『神楽ちゃんて、好きな人いないの?』

『気になる人も、いないの?』




WHAT is LOVE?





・・・・そんなに珍しい事なのだろうか?『好きな人』が、いないというのは。

女友達から驚かれたのは、正直意外だった。

己の中での『好きな人』達なら、ちゃんといたつもりだったのだが――――。

それらを例に説明すれば、彼女達は『それは違う』と否定して来る。

『親愛』

『友愛』

――――――の、類であって。

『恋』

――――――では、無いのだと。

では。恋とは、一体何なの?と聞き返してみれば。

胸が苦しくなったり、その人物の事が――――片時も頭から離れない。

そんな現象が、自身に起こるらしい。

確かに言葉にされれば、そんな感覚は私には無い・・・・と思う。

じゃあ、どうすれば?『恋』を経験する事が、出来るのだろうか。

「―――――ちゃん。神楽ちゃん?」

「ふえ?」

思考に耽っていた私が、我に返ったのは。

もう一人の万事屋の従業員、ダメガネ事・新八の声が鼓膜に届いた為だ。

「大丈夫?・・・・何か、ボーっとしてたけど」

「・・・・ん。何でも、ないアル」

太股の上に肘を着き、掌の上に顎を乗せれば――――盛大な溜息が、毀れた。

「さっきから、何回もしてるね。ソレ」

「え?何が?」

私の返答に、新八は苦笑いを浮かべて。

「溜息だよ」

「そうカ?」

――――――気付かなかった、そんなに回数を重ねていたのか。

「珍しくない?神楽ちゃんが、物思いに耽ってるなんて。何か悩み事?」

対の長椅子に腰掛けている、メガネの少年の言葉を思わず復唱する。

「悩み事・・・・・」

「――――んなモン、コイツにある訳ねえだろうが」

突如降って湧いた、眼前の少年とは別の人物の声。

視線を辿れば、デスクに備え付けられた。

『社長』椅子に腰掛け――――愛読書を手に。

両目を落としたまま、右手の小指で鼻を穿っている。

「いや、銀さん。そんな決め付けなくても」

戸惑いと窘めを篭めた声が、家主に向かって飛んでいくが。

そんな事は知ったこっちゃ無いといった態で、新八に返答が戻って来た。

「あったとしても。どうせ、『今夜の夕飯、何だろな?』とか。『酢昆布、後で買いに行こうかな?』とか。お気楽極楽〜程度の、悩みだろうよ。マジに受け取る方が、阿呆を見るぞ?新八ぃ

「そんなの聞いてみなきゃ、分からないでしょ!
――――神楽ちゃん?銀さんの言う事なんか、無視して良いんだよ?悩みがあったら、聞くから。ね?」

笑顔を浮かべる新八に対し、銀ちゃんは眉間に皺を寄せたまま。

「・・・・・・・・」

銀ちゃんも、新八も。当然ながら、『恋』をした事あるんだろうな。

「どうすれば―――――」

無意識に開いた唇から、言葉が出て来てしまう。

「ん?何?」

どうすれば―――――『恋』が、出来るアルカ?

・・・・・え?

・・・・・は?

