―――――何気に、テレビの画面を見ていたら。
楽しそうに笑う子供達の満面の笑顔が、画面狭しに映っていた。
「・・・・ねえ?はろうぃんって。何アルカ?」
自分の隣に腰掛ける男に、疑問を投げ掛ける。
「――――あ?ハロウィンだ?」
僅かに面倒臭さが篭った返答だが、私は気にする事無く言葉を続けた。
「何か、凄く。楽しそうに、笑ってるヨ?ほら」
右手を掲げて人差し指で、テレビのブラウン管を指せば。
先程とは打って変わった、場面が映し出されている。
「あれはね、神楽ちゃん」
私の問いに答えようと、もう一人の人物が笑みを浮かべ。
眼前から、声を掛けて来た・・・・のだが。
それを遮る様にして、隣の銀髪男が説明をし始めた。
「『ウィン』さんて人が、街の皆に『ハロー』と言い回る祭りの事だ。分かったか?神楽」
「だから、『はろうぃん』って言うノ?」
銀ちゃんは両腕を組み、鷹揚に頷く。
眼前ではメガネ少年が、左手を挙げ――――いつ会話に加わるべきかを、思案してる様だ。
「そうそう、お前。街中の人達全員に、挨拶するなんて。中々出来ねえぞお?すげえだろ?『ウィン』さんは。それを称えた、『祭り』なんだよ。皆の、憧れの的なんだぜ?」
「――――本当!すっげえアルナ!」
一人一人に、挨拶をしていくなんて。『ウィン』って奴は、只者じゃないネ。
「・・・・ちょっと、待てええええええ!!
あんた、何いい加減な嘘を並べ立ててんですか!てか、安直過ぎるでしょ!
『ウィン』さんが、『ハロー』と言う祭りなんて!んな祭り、聞いた事もありませんよ!神楽ちゃんも、簡単に信用しないで!」
ツッコミ担当、新八の声が。室内に、大音量で響く。
銀髪男が最もらしく、説明したので。疑う事無く思い切り、信じてしまった。
「え?違うの?新八」
どうやらメガネ少年が正しかったらしく、銀ちゃんは「ちっ」と舌打ちをしている。
「そうだよ、神楽ちゃん。銀さんは、全然違う事を言ってるの!」
私は隣の男にジト目を送りながら、眼前の少年に説明をせがんだ。
「『はろうぃん』って。何なの?」
「西洋のお祭りでね。お化けや魔女とかに子供達が仮装して、近くの家を巡るんだ。
その際、『Trick Or Treat!(トリック・オア・トリート)』と唱えるんだよ」
「どういう意味ヨ?その・・・・とり――――」
「トリック・オア・トリート?」
「うん」
初めて聞く、単語だ。西洋・・・・って。この国では無い、何処かの事なんだろうか。
しかし、隣から。慌てふためく、銀ちゃんの声が。
「ばっ・・・・!やめろ!新八!」
「え?どうしてです?この言葉の意味はね、神楽ちゃん。
「ご馳走くれないと、悪戯するよ!」っていう意味なんだ」
『ご馳走』の言葉に、私の瞳が最大限に開かれる。
「――――貰えるのカ?本当に」
「まあ・・・・ご馳走って言っても。
飴とか、お菓子とかだけど――――って。神楽ちゃん?ちゃんと、聞いてる?」
何て素敵なんだ!『ハロウィン』!近くの家を巡って、この言葉を唱えれば良いなんて。
しかも『ご馳走』が貰えなければ、悪戯をして良いのか。
「あ〜あ゛。新八ぃ・・・・お前、何て事してくれやがったんだ。
もうこれで、コイツの脳内は『ご馳走』で占められちゃったよ。お前の話なんざ、とうに聞いてねえぞ?」
「え!?―――――あ!」
「今更、『しまった!』みたいな顔しないでくれる?オレは知らん。知らんぞ」
何やらしょっぽい大人の男と、メガネ少年が話し込んでるみたいだが。
此処は早速、2人にあの言葉を唱えてみよう。
「銀ちゃん!」
「あ゙?」
整った眉を八の字にさせ、身構えている銀髪男に。
右手を差し出し、笑顔を浮かべて。勢い良く、言い放った。
「デット・オア・アライブう!?」
「・・・・ん?いやいやいやいや!?全然、言葉違ってるよ!?何で『生きるか?死ぬか?』になってんの!?しかも、何で得意気なの!?脳味噌大丈夫?この子!
