――――貴方の全てに。
私は、囚われてしまっているのです。
「神楽」
もう何度と無く聞き慣れた、心地良い低音が。
私の名を、呼んだ。
「・・・・何だよ。人の顔を、ジロジロ見やがって」
「ううん。別に、何でも無いアル」
ねえ?知ってた?
その声で名前を呼ばれる度、私の両頬は途端に緩み出し。
『笑顔』の二文字が、顔へと出現されて。
――――――もう、それこそ。
心臓がうるさいくらいに、騒ぎだすんだヨ?
―――――私の名を紡いでくれる、優しい発音が好き。
「―――――んだよ。変な、ヤツだなあ・・・・」
座り心地悪そうに、身体を左右に動かしながら。
私からの視線を逃れる様に、顔をあらぬ方向へと動かしていく。
ねえ?知ってた?
実はその仕草が、照れ隠しなんだって。
その証拠に、ほら。僅かに耳が赤くなっている。
―――――照れた、その姿が好き。
「まあ・・・・変なのは、前からてっか?」
「――――む?どういう意味アルカ?」
「そのまんまの、意味デスケド〜?」
余裕を取り戻したのか、突然――――こちらへと振り向き。
唇の片端を上げて、意地の悪い笑みを浮かべている。
ねえ?知ってた?
意地悪されるのは、嫌なんだけど。
その時に向けられる、飄々として済ました顔は。
―――――なんだかんだで、好き。
「そういう事を言う口は、この口アルカあ!?上等ネ!」
男の隣に座していた身体を右90度、回転させて。
床に着けていた両足を長椅子に乗せて、両膝に力を入れて腰を上げ。
ダイブする要領で、銀髪侍の上に覆い被さり。
自由の利く両手を使って、男の両頬を思い切り摘んだ。
「―――――ぐぬおっ!?ひょっ・・・・ひょい!ひゃち!ハンマ!」
「?何言ってるカ、分からないアル。ちゃんと日本語話せヨ。マダオ天パ」
覆い被された男は抵抗しようと、宙へとばたつかせていた両腕を止めて。
私の両手を掴み、戒めを解いて行った。
「こんな両頬摘まれた状態で、まともに話せるかあああ!てか、退けっての!」
両手首を掴まれたまま、私は顔ごと男の胸板へと到着させる。
「――――嫌アル。もう少し、こうしてたいネ」
「はあ!?オレ的には、ご免蒙りたいんデスケドおおおお!」
ねえ?知ってた?
銀ちゃんの体温、ポカポカして暖かいって。
・・・・・ずっと、こうしてるとネ?気持ちが、凪いで落ち着くんだヨ?
「――――眠くなって来た〜・・・・」
――――良い気持ちになる。だから、好き。
「ばっ・・・・!お前なあ!眠いんだったら、てめえの寝床で寝ろよ!」
銀髪男の怒声が、頭上に降り掛かってくるけど。
私の身体をひっぺ返そうと、チャイナ服を掴んでるけど。
結局は、許してくれちゃうくせに。
「ん〜・・・・・」
ああ、本当に。眠くなって来ちゃったアル。
起き上がるのも面倒で、そのままの態勢でいたら。
「―――――ったくよお。しゃあねえなあ・・・・・・」
無骨ながらも大きくて優しい手が、私の頭を撫で始めた。
ねえ?知ってた?
銀ちゃんから頭撫でられるの、とっても嬉しいって事。
―――――暖かさが伝わって来て、好き。
・・・・・もう、本当。
こんなに好きで、好きで――――どうしようかな?
責任取ってヨ、マジで。
馬鹿が付く程の・・・・甘い物好きで、酒好きで。
もう既に―――――『糖尿病』寸前の、男なのにネ。
常に『やる気』の無いオーラを、全身から醸し出してるのにネ。
・・・・残念ながら、まだまだ例えを挙げられそう。
――――――でもネ。どんな、『坂田銀時』でも。
私にとっては、些細な事でしかないんだヨ?
いざとなれば――――これらを余裕で覆す程の男だって、知ってるから。
己の『侍道』を迷わず信じて、只管突き進むその姿は。
とても粋で、いなせで。
素敵で、カッコ良くって。
その都度――――――実感、させられてしまう。
全てをひっくるめて、私は銀ちゃんが好きだって。
いつまでも一緒にいたいって、望んでいる自分がいるなって。
私に向ける、情けない顔も。厳しい顔も。だらしない顔も。
―――――そして、甘い顔も。
好き。
私の、頭を撫でる大きな手も。私の名前を呼ぶ、低い声も。
好き。
「全く何だって・・・・甘くなっちまうかねえ?コイツにだけは」
頭を撫でつつも優しい声色で呟いた言葉が、鼓膜に届けられて。
私は一瞬だけ、笑顔を浮かべた―――――が。
意識は徐々に薄くなり、睡魔へと導かれて行った。
・・・・・全部、大好き。大好きヨ、銀ちゃん。