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週に一度の恋人 ※金神設定



閉店後のドアノブを捻り、外の世界へと足を踏み入れれば。
朝を告げる光が、自分自身を照らし出した。
 
あんだけ賑やかだった、界隈は――――沈黙を守っていて。
眠らない街と称される『不夜城』も、ひょっとしたらこの時間帯だけは。
静かに寝息を、立てているのかも知れない。
 
――――そして。
 
『ホスト』の肩書きを下ろし終えたオレは、ただの坂田金時になる。
胸ポケに手を突っ込み、職業柄手放せない『道具』を取り出して。
 
今はまだ眠りの世界を漂っていると思われる、我が愛しの上司のナンバーを。
ディスプレイに表示させて、通話ボタンをおした。
 
・・・・1・・・・2・・・・・3コール目。
 
『――――はい』
 
若干寝惚け風の声が、右耳の鼓膜を刺激する。
決してオレの心を離さない――――魅惑的な声色だ。
 
「グッモ~ニン♪貴女の愛しい、恋人ですよお~」
 
『・・・・その声・・・・金時?』
 
眠りを邪魔され、聊か不機嫌な応答が戻って来る。
――――だが、それも全く気にならない。
 
「YES。モーニングコールが、オレの声なんて目覚め最高だろ?」
 
冗談半分本気半分の問い掛けに対し、通話相手は思い切り流してくれた。
 
『――――仕事は・・・・・ああ、そうか。もうこんな時間なのね』
 
受話器越しから微かに、衣擦れの音が聞こえて来る。
恐らく横たえていた身体を、起き上がらせたに違いない。
 
「今から、そっち向かおうと思ってんだけど」
 
数秒の沈黙の後、呆れた声が戻って来た。
 
『―――――仕事明けでしょ?家に戻って、眠ったら?』
 
「冗談。やあっと、お待ちかねの日なんだぜ?眠ってなんか、いられるかっての」
 
―――――本日、週真ん中の水曜日。
週に一度・・・・この類まれなる美貌の女と、一緒に時間を過ごせる希少な日。

出勤明けで、身体は疲れて眠かろうが。
愛しい女に逢えた瞬間、そんな些細なモンは一気に吹き飛んでしまうってもんだ。
 
オレとしては毎日逢っても、苦では無いんだが。
「干渉されるの嫌いなの」と、惚れた女が言うのだから仕方ない。
 
ならば・・・・週に一度くらいならと半ば強引に説得し、渋々頷かせた訳だ。
『ホスト』のオーナー兼、裏の顔を持つ声の主は。
自分の自由時間も取れない程、忙しい日々を送っている為。
 
ならばせめて、オレと一緒にいる日くらいは――――心身を癒してやりたいじゃないか。
・・・・・・本人曰く『余計に疲れる』そうだが。
 
電話越しの向こうからは、盛大な溜息が聞こえて来る。
 
『――――ったく。了承するんじゃなかったわ』
 
「おんやあ?それはないんじゃない?No.1ホストが、心底おたくに惚れてるってのに」
 
もしこんな職業ついてなけりゃあ、どんなに美人で金持ちだろうが相手にしないって。
『ホスト』の肩書き&店の売り上げ貢献があるから、客達には良い顔してやってるだけで。
 
本当に捧げたい甘い言葉や、仕草や行動は――――この電話の相手だけ。
 
『それはどうも。光栄に至るわね』
 
――――感情の篭らない、返答に思わず苦笑い。
いつになったらオレのこの気持ちを、本気にしてくれるやら。
 
「オレがそっち行くまで、もう一眠りしてれば?」
 
この台詞を口にした途端、不機嫌な声色で。
 
『嫌よ。どうせ寝てたって、邪魔されるだけだもの』
 
「あらら~。結構根に持たれてんなあ。仕方ねえだろお?
あんな無防備の寝顔、見せられたら。男なら誰だって、欲情しちゃいますよ」
 
――――更にその先の顔見せられたら、もう制御効かないって。
 
『馬鹿』
 
「馬鹿な野郎の方が、扱いやすくて良いだろ?」
 
『貴方以外、ならね』
 
「つれないお言葉だな。まあ、そこもまた魅力的なんだけど♪
――――んじゃ、そろそろ切るぜ?鍵はいつもの場所・・・・・だろ?」
 
この後数回会話を重ねて、オレは通話OFFのボタンを押した。
携帯を胸ポケに戻し、両手をスラックスに収める。
 
先程よりも高くなった、黄金色の球体を見つめつつ。
鼻唄しながら、目的地である都内一等区を目指す為。
静まった街中を軽い足取りで歩き、地下鉄を目指した。
 
今は週に一度の、『恋人』だが。
 
いずれはお前が、オレを毎日必要とする時が来るまで。
――――粘って、粘り倒してやろうじゃないか。
 
「オレってば、こう見えて。結構しぶといよ?」
 
簡単に手に入らないからこそ、惹きつけて止まないのだ。


※1STのドリカムアルバムの、「週に一度の恋人」のタイトルで銀神小説です。
ちなみに、設定は「金魂」になっております。ウチの金時は、神楽ちゃんに心底惚れてますので。
どうぞ宜しくお願い致します。
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