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「銀ちゃん」と、躊躇する事も無く――――身体に触れてくる酢昆布娘。

掌を置かれた部分から、仄かに伝わって来る体温を感じつつ。

わざと眉間に皺を思い切り寄せ、「何だよ?」とさり気無く身動ぎすると。

右腕に触れていた小さな掌は離れ、温もりは外気に晒され消えた。

コイツにとっては、意識の無い自然行為なのだろうが。

オレにとっては、ある意味――――死活問題になる。

頭の中に赤ランプが忙しく、うるせえくらいに・・・・音立てて回ってるんだ。

以前ならこんな本能の赴くまま、生きていそうな娘に。

腕や肩・頭など・・・・まあ一部分を除き。

気軽に触れられても、何ら気にする事は無かった。

ところが・・・・・だ。

何時の頃からかこの身体は、アイツの白く細い手を意識し始めたのだ。

いや正確に言えば、酢昆布娘自身をか。

視覚は、少女の姿を常に捉え。

聴覚は、少女の声を常に意識し。

嗅覚は、少女の香りを探す。

触覚は、少女の感触を求める。

味覚を覗いた、四感は全て――――同居人に、向けられていた。

最初は自分で自分を、疑っちまったよ。

だってよ?このオレがだよ?

容姿端麗・スタイル良しの大人の女性にしか、興味が無かった男がだよ?

いかにも『恋愛』の『れ』の字も知らなそうな、クソガキに。

飲んで食って遊んで寝ると言った、自由気ままなクソガキに。

懸想してるなんて、信じられる?普通。

思わず声を大にして、否定しちゃったもん。

今まで人生振り返って、初めてだったもん。

あんなに動揺しまくって、一人ツッコミしたの。

―――――だが、身体って奴は正直だ。

どんなに感情を否定しようとしたって、反応しちまうもの。

綺麗な2つの碧眼が、向けられて来るだけで。

あの透き通る、甲高い声で名前を呼ばれるだけで。

少女から醸し出される香りに、鼻腔を刺激されただけで。

触れられた場所から、体温を感じるだけで。

オレは、アイツを求めてるのだと。

人間ってのは不思議なモンで、いざ認めちまうと――――強くなる。

周囲から『犯罪』だの『ロリコン』だの、『ポリゴン』だのほざかれようが。

一向に、構いません。本気デスケド、何か?みたいな。

・・・・・一種の、開き直りってヤツだな。

現に今アイツは、未成年だが―――後数年経てば、一端の大人になるしね?

ただ・・・・・問題は、オレの理性が何処まで保てるのか?だ。

まあ――――あのお団子頭が、この気持ちに気付くとは到底思えんが。

一応心ん中ではバリケード、立てたりして。

大変なんだよ?境界線、設けて置かないと。

アイツに対する『獣』が、妙に疼いちまってさ。

どうにか抑えこんでるけど、こればかりは何とも。

いつ飛び出してくるか、分からない。

肩や腕に触れて来る・・・・たった、そんだけの動作だって。

突然檻が開く事になるかも、知れない。

『獣』は、少女の味を知りたくて。

常に涎を垂らしながらチャンスを伺ってる。

でも犯罪者にはなりたくないので、理性と言う名の番人を雇ってるのだが。

なあ、頼むから神楽。

どうかこの境界線を、乗り越えて来ないでくれよ。

もし間違って、一歩踏み出したその時は。

一応大人の男として、間違いがない様に対応するつもりだけどね?

最終的には――――――どうなっても、知らないよ?オレは。


『危険。これより先、立ち入り禁止』



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