「・・・・接吻して・・・・良い?」

夕飯を済まし―――――もう一人の従業員が、家路に向かっている頃。

お互い長椅子に横に並んで、特に面白くも無い番組を見ていた時だった。

不意に思いついた様に、言葉が口から出てきたのは。


接吻


隣の酢昆布娘の反応は、全くといって良いほどの無反応で。

己がもう一度、冒頭の台詞を繰り返した――――その時に。

初めて「え?」と言った、リアクションが戻って来た。

コイツ急に何言ってんだ?と表情に思い切り、出してくれている。

―――――そりゃそうだ。オレだって、何でこんな事言ったのか。

これでもかと大きく見開いた2つの碧眼は、途端に半目となってこちらに向けられた。

「・・・・気でも狂ったカ?自分で言う『ロリコン』少女に向かって、そんな頓珍漢な事を言うなんて」

容の良い桜色の唇から、自分に放たれたのは毒の含んだ言葉。

「これがまた、至って正気なんですよ。んでもって、神楽ちゃんに言った事もね」

ブラウン管から流れるCMを皮切りに、テーブルに置かれたリモコンを手に取りながら。

電源OFFボタンを、右手の人差し指で軽く押す。

突然静まった室内――――拳一個分の距離に腰を下ろしていた酢昆布娘が。

まるで警戒する様に、じりじりと距離を開きオレから離れていく。

「――――欲求不満なら、吉原にでも行って。妓でも買って来いヨ。呑みに行く金くらいあるんだロ?」

つうか――――そんな距離、空けなくったって。

「銀ちゃん好みの妓が、たくさんいるだろうしナ」

幾分怒り口調で言葉を投げつけられ、勢い良く立ち上がろうとした。

そんな少女の見掛け倒しの華奢な腕を、左腕を瞬時に持ち上げて行動を阻止する。

―――――と、同時に。

こちらへ力任せに、引き寄せた。

「うわっ!?」と、奇声を上げ身体のバランスを失った少女は。

当然の如く、オレ自身を目的地に到着する。

瞬時に右手で細い顎に、親指を掛けて――――。

上に向かせたと同時に、桜色の唇へ己自身の唇を重ねた。

・・・・・・想像以上に、柔らかな感触。

ただ男と女の顔の一部が、触れ合っただけだと言うのに。

酢昆布娘の全身が硬直したのが、良く分かる。

2つの碧眼は、死んだ魚の様な瞳をしたオレを映し。

死んだ魚の様な瞳と揶揄された、自身の瞳は大きく見開いた少女の顔を映した。

固まった身体を少し仰け反らせ、驚愕の表情を浮かべ。

オレの顔を凝視したまま、お互いの唇距離――――数ミリ開けた状態で。

「―――――ぎ」

呼び慣れてる名前を、紡ごうと桜色の唇は上下に動こうとしていた。

その隙間を縫い、今度は先程よりも深く重ねてみる。

触れ合った時よりも、それはリアルに感触を伝えて来て。

「んっ!んんっ」

少女の声と共に―――――胸の位置の着流しとシャツ部分に、皺が寄るのを感じた。

押し返そうと思えば、コイツの力なら簡単な筈なのに。

そんな事を、頭の隅に置きながら。

今度は両目を瞑って、柔らかく甘い感覚を味わう事に専念する事にした。

嫌ならオレの身体ごと、弾き飛ばせ良い。

逃げる舌を絡め取る様に、何度も口内を侵す。

「ん・・・・っふう」

苦し気に息を求め、どうにか逃れようとするが。

それを許さず、舌を・・・・歯列を・・・・丁寧に犯していく。

――――ああ・・・・・コイツとの接吻は、何て。

逃げ場を失った酢昆布娘の身体は、長椅子の背凭れからどんどんずれていき。

オレの口撃もあって、殆ど横たわり状態にある。

そっと両目を開ければ、陶磁の様な頬がうっすらと桃色に染まり。

閉じられていた両目からは、煌く一筋の雫。

重ねられた隙間からは、少女の吐息が漏れては色っぽくて艶かしい。

・・・・・参ったね。こりゃ。

深く重ねていた唇を、ゆっくりと引き離せば。

銀の糸が繋がり、重力に引かれて放物線を描いては消えた。

腹式呼吸というよりは、肩で息をしているといった表現が正しい酢昆布娘は。

閉じていた両目を、うっすらと開けて。

「な・・・・に・・・・するネ」

起き上がろうとするも、オレの両腕が囲みとなり行動に移せない。

オレの胸板を押しのけ様つつ、途切れ途切れに言葉を漏らすも。

力がまるで入っていない――――反抗が出来ない様だ。

「言っただろ?接吻しようって」

唇の片端を上げて、再度容の良い唇目掛けてダイブする。

「――――――んっ」

貪る様に、蹂躙する様に・・・・気の済むまで口付けて。

少女の唇から放たれる、甘く痺れる様な感覚は。

―――――他の野郎には、誰にも渡せない。

何とも思っていない娘なら、此処まで嵌るモンだろうか?

・・・・・良いや。ならねえよな、普通は。

口には出さないけどね、神楽ちゃん。

銀さんはずうっと――――お前との接吻、望んでいた訳。

時間を忘れてしまう程の、長く―――――深い接吻を。

深く・・・・・果てしなく、『神楽』を知りたいから。







※背景画像はなつる様が運営されている「空に咲く花」様より、お借り致しました。






※「ORIGNAL LOVE」の『接吻』と言う歌をご存知でしょうかご存知なければT●beで
検索すると、すぐに見つかります。この歌がまた何とも良い歌でして。(作中とは全く関係ないんですけど)
一度この『接吻』を題材にして、作品を書いてみたかったんです。全く色気も何もありませんが。
もしご興味のおありの方は、是非聴いてみて下さいませ。

この様な駄文に最後まで目を通して下さり、真に有難うございました。


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