「な〜んかさ。オレって・・・・女難の相、出てない?」

不夜城の裏路地―――行きつけの、飲み屋にて。

中生ジョッキを煽りながら、飲み友でもある――――マダオこと。

長谷川さんに、こんな台詞を吐いていた。

「女難の相だけなら、良いじゃねえか。オレなんか、運命の神様に見放されてんだから。
どんな職種についても、クビにはなるわ。女房とも復縁出来ねえわで」

半ば自暴自棄になりながら、熱燗の入った猪口を口に運ぶ。

・・・・・まあ。確かに。そりゃ、そうなんだけど。

「――――でもよお。何だって、オレの周りには。アクの強い女しか、いねえんだろうな」

熱燗を胃に流し込んで、少し落ち着いたのか。

ふうっと息を吐き出すと、オレの意見に賛同してくれた。

「確かに皆、良い女だけど。個性・・・・・強過ぎる所あるな。何だっけ?オレの知る限りじゃ。
あのメガネ少年の姉ちゃん・・・・後はメガネを掛けた、くの一だっけ?
それと―――吉原にいる姉ちゃんか?ああ!忘れちゃいけない!激辛毒舌娘!

その瞬間――――勿体無い事に、泡の出る黄金色の液体を。

思い切り、口から噴いてしまっていた。

「他は置いといて、何で神楽!?何でアイツが此処に出て来るの!?

右手の甲で口を拭いながら、右隣に座したマダオに抗議する。

「―――んな事言ってもよお?銀さん。彼女だって、一応『異性』だろ?

いやいやいやいや。そういう問題じゃなくて。

どうすれば、そういう風に考えられんの?

銀さんの、一番近くにいるし

いやいやいやいやいやいや。確かに、一つ屋根の下ですけども!

オレが何も、言葉にしないのを良い事に。

グラサン男は、弁舌になっていく。

「そういやあ、妙に過保護だよなあ。あの娘に対しては

いやいやいやいやいやいやいやいやいや。それは『保護者』としてで!

「確かに――――将来は、別嬪になるよ。あの娘は!毒舌だけど」

・・・・・ちょっ―――――。

待てえええええええ!!会話の流れが、逸れてるんですケド!?
何急に、神楽で締めようとしてんの!?
オレの女難の相の話から、何であの酢昆布娘に話が変わってんのおお!?」

自分の声が店内中に、響き渡る。

幾人かの客達が驚いて、こちらに視線を寄越した様だが。

んな事は、知ったこっちゃない。

当然――――マダオこと、長谷川さんも驚愕していた。

「・・・・だ、だってさ。一番しっくり来るから

「何が!?しっくりって、何!?」

――――この言葉に、グラサンマダオは両腕を組み。

悪気も無い態で、こう言い放った。

「う〜ん。銀さんの『隣』って言うの?いつも、隣にいる所為かさ。
二人の並んだ姿しか、脳裏に浮かばないっていうか・・・・・」

新八は浮かばねえのか?と、ツッコミたくなったが。

「そりゃあ・・・・仕方ねえよ。私的時間以外は、常に行動は共にしてんだから」

考えてみれば、そうだよな。

―――――神楽が一番・・・・傍にいるかも。

つうか・・・・一緒にいる時間が、一番多いかも。

挙げられた女達に対して気は遣うものの、そんな気遣いも入らねえし。

何よりも・・・・・気が楽?自然体で、いられる?

「・・・・・・・」

無意識に右手を額に当て、カウンターに肘を着く。

このままじゃ、不味くない?

―――――何が・・・・マズイってさ。

グラサン男の台詞を、否定しつつも。

何処かで認めちゃってる、自分が――――。

「・・・・不味いだろ」

「?何が?」

オレの呟きが聞こえたのか、首を傾げる長谷川さん。

「アイツと、一緒にいる時が。自然体尚且つ、気楽でいられる――――自分ってのが」

―――――共にいる時間が、長過ぎたからか?

10も離れてる年下の少女に、こんな事思うなんて・・・・どうなのよ?

しかし長谷川さんは、真顔でオレの言葉を否定して来た。

「別に・・・・不味くないだろ。寧ろ、必要な事だぜ?素を、曝け出せるってのは。
一番大切・・・・なんじゃねえのかなあ?それだけあの毒舌娘に対して、心を許してるって事なんだよ」

―――――そうなんだろか?まあ確かに、心許してる部分あるとは思うが。

「う〜ん・・・・『ガキ』だから?あ〜多分、それだ!きっと」

気を遣わない理由が、何となく判明出来た気がする。

―――――が、またもや。右隣のマダオが反論をして来た。

「『ガキ』だからっていうのは・・・・理由にならないと思うぜ?銀さんだって、
毒舌娘限らずガキに、気を遣う時はあるだろ?・・・・・それに、いずれは年齢重ねりゃ――――
あの娘だって、『ガキ』じゃなくなる訳だし。この際年齢は、関係ねえと思うけどな」