――――てか、どっから覚えた?その言葉あ!洒落に、ならねえんだよ!お前が言うと!」
あれ?言葉、違った?何だっけ?・・・・まあ、良いや。
似た様な、モンだろう。※思い切り、違います。
両手を重ね合わせて、指の全関節を軽快に鳴らし。不敵に笑う。
「・・・・さあ、選ぶネ。私に『ご馳走』渡して、生を全うするカ。それとも、地獄カ?」
「あのさ。これ、もう『ハロウィン』じゃないよね?
単なる、脅しだよね?趣旨が、違ってるよね?お決まりの仮装も、してないし?」
額から尋常じゃない程の汗を浮かべ、顔面蒼白になりつつある銀髪男。
「『ご馳走』?」
にっこりと微笑んで、答えを促す。
「はい!はい!渡します!銀さんが、後生大事にしまっておいた・・・・板チョコ!」
まるで手品師の様な手つきで、何処からか。新品の板チョコを3枚取り出す。
それを受け取ると、嬉しさが表情に滲み出て来た。
『ハロウィン』って、楽しいアル!!
こういう時程、『ガキ』扱いされて――――良かったと思えてしまう。
だって、私は。二人から見れば、十分『子供』だもんネ。
どうせなら今回は、それを逆手に取ってやろうじゃないか。
――――さてと、今度は。
私達の遣り取りを、固唾飲んで見守っていた少年に――――視線を移動させ。
「新八!」
「はっ、はい!?」
先程と同じ様に右手を差し出し、笑顔を浮かべて言い放つ。
「デッド・オア・デッド!?」
「ちょっ・・・・タンマあああああああ!!『死か?死?』って!
どっち選んだって、同じじゃねえかあああ!
選択の、余地ないじゃん!1つしか、絞れないじゃん!」
喚きまくる2つ年上の同僚に、眉間に皺を寄せつつも。
「うるせえな。とっとと、寄越せヨ。『ご馳走』」
「他に、救いのルートないの!?これじゃ、あまりにも僕が哀れだ!可哀想すぎる!」
あまりの必死さに、思わず笑いを堪えられずに。噴出してしまった。
「ぷっ・・・・冗談ヨ、新八。ちょっと、からかっただけネ」
私の言葉に、ホッと安堵するメガネ少年。
「神楽ちゃん・・・・・もう、勘弁してよお」
「じゃあ、もう一回。『デッド・オア・定春?』」
定春の名を呼んだ瞬間、定位置に蹲っていた巨大な愛犬が。
4本の足で立ち上がり、こちらへと歩を進めて来る。
舌を突き出し、若干荒い呼吸を繰り返す定春。
『いつでも、犬歯向けれるぜ』とでも、言いたげだ。
私の横に座り込んだ定春を見て、新八は再度大声を上げた。
「さっきとあんまり、変わってねええええ!!『死』が『定春』の噛み付きに、なっただけじゃん!!『神楽ちゃんは、やっぱり優しい』と思った僕の気持ち、綺麗さっぱり返せよお!熨斗付けて、返せええええ!」
先程よりも喚く新八に、不敵な笑みを浮かべて。一言。
「『ご馳走』は?」
「――――分かったよ!渡せば良いんでしょ!?渡せば!今は、手元に無いから!後で持ってくるよ!何だろうな・・・・この、何とも言い難い感情」
定春が『んじゃ』と言った態で、口を大きく開いたので。
それを止める為に、声を発した。
「待て、定春。噛まなくてもヨロシ。『御馳走』を持って来なかったら、思い切りネ?」
「ワンワン!」
『是』の意を篭めての、一吠え。
「―――よっしゃあ!定春!『ハロウィン』巡り、行くアルヨ!