男二人。お互い――――座している位置は違えど、発した言葉は違えど。

見事な、ハモリを見せてくれた。

眼前に座るダメガネは、連続で両瞼を瞬きさせて。

銀髪の家主に至っては、死後硬直にでもなった様に――――固まっていた。

その所為で、両手に収まっていた愛読書がずれ落ち。

僅かに重い音をさせ、床へと着地。

だが、そんな事は構いもせず。胸中に潜んでいた、感情を吐露してみる。

「―――――私。恋って、した事無いアル。だから、経験してみたいネ

「・・・・え、いや。そのう・・・・神楽ちゃん?」

瞬きを止める事も無く、どうにか言葉を紡ごうとする新八と。

「え?え?コイ?コイって。
魚に里と書く、あの『鯉』の事だよね?
その事を言ったんだよね?神楽ちゃん?」

全く捻りも何も無い――――お決まりのお約束を引用して来た、坂田銀時

「ちげえヨ。『鯉がしたい』って、何アルカ!意味分かんないアル!
冗談言うつもりなら、もっとハードル上げろヨこのマダオ天パ

「お前の放った言葉の方が、悪い冗談にしか聞こえないんですケド。銀さん」

おまけに「はははは」と、空笑いまでされる始末。

これ以上不毛な会話を続けるのも馬鹿らしいので、話題を変える事にした。

「女友達が、言ってたネ。『恋』って苦しいけど、同時に楽しいって。私もそういう風になってみたい。どうすれば、出来るカ?」

私の言葉に眼前の少年は、困った様な表情を浮かべる。

「恋がしたいって・・・・言っても。こればかりは・・・・・直ぐに出来る訳じゃないから――――」

「でも!過去に恋の1つや2つ、経験してんだロ?教えてヨ、恋の見つけ方を――――」

突然・・・・・頭天辺に、衝撃が走った。いつの間にか、銀髪男が背後に移動し立っており。

先程よりも更に、眉間に皺の数を倍増させ。

こちらを、見ていた。銀髪男の右手が宙で止まっている所を見ると。

どうやら私の頭部を、叩いたらしい。思わず睨んで、抗議する。

「った!痛い!何するアルカ!銀ちゃん!

お前は、馬鹿デスカ?そう易々と、出来る訳ねーだろ。
んな簡単に恋を見つける事が出来るんなら、誰だってとっくに行動してるわ。そういうのは。自然と現れるモンなの」

「自然って・・・・いつまで、待てば良いネ!」

叩かれた場所を摩りながら、疑問を投げかける。

「・・・・さあなあ?こういうのは、『出逢い』のタイミングだし?
『時』・『場所』・『運』・『人物』という、条件が重なって――――って感じか?」

銀髪男の言葉に、メガネ少年は首を縦に振り同意を示す。

「要は――――神様の、御心次第って事かな?」

神様の御心次第・・・・・。

結局――――それまで、待つしかないという事か。

明日か。はたまた明後日か。それとも数年後か。数十年後か。

神のみぞ知る、行方。

「・・・・神様は、私にも『出逢い』をくれるアルカ?」

「うん、くれると思うよ。この世には動物でも人間でも、男と女しかいないしね。
必ず何処かで、『巡り逢う』様に出来てる。それまでは、きっと自分自身を磨けって事なんだよ」

右手の人差し指を立てながら、にっこり微笑むメガネに向かって。

新八には、言われたくないネ。この、ダメガネアイドルオタクが。
お前ももうちょっと、色んな意味で精進するヨロシ。そのままだと、一生『出逢い』はやって来ねえゾ」

「余計なお世話だあああ!折角人が、話しを聞いてやったってのに!
最後の最後で、ダメ出しかよ!
聞くんじゃなかったよ!コンチキショー!」

ぎゃあぎゃあと喚く新八を無視して、気持ちを切り替えてみる。

受身のままでいるのは、私らしくない。

「――――っよおし!分かったアル!こうなりゃ、いつでも『恋』が訪れても良い様に。
常日頃から自分自身に、磨きをかけておかなくちゃナ。定春〜!散歩行くヨ〜?」


「ワンワン!」

長椅子から立ち上がり、両腕を伸ばして背伸びして。

定位置に座り込んでいた定春の元に、歩を進めた。

切り替え早っ!さっきのお悩みモードは、何処行ったんだよ?」

背後から銀ちゃんの声が届けられたが、それを無視して。

定春の首元にリードを付けて、引っ張り玄関へと向かった。

何だろ?幾分か、気分がスッキリしてる気がする。

二人に話を、聞いて貰えたからなのかな。思い切って、良かった。

やっぱり胸に溜め込んで置くのは、良くないネ。

「神楽」

玄関にて履き慣れたチャイナ靴に、足を通した時。

家主が、再度声を掛けて来たので。

肩越しに振り返り、首を傾げる。

「ん?何?」

「まあ・・・・その何だ。恋をしたいって気持ち、分からんでもないが。
焦ってもしゃあないと言うか――――見つけようと思って、見つかる訳でも無いというか」

銀髪男の歯切れの悪い言葉に、私は力強く首を縦に振った。

「分かってるアル。さっき2人から、聞いたばかりネ。『出逢いのタイミング』なんだロ?
ただ、待ってるだけなのは嫌だから。自分からもちょくちょく、こんな風に行動を起こしてみるネ。
もしかしたら何処かで、『恋』が転がってるかも知れないしナ」

私の返答に対し、銀ちゃんは軽く咳払いをすると。

「あ〜・・・・それも、そうなんだけど。もうちょっと、周囲を意識してみたりとか。
お前の身近に、意外と。意外とよ?
もしかしたらよ?お前の望むモノが、あるかも知れんだろ?」

―――――周囲?身近?

