ONE SECOND KISS
見上げる、その碧眼から。
驚きと恐れの混じった、視線が投げ掛けられる。
それに応えるかの様に、己の唇の両端を上げれば。
身体を硬直させて―――――綺麗な眉が、八の字に変わる。
「何で?どうして?」って、顔してるけど。
あれだけ口酸っぱく、『野郎は獣』と教えたのに。
無防備に、なるのがいけないんだよ。
―――――オレだって、『獣』なんだから。
・・・・・なあ?気付いてたか?
お前がなんだかんだ言いながら、信頼してる目の前の男は。
以前からずっと、理性と忍耐の二文字を張り巡らせていたんだ。
オレの名を呼ぶ、その甲高い声と容の良い唇。
綺麗な空色で見つめて来る、その瞳。
日焼けを知らない陶磁の様な、白い肌と華奢な身体。
風呂上りの、少し紅く染まった肌。
サラサラと靡く、その細い髪。
―――――お前を取り巻く全てが、狂おしい程に。
オレの心を、占領してるんだよ。
これでも出来るだけ、考えない様にしてたんだぜ?
だって・・・・そうだろ?
10以上も、離れた『ガキ』に。
『男』の怖さなんて知らなそうな、純粋培養な『クソガキ』に。
―――――懸想しちまうなんて。
―――――全てを欲してしまうなんて。
自分の考えを否定したくて、酒にギャンブルに逃げたけど。
んなモンよくよく考えりゃ、無理に決まってんだよなあ?
だってお前は、『万事屋』に、いるんだもん。
オレの居場所であって、お前の居場所でもあるんだもん。
逃れられる訳が、ねえんだよな。
――――だから、もう。逃げるの、止めたわ。
お前の名を呼んで、右手で「おいで」のジェスチャーをすれば。
猜疑心の欠片も無く、「何?」と傍に来た少女。
見掛け倒しの細い右腕を捕らえて、一気に引き寄せる。
突然の出来事に上げられた、驚きの声を無視して。
両肩を掴み、長椅子の背凭れに押し付け。
事態が飲み込めない態の、お団子頭の娘へ。
徐々に顔を近づければ、大きく見開かれた蒼眼に。
真顔の表情をした、自分の姿が映り。
オレの名前を紡ごうとした、淡い桜色した唇へと。
・・・・・一瞬だけ、触れた。
『一秒の
己の―――――胸の内で、湧き上がる感情に。
もう押さえが、利きそうに無い。
時計の長針と短針は、深夜の時を告げたばかり。
静かな室内には、秒針を奏でる音だけが響く。
さあ?どうする?
この先の扉を―――――抉じ開けてしまおうか。
微かに震える目の前の少女の殻を、壊してしまおうか。
オレが怖い?知らない人みたい?
でもな?
いずれその怯えと、困惑を交えた顔が。
オレを煽り立てる―――――扇情的な表情に変貌するから。
どんなに罵声を浴びせても。
どんなに抵抗しようとも、断言しても良い。
次の接吻で、お前は崩れるよ?