ジプシー・クイーン 後編
――――ホント、何してたんだロ?
「悪かったネ・・・・片付けるアル」
公開されていない、残りの3枚と共に。
10枚のカードを、集めようと――――上半身を乗り出した時だった。
男の無骨な手が、私の右肩を掴んだのは。
「――――どうせなら。最後まで、占ってみりゃ良いじゃねえか」
・・・・・最後まで、占いを行ったって。
「いいヨ、別に」
救い様の無い結果が出たら、それこそ・・・・立ち直れなくなりそう。
それならまだ、此処で終わりにした方が。
「・・・・オレが、気になるんだよ。良いから、やれって」
掴まれた右肩に、多少力が加わる。
「?」
何気なしに、銀髪男の顔を伺えば。
滅多に拝めない真顔で、タロットカードを見つめていた。
・・・・・銀ちゃんが、気になるって・・・・?何で?
怪訝に思いつつ、それでも終わりにしようと。
テーブルの上に、両手を着いたら。
「片付けんな」と、乗り出していた上半身を。
男の片手によって、長椅子の背凭れへと――――引き戻されてしまった。
「お前がやらないんだったら、オレがやる」
「貸せ」――――と、持っていた解説書を奪われ。
「これを開いて、絵と本を照らし合わせりゃ良いんだな?」
呆気に取られていた私は、首を縦に振るしかなかった。
・・・・・?どうして、そんな剝きになっているんだろう?
「・・・・・・・」
――――私が、この場を去るか。
どうでも良くなった今、此処にいる必要もないし。
そう思い長椅子から、立ち上がろうとしたら。
左隣から・・・・「何処、行こうとしてんだ?」と。
再び行動を遮られてしまい、この場に残る羽目になる。
「何だよ・・・・開き方とか位置とか、あんの?面倒臭せえなあ」
面倒だと言葉にしつつも、ちゃんと手順を踏んで。
伏せられた8番目のカードを開き、解説書を手に
イラストを凝視しながら、ページを捲り始めた。
「どれどれ・・・・『本人を取り巻く環境』。――――ええと。『悪魔』?」
イラストは、こちらを真正面としている。つまりは、正位置。
『悪魔』と、銀髪男の口から出た瞬間。
―――――ああ、またか。
悪い結果が、脳裏に浮かんだ。
そりゃ、そうだろう。悪魔なんて、良い結果な訳がない。
「・・・・・『ライバルがいる』」
意味を口にしてくれるのは、勘弁して貰いたい。
頼むから、黙読してヨ。
それにしても、ライバルか・・・・。
だろうな~・・・・・銀ちゃんて、マダオ侍だけど。
なんだかんだ、結構女性にモテてるもん。
一番分かりやすいのは、猛アタック中のさっちゃんデショ?
次に分かりやすいのは、ツッキーだな・・・・あれ、絶対にツンデレだ。
姐御も銀ちゃんに関わる女性には、結構シビアだし。
九ちゃんは・・・・どうかな?姐御一番な所が、あるけど。
ババアの店で働いている、からくり人形の『タマ』でさえも。
―――――この銀髪侍に、一目置いてるみたいだったし。
皆美人で可愛くて、スタイルの良い人達ばかり。
自分だけが、ちんくしゃな・・・・『クソガキ』な訳で。
「ふうん・・・・『ライバル』ねえ。お前の好きな奴って、結構モテんだな」
面白くなさ気に、鼻を鳴らしながら男の口は開いていた。
―――――てめえの事だヨ!コンチクショー!
・・・・とは、口が裂けても言えない。
「んで?次は・・・・9番目と。『本人の問題に取り組む姿勢』?
――――成る程、この先どう行動に出れば良いかって事か」
そう言うと銀髪侍は、9番目の伏せられていたカードを開いた。
「――――このイラストは・・・・『隠者』?」
最早止める気さえ無くなった私は、黙って事の成り行きを見守る事にする。
イラストはまたもや、こちらを正面としていた。
――――正位置だ。
「え~・・・・・っと。お、あった。『隠者』――――正位置。『密かに恋をしている』」
読み上げられた解説に、思わず一人納得する自分。
そうだよネ。思いを秘めたまま・・・・片思いを貫くしか、私には出来ない。
この気持ちを告げた瞬間、馬鹿にされるのは目に見えている。
『おいおい、神楽あ。冗談でも、笑えねえよ。それ』
・・・・・言うモンか。絶対。
やっぱり・・・・・この恋に、ピリオドを打つべき?
けれど。どうやって、忘れる事が出来ようか?