家を1軒。1軒巡り巡って。ありとあらゆる『ご馳走』を、分捕ってくるらああ!」
この日を有効活用しなければ、『ガキ』が廃る。
「え゙・・・・ちょっ――――もう、止めておいたら?神楽君?」
背後から慌てて、引き止める声が届けられた。
肩越しに振り返り、私を留めようとする理由を問う。
「どうしてヨ?だって、今日は『ハロウィン』。子供達が、楽しむ日ネ」
「あ〜?それはね?そうなんだけどね?神楽ちゃんは、『子供』かなあって言う?」
銀ちゃんは唇の片端を引き攣らせながら、検討違いの事を言って来る。
新八もそれに倣い、首を何度も縦に振り続け。
「そうだよ。神楽ちゃんは、『子供』と言うには――――少し、無理がある様な?」
2人の言葉に、私は思い切り両目を見開いた。
「だって。『ガキ』・『クソガキ』って。銀ちゃんからは、耳にタコが出来る程言われてるヨ?これって、『子供』って意味デショ?」
この返答に、言葉が詰まった銀髪男と。
眉を若干釣り上がらせて、男の耳元で嗜めるダメガネ少年。
「ぐっ・・・・・!いや―――――そういう――――」
「銀さん!だから、もう『ガキ』扱いは止めた方が良いって!言いましたよね?僕!神楽ちゃんだって、年頃の娘なんですから!」
「――――?何だか、良く分かんないけど。それじゃ、行って来るヨ〜♪定春、おいで♪」
「ワンワン!」
男2人、ヒソヒソ話しの最中。再度背中を向けて、玄関へと向かう。
さてと♪何処から、行こうかな?手始めに、ババアの所へ行こうっと。
「あっ・・・・ちょっ!神楽あ!?」
「僕、知りませんよ。知りませんからね」
「それは、冷たいだろ。新八君。冷た過ぎて。まるで、ブリザードだよ。銀さん、凍え死ぬよ?」
「僕の忠告を聞かなかった、あんたが悪いんでしょうが!
――――って。何か・・・・階下から。お登勢さんの怒声が、聞こえてくるんですけど・・・・」
「あんの、馬鹿娘えええええ!身近な、人物を狙うなあ!後々オレが、困るじゃねえか!」
「急いで迎えに行かないと、大変な事になっちゃいますよ!彼女、街中の家々を。1軒、1軒巡るつもりでいますから」
「―――ホント・・・・変な所で、マメなんだよ。アイツは」
「感心する所じゃ、ないでしょうが!ほら!とっとと、神楽ちゃんの所へ行きましょう!」
「へえへえ」
「・・・・これに懲りたら。当分は『ガキ』扱いするの、止めて下さいね!」
「――――つうかさ。あんだけ、『ガキ』扱いすんなって。毛嫌いしていた、アイツは何処へ行った?宇宙の彼方?」
「銀さん!?真剣に僕の話し、聞いてるんですか!」
「・・・・・へえへえ」
(そうは言ってもね、新八君。その言葉が、オレにとっては。ある意味、重要なキーなのよ?)
「Trick Or Treat!ご馳走くれなきゃ、悪戯するヨ〜!?」
HELLOWEEN
※え〜・・・・申し訳ありません。何のオチも無い、ハロウィン小説でございます。神楽ちゃんは、純粋無垢なので。
銀さんのくだらない嘘とかにも、信じてたら良いなと。この作品を書いていた自身でさえ。
「ウィンさんが、ハローっていう祭りって何だよ?」と、一人突っ込んでいた次第でございます。←くだらな過ぎて、すみません。
新八君の扱いが、酷くて申し訳ありません。・・・・・銀さんもか(T▽T)←あれ?
いつも子供扱いされているので、神楽ちゃんにはそれを逆手に取ってもらいました。
子供として、楽しめば良いじゃない!お菓子強請れば良いじゃない!貰えなかったら、悪戯すれば良いわああ!
そしてお菓子をたくさん貰って、ほくほくしていたら良い。そんな神楽ちゃんが、可愛いです。
この様な駄文に最後まで目を通して下さり、真に有難うございました。
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