「―――――――」

流石にオレより、数年先を生きて来ただけはある。

咄嗟に反論する言葉が、出て来ない。

「まあ、オレが言いたい事はさ。自然体で接する事の出来る関係は、最高だって事

それだけ言うと、温くなった熱燗の中身を猪口に注ぎ始める。

「―――――ハツさんとは?あんた、自然体でいられたのか?」

傷を抉る様で悪い気はしたが、無意識に口は動いていた。

猪口を口に運ぶ手は、止まり――――苦笑いを浮かべる。

「当然だろ?アイツ程、素を曝け出せれる女は――――いなかったよ。
今はこんなだけど、必ず復縁してみせるさ。オレにはハツしか、いねえから」

きっぱりと言い切ると、止めてた手を再度動かし。

喉元を鳴らしながら、一気に猪口を煽ると。

店主に向かって「勘定」と、手を挙げた。

「銀さん。あんた女難の相なんか、出てねえよ――――きっと。
個性の強い女性陣達が、多いってだけで。しかも――――ちゃんと胸に、刻まれてんじゃねえか」

男の右手の人差し指が、オレの心臓に当てられた。

「――――?刻まれてる?

グラサン男の言った意味が分からず、眉間に皺が寄ったが。

そんなオレの怪訝な表情を他所に、長谷川さんは店主に金銭を渡し。

「多分家に戻りゃ――――オレの言った意味が、分かるさ。んじゃな」

そう言って暖簾を避けて、店を後にした。

「・・・・・・」

飲み友達もいなくなり、会話の所為か――――幾らも酒に酔えず。

結局オレも勘定を済まし、万事屋へ戻る事にした。

煌々と輝くネオン街を抜け、帰り慣れた路をのんびり練り歩く。

「胸に・・・・刻まれてる・・・・か」

長谷川さんに当てられた箇所に、手を当ててみる。

家に戻れば、分かるって言っていたが・・・・・。

不夜城とは違い両脇に設けられた電柱の灯りと、点々とした家々の灯り。

その路を進めば――――前方に見慣れた屋根が、見えて来た。

『万事屋銀ちゃん』・・・・オレの家。

そして今は眠りの世界にいると思われる、同居人と一匹。

地上から家に続く階段を昇り、鍵の掛かった玄関を開ける。

当然の如く、出迎えたのは暗闇。

オレは静かにブーツを脱ぎ、廊下へと足を進めた。

居間へと着いた瞬間――――思わず両目を、見張る事になる。

居候のお団子娘が、長椅子に横たわったまま。

腹式呼吸を、繰り返していたのだ。

しかも何にも、掛けずに。

「・・・・・・・」

こんな所で寝てたら、風邪引くじゃねえか。

―――――っとに。世話を焼かせやがる。

肩を揺すって、起こそうともしたが。

「しょうがねえなあ」

左腕と右腕を動かし、左脇と両膝に腕を添えた。

―――――用は、お姫様抱っこ・・・・である。

何故自分は、この少女に甘くなるのだろう?

やはり長谷川さんの言うように、過保護なのかも知れない。

「・・・・・しかも」

あんなに食ってんのに、何でこんなに軽いのか?

身体も華奢過ぎて、見かけだけなら――――折れそうな感じなのに。

閉じた押入れを、自由の効く左足の親指を使って。

器用に、開ける。

起こさない様、そっと布団の上に横たわらせる――――と。

「ん・・・・ぎん・・・・ちゃ」

僅かに開いていた唇から、オレの名を呼ぶ眠り姫。

―――――瞬間。

仄かに・・・・・胸中が、暖かくなった――――気がした。

他の女に名を呼ばれても、こんな気持ちになった記憶は無いのに。

『胸に、刻まれてる』

ひょっとして、あの男が言いたかった事って。

「―――――参ったね。こりゃ」

何が参ったって・・・・あのマダオに、気付かされるなんて。

押入れの戸が徐々に、閉じられ――――少女の姿は完全に見えなくなり。

その襖に己の背を預けて――――苦笑いを、浮かべた。






どうやら、オレの胸中には。

『神楽』という名のTATOOが、刻まれているらしい。





※神楽ちゃんが、今回喋っていませんが・・・・・・銀神です!←こうなりゃ、開き直り。
その代わり、長谷川さんを登場させて頂きました。近藤さんに続いて、大好きなキャラです。←一個人では、近藤さんLOVE!
長谷川さんて、銀さんより数年先を生きてる分・・・・何だかんだで結構、大人の意見をくれそうな気がします。
いやあんだけ、美女に囲まれて・・・・どして銀さんは、ノーリアクションなのか不思議でならなくて。
女性に興味無い?・・・・・んな訳ないよなあ。心底彼女、欲しがってそうな気がするし。←一個人の見解ですよ?
結野アナには、「ファンですから」と言い切っていたし。
やっぱり傍に、美少女の神楽ちゃんがいるから。それだけで、満足してるんでしょうか!←そうであって欲しい。

この様な駄文を読んで下さり、真に有難うございました。


銀神処へ戻る