向ける。

「よお、マダオ侍。元気してたアルカ?」

「・・・・おっ・・・・お前。何時、戻って来たんだよ?」

「うん?今さっきヨ。――――所で、こんな場所で何してるネ?」

「あっ・・・・ああ。ちょい――――」

そう言うとバツの悪そうに、私から視線を慌てて逸らす。

付け加えて、歯切れの悪い返答。

怪訝に感じつつも、「どうした?」と声を掛けようとした―――その時。

「ごめんなさい、銀時さん。お待たせしちゃって」

男の背後から、綺麗な声色が両耳に届けられる。

銀ちゃんは肩越しに振り向くと、「いんや、別に」と返答した。

・・・・・ダレ?この女性。

『おしとやかで上品』と表現するのが、一番良いのではなかろうか。

例えるなら、『深窓の令嬢』・・・・・この言葉が、ぴったり来る。

肌理の細かい、陶磁の様に白い肌。

その肌に一層映える、群青色の着物。

銀髪男が羨ましがりそうな程の細く直毛な髪を、後頭部の上辺りで一つに纏めている。

けばけばしさも無く、自然体の化粧を施しており。

これらは女性の美しさを、更に際立てていた。

「――――あら?こちらの方は?」

女性は眼前の男から、視線を私に移動させると。

小さな歩幅で、銀ちゃんの隣に立ち並んだ。

「以前、話したろ?――――万事屋の、『元従業員』」

「まあ!じゃあ・・・・貴女が、神楽さんなのね?」

女性は一瞬だけ、銀ちゃんの方へと視線を動かしたが。

また私の方へと、2つの黒い瞳を戻して。

嬉しそうに自身の顎の辺りで、両手を合わせると。

「銀時さんから、話しは聞いてたんです。一度お会いしたと、思ってましたわ」

・・・・っていうか。何でこんなに、銀ちゃんに馴れ馴れしいんだろう?

「・・・・・・・」

―――――考えていた事が、面に出てしまっていたのか。

女性は慌てて、両手を解き。

「ごめんなさい!自己紹介、まだでしたね」

「・・・・・・はあ」

それもあるけど、この男とは。一体、どんな関係なのヨ?

『依頼人』?

『万事屋 銀ちゃんの新従業員』?

オレの、彼女

右手の人差し指で、鼻頭を2・3度掻きながらぽつりと呟かれ。

へえ、彼女―――――え?今、何つった?コイツ。

聞き間違いかと思い、両手の小指を使って両耳の穴をこれでもかと穿り。

「もう一回、言って。銀ちゃん」

私の態度に不満を感じたのか、眉間に皺を寄せて再度口を開き。

「だから!か・の・じょ!付き合ってんだよ、オレ達」

・・・・・う・・・・・・そ・・・・・・?

今度は私が最大限に、瞳を開く番だった。

呆然状態のまま、視線を銀髪男から・・・・・彼女へと視線を移す。

『彼女』と紹介された女性は、綺麗な笑顔を向けた。

私の知らない、綺麗な女性―――――。

―――――この女性が、銀ちゃんの彼女。

そして隣に立ち並ぶ女性を、優しく見つめる銀髪侍。

・・・・・私にも、そんな瞳・・・・向けてくれる事無かったのに。

『万事屋』に滞在していたあの頃は、とても騒がしくて。

二人揃って馬鹿やっては、新八に怒鳴られて。

『恋』とか『愛』とか、そんなの全然―――関係無くて。

とにかく毎日が、楽しかったの。

「名前は――――」

少し照れた態で、男が彼女の名を口から紡いでいく。

「宜しく、神楽さん」

再び綺麗な笑顔を向けられて、私は頷くしかなかった。

ああ・・・・・そうか。

もう私は、銀ちゃんの隣には立てないんだネ。

其処は、彼女さんの居場所だから。

――――何だろう。少し・・・・いや、だいぶ。

『寂しい』。

――――そんな気が、する。

当然か・・・・あの頃の二人には、もう戻れないのだから。

内心苦笑いしながら、気持ちを悟られぬ様に。

いつもの憎まれ口を、利いてやった。

「幸せそうな、顔しやがって――――なんちゅう、だらしの無い馬鹿面アルカ」

「なっ・・・・!うるせー!余計なお世話だ、コンチクショー!」

私達の会話を見守りつつ、笑いを堪えている彼女。

良かったネ、銀ちゃん。良い人に、巡り逢えて。

「お前、これからどうすんだ?ウチに、寄ってく?」

「恋人同士の甘い時間を邪魔する程、私は意地悪な女じゃないアル。
―――他に寄りたい所もあるし。此処でおさらばヨ」

「お〜お。殊勝な、お言葉。見ない間に、かなり成長したねえ。お前も」

「ふっふ〜ん♪良い女に、なったロ?」

上半身を僅かに後ろへ逸らし、腰に両手を当てる。

ああ。良い女に、なったな

――――てっきり、否定されるかと思ってたのに。

優しい眼差しをこちらに向けて、是を口にする。

でも――――彼女に向ける眼差しとは、全く違ったモノ。

「それじゃあナ、お二人さん」

「またな。今度帰還した時は、寄ってけや。茶くらいは、出してやっから」

「茶は、当然の事ヨ。それよりも茶菓子を大量に購入して、戸棚にでも確保しておくヨロシ」

「――――いつまで経っても、食い意地が張ってんなあ」

「うるっさい!」

数分後――――他愛の無い会話をして、二人と別れ。

動かしていた両足を止めて、肩越しに振り返れば。

以前の私の様に、銀髪男に寄り添う彼女。

傍目から見ても、普通の『恋人同士』だった。

胸に込み上げてくる、苦い感情を無理矢理押し込んで。

お幸せに

二人の背中へ、短い言葉を贈った。






もう――――でも父親でも、兄でも無い。

保護者でも、雇用主でも無い。

そう、彼は。

私の大事な、『友達』。





※書いた自分が言うのもなんですが。銀さんには、神楽ちゃんしか有り得ませんからあ!
しかし・・・・ドリカム4rdアルバムの初っ端が、これって・・・・・ORZ申し訳ありません。
この様な駄文に目を通して下さり、真に有難うございました。

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背景画像は なつる様が運営される「空に咲く花」様よりお借りしました。