MIRACULOUS MEET


和室に寝転び、たまにはのんびり過ごそうと。
うつ伏せになって、ごろ寝をしていたら。

良い感じに眠くなり。
両瞼が、閉じられそうになった。

――――
その時。

背中に衝撃が加わり、途端身体が重くなる。
思わず鯱の様に、仰け反ってしまった。

――――うがっ!」

「銀ちゃん!ね、ね!これ、見て!」

オレの上に、飛び乗って来た酢昆布娘。
左手に何故か、カレンダーを持っている。

嬉しそうに、今日の日付を指差しながら。
繰り返し「見ろ」の言葉を発していて。

「な〜んですか?神楽ちゃん。あのね?銀さん眠いの。お願いだから、寝かせて?」

背中に跨る神楽を、無視して再度眠ろうと試みた。

・・・・・が。

オレの言葉を、理解してくれない娘は。

「いーから!これ、見るヨロシ!」

馬鹿力で、オレの顎を捉え。
無理矢理、顔を向けようとするもんだから。
首筋が、ピリピリと痛み出す。

「いてっ!いててててっ!ちょっ・・・ちょ、待て!首ちぎれる、首!」

この抗議に、神楽は。

「人の話を聞かないから、いけないネ」

そう言って、捉えていた顎を離した。

仕方なく起き上がり、左手で痛む首筋を摩りながら。

―――何なのよ?」

「だから、これ!」

再びカレンダーを、眼前に差し出され。
今日の日付に、指を差す。

「これって・・・言われてもよぉ。訳分かんないんですけど?」

眉間に皺を寄せ、口を開く。
誰かの誕生日って、訳でも無さそうだし。

さっきから「これ」ばかりじゃねえか。
ちゃんと、趣旨を話せっての。

「銀ちゃん・・・覚えてないの?」

突然、神楽が。
整った両眉を八の字にさせ、ぽつりと静かに呟く。

――――私と、銀ちゃんが。初めて会った日アル」

「・・・・・・・」

――――
そう言えば。

愛車のべスパのケツに、新八乗せて走ってたら。

オレがコイツを、轢いちまったんだっけ。

主人公が人身事故を起こすって、普通・・・・有り得ねえよなあ。

つうか・・・・さ。

オレ的には。
いくら無事だったとはいえ。

―――
後味が、悪いと言うか。
出来れば、早く忘れて欲しいみたいな?
なのに。

「・・・ずっと、覚えてたのか?」

「うん」

即答デスカ。
ひょっとして・・・・まだ根に持たれてんのか?と、思いつつ。
「何で?」と、質問を続けようとしたら。

「だって。銀ちゃんに、出逢えた日だから」

「?」

手にしたカレンダーを、大事そうに持ち。

「この広い世界で、出逢えるって。『奇跡』に近いアル」

――――――――

―――――
ああ、そうだよな。
星の数程、男と女がいるってのに。
その中で、オレ等はある意味。

『衝撃的出逢い』を、果たした。
にっこり微笑む、神楽に。
思わず頭に軽く右手を置いて、「そっか」と答えた。

出逢った時の事を、根に持っていた訳じゃなく。
ただ――――
二人の出逢いの日を、伝えたかっただけなのか。

「銀ちゃんは?」

「ん?」

「銀ちゃんは、大事じゃないの?」

質問されたその言葉に、頭に置いていた右手で。
親指と中指で輪っかを作り、容の良いオデコに持っていき。

「ば〜か」と軽く、弾く。

――――?」

弾かれたオデコに、左手を添えきょとんとした神楽に。
意地の悪い、笑みを向けて返答をした。

「教えてあげませ〜ん」

「む!?何でヨ!?」

純粋でストレートに、気持ちを伝えられるお前と違って。
オレは出来る様な、男じゃない。
ましてや、面と面向かってなんて。

だから。

「教えろ」と連呼する、神楽の細腕を。
右手で掴んで、華奢な身体を引き寄せる。

――――銀ちゃん?」

「・・・・これで、悟ってくんない?」

言葉の変わりに、力強く抱き締めて。

「・・・分かりにくいアル」

「あ・・・やっぱり?」

「嘘ヨ。ちゃんと、伝わってるネ」

クスクスと笑いながら、神楽の両腕が背中に回された。
二つの体温を互いに感じながら、顔を見合わせれば。
同時に浮かぶ、笑顔。

お前に出逢えた、この奇跡に。
オレも心から大事にし、そして感謝をするよ。



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