夕飯も終えて、長椅子に寛ぎ。
ゴールデンタイム枠に配置されている、民放の連続ドラマを。
酢昆布を齧りつつ視線を、ブラウン管へと送るチャイナ娘。
画面では、主役らしき男女。
まあ―――――大抵ストーリー的には。
お互い気になる存在の癖に、感情を表には出せない関係。
プラス・・・・必ず三角関係か四角関係に発展するが。
最後には、気持伝えてハッピーエンド。
正直展開は、分かりきっている。
結構・・・・・この手のドラマって、飽きもせず繰り返されるんだよな。
どうせだったら、ピン子並みのドラマを放映してくれっての。
まだその方が、見ごたえあるってのに。
何か他に面白そうな番組がやっていないか、リモコンを手にしチャンネルを変えようとしたら。
熱心に見ていた少女に、「変えるナ!」と豪語されてしまった。
つうか一応、家主はオレなんですケド?
そう返答しようとしたが、酢昆布娘は再びドラマの世界へと旅立ってしまう。
「ふわあ〜・・・・・・」
仕方なく二の腕を頭上に掲げて、伸びをしながら視線を同じ方向へ。
「―――――――?」
よくよく見てみれば、このドラマの主人公達って。
随分と年齢の離れた、男女に見えるんだが。
男は20代半ば・・・・ヒロインは――――どう見ても10代じゃね?てか10代半ばじゃね?
「・・・・・・・」
そう言えば以前は『年の差カップル』や『年の差婚』なんて、言葉もブレイクしたよな。
年齢差が10・20離れてる芸能人カップル・新婚夫婦が、ワイドショーで何組も出ててたりして。
・・・・今じゃ、当たり前になってんだもんなあ・・・・。
まあ好きになった相手がたまたま年下だったり、年上だったりだけの事なんだろうけど。
画面は、一旦コマーシャルに突入する。
食い入るように見ていた眼前の少女は、両肩の力を抜いて一息つくと。
肩越しに振り返り、真顔でこう言った。
「男って年齢の離れた異性から、告白されると戸惑うものアルカ?」
「は?」
「だから。10近く離れた女性から、好きと言われたりしたら。戸惑うかって聞いてるネ」
――――――まあた。小難しい質問してきやがって。
思わず、眉間に皴が寄ってしまう。
「・・・・さあ。・・・・人それぞれじゃねえの?嬉しいと感じる野郎もいれば、驚く野郎や戸惑う野郎もいるし。一概には、何とも言えねえよ」
「じゃあ」と再び、小さな唇が動き。
「――――銀ちゃんは、どうなの?」
澄んだ2つの碧眼は、オレの姿を捉えたまま微動だにしない。
「・・・・・え?オレ?」
CMも終え液晶が、ドラマ続映を開始している。
「おい―――――ドラマ。始まって―――――」
折角親切に、教えてやったのに。
「銀ちゃんは?嬉しいと思う?それとも、戸惑う?」
あんな熱心に見ていたドラマには、目もくれず。
オレの言葉を、待っている。
室内にはブラウン管から聞こえてくる、役者達の声が響いていた。
―――――何で、そんな真剣な顔してんの?
普段とは違う神楽の態度を、怪訝に思いつつも返事。
「・・・・戸惑う・・・・かな?」
「・・・・戸惑う・・・・アルカ」
オレの返答に少女の声は、途端に力を無くす。
「いやあ、実際経験したこたあねえから。・・・・その場にならないと、分かんねえけど。もしかしたら、予想反して・・・・嬉しいと思っちまったりするかも。好きと言われれば、悪い気しないもんな」
「どっちだヨ?はっきりしねーナ。優柔決め込みやがって。だからお前はモテない、マダオなんだヨ」
「・・・・マダオはともかく、モテないは余計だ!コンチクショーおおおおお!仕方ないでショ!?此処ン年間銀さん、そういう思いしてないんだから!」
――――――って、あれ?もしかして今、自分の首締めたんじゃね?
「じゃあ!」と先程よりも真剣な表情で、こちらを見つめたと思ったら。
とんでもない事を、口から言い始めやがった。
「もしも姐御から、告白されたらどうアルカ!?」
・・・・姐御って・・・・新八の・・・・姉の?