「――――何だよ、お前。告白しねえつもり?プラトニック・ラブを貫き通すんか?」
「・・・・告白したって、どうせ。馬鹿にされて、笑い者になるだけアル」
「・・・・・」
銀髪男はそれ以上、何も言ってこずに。
最後である10番目のカードに、手を掛けようと手を伸ばしたが。
直前に右手を止めて、こちらを振り向いた。
「――――この結果が、良かったら。どうすんの?」
問い掛けれた疑問に対し、私は咄嗟に言葉が出て来なかった。
伏せられた最後のカードを、じっと見つめたまま。
もし・・・・この10番目のカードの結果が、良かったとしても。
あくまでも占いは、占いである。
「別に。・・・・どうもしねえヨ」
私の返答を聞いたと同時に、10番目のカードを開いた。
咄嗟に視界を閉ざす様に、両瞼を強く閉じる。
・・・・もう良い。知りたくない。カードの意味も。
長椅子から再度立ち上がろうとしたが、恐らくまた阻止されるのは必至。
空いていた両手を耳元まで持っていき、少しでも低音の声が聞こえない様。
右手の人差し指と、左手の人差し指を――――同時に耳穴へ突っ込んだ。
「――――――――」
男が何やら、説明をし始めている。
私はそれを少しでも聞き逃そうと、人差し指に力を篭めた――――が。
突然・・・・思い切り、右手の人差し指を抜かれてしまった。
「つうか、お前ね。オレが折角、解説してやってんのに。その態度はないデショ?」
「―――――誰も、頼んでないアル。銀ちゃんが勝手に――――」
「良いから、ほれ!とっとと、その両目開けて。見てみろっての」
「・・・・・・」
おそる・・・・おそる、強く瞑っていた瞼を開ければ。
自然に視線が、10番目のカードに動いていた。
―――――位置的には、正位置みたいだが・・・・・。
「何か、このカード。凄い、良いみたいだぜ?」
解説書を手渡され、仕方なしに――――視線を移動させた。
・・・・・・『世界』。『恋はうまくいく』『2人で共通の目標を持つ事』。
解説によると。22枚のカードの中で、最も良いカードらしい。
最終結論が、一番良い結果として・・・・出ている。
「良かったじゃねえか、神楽ちゃん」
「・・・・良かった・・・・のかナ?」
「何で、疑問符よ?」
・・・・いくら良い結果が、出ていても。
「――――現状は、変わらないから」
「んなモン、分からねえだろ?告る前から、何諦めてんだよ」
―――――分かるんだヨ。もし銀ちゃんに、告たってとしても。
「言ったでショ?馬鹿にされるのが、オチだって」
「やってみなきゃ、何とも言えねえって。ひょっとしたら、受け入れて貰えるかもよ?」
「・・・・・・・」
私の気持ちに気付いてないからこそ、吐ける言葉なんだよナ。
―――――当然だけどネ。
理解はしているのだが・・・・『恨めしい』と言った理不尽な感情が、胸中に湧き上がる。
両肩を竦め、そんな感情を追い出す様に・・・・盛大に溜息を吐き。
「――――もう良いって。片付けるから」
再度両手をテーブルに着けたが、気は済んだらしく――――銀髪男からの妨害は無かった。
決められた場所に置かれた10枚のカードを、掻き集めていると。
「――――お前の好きな相手って、誰なの?」
銀髪男の口から、投げ掛けられた質問。
「・・・・・・」
「――――もしかして。沖田君?」
検討違いの名前を出され、思わず額に血管が浮かぶのを感じた。
「・・・・・殴られたいアルカ?銀ちゃん」
「あれ?違ったか?当たりだと、思ったんだが」
男は首を傾げながら、両腕を組み始める。
「冗談は、よせヨ。天変地異が起こったって、有り得ないネ」
――――くされ縁であり、犬猿の仲なのに。
「んじゃあ。新八?」
更に額に血管が浮かぶのを実感しつつ、唇の片端を引き攣らせながら。
口元まで右手を挙げ、拳骨を作り――――息を強く吐く。
「・・・・・殴られたいんだナ?望み通り、宇宙の果てまで飛ばしてやるアル」
私の返答と行動に、銀髪男は――――顔面蒼白になり。
両手を掲げて、慌てて左右に振り始めた。
「―――――うっ、嘘!冗談デス!冗談!だからその拳を、下げてクダサイ」
仕方なしに男の要望に応えてやり、端に寄せていた残りのカードと。
手にしていた10枚のカードを、1つの山にし・・・・ケースへと仕舞う。
「銀ちゃんには、関係ないだロ」
お願いだから、私の心に踏み込んで来ないでヨ。
諦めるのが無理だと理解してる現状では、この気持ちを密かに閉じ込めておくしかない。
「『タロット』、姐御に返して来るアル」
カードと解説書が収まった、ケースを手にして。
男からの詮索と追求から逃れる様に、長椅子から立ち上がる。
居間を抜け出し、廊下へと歩を進めた時だった――――。
「関係、あんだよ」
背後から低音が、両耳に届けられたのは。
動いていた2本の足は、接着剤でも塗られたかの様に・・・・動かない。
今・・・・何て、言った?
