カ・タ・ガ・キ
いつまでも、『ずっと一緒に』なんて事。
出来る訳も無いし、口に出せる訳も無い。
以前『地球』へ、来訪したパピーは。
私の意志を尊重してくれて、再び『万事屋』に身を置く事は出来たけど。
今度は己の意思で、此処を出て行く事になるのは必然で。
幼少の頃から、『えいりあんはんたー』になる事を夢見ていたし。
もしそうなら、『地球』に留まるなんて許されない。
銀河に広がる惑星達を渡り歩いて、獲物を狩らねばならないのだから。
・・・・・・でも、本当は。
この居心地の良い空間に、どっぷりと漬かって。
尚且つ家主のマダオ侍との、共同生活を楽しんでいたかった。
父親でもない、兄でもない。
赤の他人なのに、心許せる存在。
第一印象は、あまり良くなかったものの。
一つ屋根の下、一緒に暮らしていれば。
男なりの性格が、段々分かって来て。
いつしか私の、視界と心臓は――――銀髪の侍の虜になっていた。
どうしようもない、ぐうたらな昼行灯なくせして。
けれど己の信念は曲げず、粋で真っ直ぐな生き方をする。
そんなの・・・・・惚れない方が、おかしい。
特に間近で見ていたら、尚更の事だ。
己の気持ちに気付いてから、『万事屋』が離れがたくなってるのが分かる。
年を重ねる毎に、どんどん強くなってるのも。
――――でも、家主は。
まるで私の心を見透かす様に、にべもなく言ったのだ。
『お前はこんな所で、大人しく出来る様な奴じゃねえだろが』
・・・・・うん。
『えいりあんはんたーになるのが、夢だったんだろ?あの禿げオヤジみてえな』
・・・・・うん。
でもね・・・・まだ――――貴方と一緒にいたい、気持ちもあるんだヨ。
『なれるさ。お前なら―――立派な、はんたーに』
―――――有難うって、言いたかったのに。
口は固く閉じられたままで、何も言葉を返せなかった。
・・・・・一瞬だけ。
これから己が背負おうとする、『えいりあんはんたー』と言う名の肩書きを。
無くせれば良いのにって。
そうすれば、貴方とこれからも一緒にいられるんじゃないかって。
そんな事を、考えてしまった。
――――でも。そんな考えを吹っ切らせるかの様に。
『行って来い、神楽』
ああ・・・・そうやって、貴方は。
未だ迷う私の背中を、押してくれたんだネ。
引き止めの言葉は、出て来ないって分かってたけど。
心の何処かで「行くな」って、言って欲しかった。
顔を仰げば、闇夜に存在を示す恒星達の群。
あの空の向こうに、自分の知らない世界がある。
視界を元に戻せば、遠方に煌く不夜城のネオン。
見飽きたと思われた景色も、今夜で見納めになる。
そう思えば、胸中に湧き上がる―――言葉にし難い、感情達。
――――明日。私は。
この、住み慣れた惑星を抜け出して。
『えいりあんはんたー』の肩書きを背負い、銀河の大海原へと旅立つ。
せめて・・・・見送りの時―――泣き出さない様に。
どうか、笑っていられます様に。
瓦屋根に腰掛けていた身体を、ゆっくりと立ち上がらせて。
少し冷たい空気を、思い切り肺に押し込む。
銀髪の男を脳裏に思い浮かべながら、ずっと言えなかった言葉を。
「 」
二酸化炭素と一緒に、吐き出して。
潤んだ視界を誤魔化す為、両目を瞑り夜風に身を任せた。
さよなら、『万事屋』の私。