三日月



『いつか私が、地球を離れたら』


珍しく依頼が『万事屋』に入り。
オレ・新八・神楽の三人で、依頼主に課せられた仕事を終わらせたが。

頭上に輝いていた、太陽はもう顔を隠し。
代わりに、三日月が夜の空を照らしていた。

新八とは途中で、別れ。
神楽と二人、我が家を目指し歩く。

数歩先を歩く神楽が、ぴたりと両足を止めた。
と思ったら。

夜道を照らす、三日月に視線を向けて。
小さな声で、こんな事を言った。

「ねえ、銀ちゃん」

―――――うん?」

再び歩き出す神楽の背中を見つめながら、先を促し。

「いつか・・・私が『地球』を離れた時は――――

―――――――

「昼でも夜でも良いから『空』を見て欲しいアル」

振り向く事もせず、淡々と語られる言葉。

「私は――――どの『惑星』にいても、『地球(ここ)』が見える限り
銀ちゃん達の事を思って、ずっと見つめてるヨ。
『地球』という星が、私達を繋げてくれるネ」


――――――――

何でいきなりそんな事を?
黙り込むオレに対して、神楽は肩越しに振り向き。

「ね?」

首を傾げて、笑顔を浮かべて。
小さい左手の小指を、オレに差し出し。

「約束アル」

何て事ない―――――ただの約束事。
それなのに・・・・手を差し出せない、自分がいる。

――――
分かってる。分かってんだよ、そんなこたあ。
コイツはいつか――――いつの日にか、オレ達から離れて。

自分の父親と共に『えいりあんはんた−』となる夢を抱え。
『地球』と言う狭い世界を抜け、『大宇宙』へと旅立つ。

・・・・理解してた――――筈だろ?

何を今更、躊躇する事がある?
同じ様に小指差し出して、「ああ」と一返事ですりゃあ良い。
―――――
それだけの事じゃねえか。

―――――――――

それだけの事・・・なのに。

「銀ちゃん?」

覗き込まれた2つの碧眼から、有無を言えない情けない男の顔を映し出している。
無意識に差し出した右腕は細い小指をすり抜け、小さく華奢な身体を引き寄せて。

―――――――!?」

一瞬だけ硬直した、神楽を・・・・強く包み込む。

「ぎ・・・んちゃ――――

―――――悪ィ。暫く・・・こうさせてくれや」

自分でもどうして――――こんな事をしてるのか、分からない。
10以上も離れたガキを、抱き締めているなんて。
でも―――そんな事は、この際どうでも良い。

「銀ちゃん・・・?泣いてる・・・の?」

――――てねえよ」

ただ――――お前の体温を、感じていたいだけ。

「・・・・・銀ちゃんが泣きそうになったら、こうして抱き締めてあげるヨ」

―――――
ソレハ・・・イツマデ?
イツマデ・・・・オマエハ。

思わず口に出そうになったのを、喉元に追いやって。
神楽から両腕を離し、容の良いデコを指で軽く弾く。

「ば〜か。銀さんを見くびってんじゃねえぞ?そこまで弱くありませ〜ん。
ガキに心配されなくても、平気ですぅ〜」


弾かれたデコを両手で押さえ両頬を膨らませて、
「ガキ扱いすんじゃねえヨ。ダメ天パマダオが」と辛辣な口調を浴びせて来る。

そんな様子を見ながら、笑みを浮かべて。

―――――
なあ神楽。オレはお前の夢を潰す様な、野郎にだけは絶対に。
絶対になりたくないんだよ。―――笑顔でお前を送りだしたいんだよ。
けれど・・・・まだそこまでの勇気が、余裕が出来ていないのも事実で。

『クソガキ』には、てんで興味が無かったのに。
何時の間に、オレの心にでかく居座りやがったんだ?てめえは。

でも―――――決して口には出さねえよ。
男が廃る様な真似は、死んでもしたくない。

―――――さて、家路に向かいますか」

お前がしたがってた約束はまた・・・オレに余裕が出来た時にでも、言ってくれ。

神楽の左手を取り再び、オレ達の『我が家』へと足を向ける。
背後から

―――三日月の明かりが、オレ達を包みこんでいた。


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※写真素材 管理人なつる様が運営されいる SITE名:空に咲く花様より お借りしました



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