「お妙の事?」
「他に、誰がいるってんだヨ?」
――――身体から、生気が抜けてく感覚がする。
「おいおいおい・・・・頼むよ〜。そんな空恐ろしい事、言うなって。あんなゴリラに育てられた娘から、告られたって悲しいだけだろ」
瞼の裏で額に血管を浮かべ、『フザケンナ』と高々に叫ぶダメガネ少年の顔が浮かんだ。
「―――――嬉しくないの?姐御は美人だし、常に毅然としていてカッコイイアル。歳相応にはとても見えない程、落ち着いてるし」
「そんな風に思える野郎は、お前と真選組のゴリラくらいしかいねえよ」
オレにとっちゃ、最凶最悪の人物だしね?
「・・・・・じゃあ、もしも」
「ああ?まだあんの?――――何?」
盛大に溜め息を吐きながら、仕方なく続きの言葉を促す。
「さっちゃんから、告白されたら?」
「・・・・・・・・」
今度はあのドM女を、取り上げて来やがったか。
「銀ちゃんの事を、ひたすら思い続けて気持を打ち明けてるネ。容姿だって、姐御と為を張るし」
「―――――あの女を好いていたら、既に気持を受け止めてやってるっての。相手からのアプローチをわざわざ無碍にする程、オレも馬鹿じゃない。でも残念ですがそんな気は、さらっさらありません」
「・・・・・・・・」
神楽はオレの返答に口を閉ざし、思案顔を浮かべる。
この後更にキャサリンとかババアとか、出してきやがったら。
流石の銀さんも、キレさせて頂キマスヨ?
数分の沈黙の後・・・四度目の「じゃあ」が口から述べられた。
目の前に腰を下ろしていた身体を、立ち上がらせ両足をこちらに向かわせると。
オレの隣に、再び腰掛けた。
次の言葉が両耳に届くまで、間が置かれ。
意を決した様に、一言。
「――――――私は?」
――――――はい?
「・・・・・私から、告白されたら?銀ちゃん・・・・どう思うアル?」
今度は本人?・・・・どう答えろってのよ。
「どう・・・・思うネ?」
俯かせていた顔を、ゆっくりと上げて。
整った両眉を八の字にさせ、潤んだ瞳を向けられる。
白い顔は、仄かに桜色に染まり始めた。
「―――――――――!」
―――――無意識に、鼓動が一瞬高鳴り。
・・・・・ちょっ・・・・待て待て!何これ!?
目の前にいるのは、ガキ・大食い・毒舌の神楽だろ!
何時の間に、こんな表情する様になった訳!?
いつもと勝手違う酢昆布娘に、思わず慌てふためく自分がいる。
「やっぱり・・・・10近くも離れてると。そういう対象には、見て貰えないアルカ?」
しかも、視線が外せない。
「え?」
「――――そう・・・・だよネ。無理に決まってるよネ」
哀愁を帯びた表情を浮かべて、ぽつりと呟く。
――――――こいつ、本当に神楽!?
「いやっ!別にそんな事、一言も言ってねえだろ!?」
つい思わず口が先走り、自分でも驚く言葉を吐いてしまった。
・・・・・待て待て、銀時。冷静になれ?お前はロリコンでは無い筈だ。
好みのタイプはお目覚めテレビの、お天気キャスター『結野アナ』デショ!?
容姿端麗・スタイル抜群の大人の女性を、求めていた筈デショ!?
脳内でもう一人の自分が、声を荒げて反論している。
「じゃあ・・・・嬉しい!?」
急に顔を近づけられ、鼻先と鼻先が触れ合いそうな勢い。
お陰で思考回路は、断線気味。
嬉しい・・・・ガキ・・・・・嬉しい・・・・大食い・・・・嬉しい・・・・毒舌。
―――――と交互に。胸中に宿る、感情の螺旋。
「銀ちゃん!?人の話し、聞いてるカ!?」
「・・・・・・・・」
両頬に影を落とす長い睫は、僅かに震えている。
―――――ひょっとして、緊張してんのか。
渦巻いていた感情とは別に、疑問が自然に湧き上がる。
陶磁のような肌理の細かい、白い肌に。
無意識に右腕が上がり、吸い込まれるように。
・・・・・そっと、少女の頬に触れると。
「――――――?」
途端に大きな2つの瞳が、更に開かれた。
「じゃあ・・・・さ。お前は?」
「え?」
「10近くも離れた男に――――告白されたら、どうする?」
――――そう、例えば。
「オレから、だったら」
「・・・・・質問に、答えてねーダロ」
不本意だとばかりに、口を尖らせる神楽。
―――――あ、やっぱり?