「・・・・そう・・・・・かな?」

両腕を組んで、眉間に皺を寄せて考えてみる――――が。

「・・・・・・・・・」

「まさか―――――真選組の、ドS王子じゃねえだろナ?」

「・・・・何で、其処で沖田君?え?実は、好きなの?ねえ、本当は好きなの?

殴られたいアルカ、銀ちゃん。・・・・じゃあ――――トッシー?」

ちょっ・・・・何で、土方あああ!?アイツが良いの!?ねえ、アイツが良いの!?

「何を、そんなテンパってるネ?・・・・じゃあ、ゴリ?それとも、ジミー?」

「なんつうか―――――ただ。くされ縁の奴等を、挙げてるだけじゃねえ?」

後・・・・他に、いたかな・・・・あっ。

ヅラ?」

お前は、良いんか!?それで、良いんデスカ!?

「じゃあ・・・・エリー?」

ノーコメントで

マダオ?」

長谷川さん!?銀さん的に、それはどうかと思うよ!?全体的に!

・・・・・後は良く遊ぶ、街の男共連中くらいカ?

「――――思いつかないんデスカ?神楽ちゃん」

右手を額に当て、両肩を竦め盛大に溜息を吐き出す家主

「―――――だって。後は、銀ちゃんと新八くらいデショ?」

そうそう

家主は思い切り首を縦に何度も振って、是を唱える。

そうは・・・・・言っても。

「銀ちゃんは、私の事は『クソガキ』扱いだし。新八は今ん所、お通ちゃん『命』だし。
二人共、私の事は『そういう対象』で見てないだロ?まあ、良いアル。散歩、行ってくるヨ」

「じゃあネ」と言い残し、万事屋を後にする。

これからは少し意識して、街中を歩いてみよう。

何時何処で、神様が私に授けてくれるか―――分からないんだから。






もし、『出逢い』が舞い降りて。

『恋』が何なのか、知ることが出来たら。

銀ちゃんと、新八に報告しよう。








「・・・・・・・」

「あれ?銀さん?どうしたんですか?魂の、抜けた様な顔をして」

「―――――新八」

「はい?」

「・・・・・神様は、いると思うか?いるよな?間違いなく、いるよな?

「は?いきなり、何言ってるんですか?」

いると言ってえええ!オレの願いを、聞き届けると言ってええええ!

「全く・・・・いつまでもそんな場所で喚いていたら、近所迷惑になりますよ。とっとと居間に、引き篭もって下さい」

(まあた。何か神楽ちゃんに、いらん事言って。
墓穴掘ったんだろうな。んっとに・・・・素直になれば良いものを。障害になってるのが、この『性格』だって。何で気付かないんだろ
)

どうかアイツに、『出逢い』が転がり込んで来ません様に!

必死な形相浮かべて・・・・なんつう、最低な願い事してんですか?あんた」








※もし神楽ちゃんが、銀さんをそんな風に意識しておらず。女友達との「恋話」で、『恋』に興味を持ち始めたとしたら。
銀さんと新八君に、話を聞いて貰ってると良いなあと。「恋がしたい!」みたいな、感じで。書いてみたんですけれども。
あんだけ美少女なのに。モテてる筈なのに・・・・・『色恋』話が出て来ないのは、やはり少年漫画だからなんでしょうね。
一番年齢が近い新八君でさえ、「恋バナ」場面はあるのになあ。神楽ちゃん編も是非、拝んでみたいんですが。←だって、ヒロインですし。
この話での銀さんは、遠回しに、「オレがいるだろ?」と言ってるんですけど。
ちっとも報われてません。←あれ?『ガキ』扱いされてるとインプットされてる神楽ちゃんには、到底気付いて貰えないでしょう。←お〜い。

この様な駄文に最後まで目を通して下さり、真に有難うございました。



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