「関係、あんだよ」
先程よりも、ちゃんと聞き取れた――――銀髪男の声が。
再度、私の両耳の鼓膜に届けられる。
肩越しに振り返れば、男は背凭れに両腕を掛けたまま。
顔を仰がせ、天井を見つめていた。
「――――教えろよ、神楽」
・・・・・何を、教えろと言うのカ?
瞠目した私の瞳には、男の後姿しか映らない。
「お前が気持ちを封じ込めてる、相手を」
――――凪いでいた鼓動が、再び忙しく鳴り始める。
天を仰いでいた銀髪の頭が、ゆっくりとこちらへ向けられた。
「――――――」
先程、タロットを見つめた時と同じ――――真摯な表情。
死んだ魚の様なと、揶揄された瞳は・・・・細められ、私を捉えている。
逃れるのは、許さない。
視線から送られる、メッセージ。
渇き始めた口内に・・・・唾液を飲み込めば、喉元が僅かに鳴った。
「な・・・・何で、銀ちゃんに言う必要がアルネ!?」
尤もな、疑問。
だが・・・・銀髪男は、返答をしようとせず。
一旦こちらから視線を外し、私と同様――――長椅子から立ち上がると。
居間を後にし、廊下へと足を踏み入れて来た。
私の左肩を掴んだと思ったら、身体を壁際に押しやられる。
「――――わっ!」
その拍子に手にしていた、『タロット』が鈍い音を立て。
足元に、到着した。
その場から逃さぬ様、男の両腕が囲いとなし――――私を閉じ込める。
すぐ顔近くに、銀髪男の顔。
仰け反ろうとしたが、背には壁。
「ちょっ・・・・退いてヨ!銀ちゃん!」
「お前が教えたら、この両腕―――解いてやるよ」
「はあ!?だから―――!銀ちゃんに、言う必要――――」
『ない』と、言葉を続けたかったのに。
射る様な鋭い瞳が、私の唇の動きを――――凍らせた。
「それがあるんだよ、神楽」
「・・・・・?」
近くにあった男の顔は、私の頬を通り過ぎ。
耳元で――――止まる。
「 」
それは・・・・まるで、『媚薬』を含んだ声色。
私の聴覚を犯し、更には脳内まで犯し始めていた。
身体全身へと、男が施した『薬』が行き渡り――――膝が震え出す。
「―――――」
腰の力が抜け、壁に沿って――――沈んでいく己の身体。
・・・・・嘘・・・・だ。今・・・・何て、言ったの?銀ちゃん。
信じられない。夢でも、見ているんだろうか?
頬が通常よりも、数倍熱くなっているのが分かる。
顔を上げて、未だ拘束を解いていない男を見つめれば。
交錯する、視線と視線。
銀髪男は、壁に添えていた両腕を離し。
伸ばしていた両膝を折り、腰を屈めて。
唇の両端を上げ、私の顔を凝視すると。
「な?関係あるだろ?――――ジプシーさん」
私の足元に落ちた、『タロット』本を手にして。
「あんま―――占いは、信じねえ性質だけど。もう1回だけ、占ってみてくんね?」
「・・・・え?」
「お前の気持ち、知りたいの。銀さん」
―――――ああ、全く。この男にはいつも、してやられる。
「それこそ、占う必要――――ねえヨ」
だって、今度は私が。
貴方に、この感情を――――伝える番だから。
※3編に分けた筈か、大分長くなり申し訳ありませんでした。←しかも才のない文章。
終わりの頃には、何が何だか自分でも分からなくなる始末。←ダメだろ。
私が高校生の時に、一時期『占い』ブームになった時がありましてねえ。←遠い目。
私のそのブームに乗っかり、よく『タロット』をやった記憶があります。
女の子なら、一度は占いに嵌りますよね。
題名は中森明菜さんの「ジプシー・クイーン」から。←切ない歌ですが、凄く良い歌なんです。
この様な駄文に目を通して下さり、真に有難うございました。
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