「―――――折角、人が勇気を出して!聞いてるって言うのに!」
―――――そんなこたあ、お前の言葉や態度で十分知ってるよ。
「もう、良いアル!」と、傍から離れようとしたので。
見掛け倒しの細い2つの腕を、両手で掴んだ。
「―――――っ!離せヨ!この天パ侍!」
振り解こうと抵抗をみせるが、そうは問屋が卸さない。
「嫌だね。答えるまで、離してやんねーよ」
お妙やさっちゃんを、引き合いに出してまで。
オレの反応が、知りたかったのか。
「私の方が、先だったネ!」
「ちゃあんと、答えてやったでしょお?」
「ちが――――っ!最後の質問――――」
最後まで言い終える内に、酢昆布娘の台詞を遮る。
「お前が」
「?」
「お前がオレの質問に、答えたら。教えてやるよ」
「・・・・・・」
神楽は「う〜」と唸り睨み付け、無言のまま。
「まあ?別に良いってんなら、良いけど?」
「・・・・ずるいアル」
思わずこの台詞に、唇の両端が上がった。
「褒め言葉として、受け取っておこうか」
そう。オレって、ずるい男なんだわ。
答えをくれてやるのは、簡単なんだけど。
――――お前の答えを、先に知りたい訳。
こう見えて・・・・・小心者なんでね?
ぶっちゃけ。確実なモンが、欲しいんですよ。
―――――ところがだ。
両腕を捕らわれた少女は、顔を思い切り背けて「ふん」と口にした。
「・・・・銀ちゃんが、私に告るなんて。天変地異が起きても有り得ないデショ」
「あらら?決め付けは、良くねえんでな〜い?」
のらりくらりと応答する男に、とうとう痺れを切らしたのか。
両眉を吊り上げて、怒声を上げた。
「―――――つうか!どうせガキには、興味ねーんダロ!?勿体ぶってねーで、本音曝け出せヨ。性質悪いアル」
性質が悪いと来ましたか?――――今更だなあ?おい。
「そう言って欲しい?なら、言ってやるけど?」
この言葉に一瞬硬直するも・・・・再び怒声を浴びせられた。
「銀ちゃんのバカ!意地悪!もう知らないネ!」
離れようとして渾身の力が、両腕に加わろうとする。
本気の力を出されると、流石に適うわけもないので。
――――此処は一先ず、先手必勝。
「そんな男を好きになったのは、神楽ちゃんでしょ〜?諦めなさ〜い?」
いかにも『図星』を突かれた表情を、こちらに向けた。
「―――――なっ!?だ、誰がそんな―――――」
お〜お♪真っ赤な顔して、まあ。
「ん?もうね、否定すればする程。自分が苦しくなるんだから。素直になれって」
「フザケンナ!こんな自意識過剰男――――」
おいおい、お次は自意識過剰ってか?
「じゃあ、何であんな質問してきたのよ?」
「そっ、それは・・・・・・」
仰け反った身体を立て直させる為に、華奢な二の腕を引っ張った。
「―――――うわっ!?」
一度は離れた鼻先が、再び向き合う。
「年の差を扱うドラマに、影響されて?」
「・・・・・違う・・・・ヨ。銀ちゃんは――――銀ちゃん的には。年の離れた相手ってどうなのかなって、思っただけ。姐御とかさっちゃんとか・・・・私・・・・とか」
「ふ〜ん・・・・じゃあ、神楽は?年の離れたオレだったら、どう思うんだよ?」
質問内容に瞬間視線を外したが、もう一度碧眼を向けて来ると。
観念した様に小声で、一言。
「―――――嬉しいに、決まってるアル」
「マジでか」
「・・・・マジに取るかどうかは、銀ちゃん次第ネ」
そう言うと神楽は、話はもうお終いと言う態でバツが悪そうに顔を背けた。
それに対して掴んでいた両腕を離し、右手で小さな顎を捉えると。
――――――強引に、こちらに向かせる。
「!?」
どうやら螺旋を描いていた感情が、ようやく底辺に辿り着いたみてえだ。
驚いた表情を浮かべた少女に、己の唇の両端を上げて。
ゆっくりと、口を開いた。
「オレの回答、まだでしょーが?・・・・そうだな――――お前に、告られたら―――」
さあ?お前はこの言葉を、どう受け止める?
※サイト運営再開、第一弾の銀神小説です。
・・・・・相変わらずの駄文で申し訳ありません。←本当にな。
一時期芸能人の年の差カップルやら、年の差婚やらがテレビで挙げられていたのが思い浮かびまして。
書いてみたのが、この小説であります。
つうか・・・・・銀さんと神楽ちゃんの年の差辺りなら、もう当然じゃねえ?くらいの勢いで
キーボードを打ち込んでしまいました。←これも偏に、銀神ファン故。
この様な駄文に目を通して下さり、真に有難うございました。
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