通い慣れた路を、2人と1匹が歩いて行く。

「――――そういえば・・・・。何か、今日。変だったネ」

「変て?何が?」

くされ縁・『真選組』の、いつもの奴等が。

私に酢昆布と、酢昆布以外のモノを手渡して来た事を。

隣で歩く銀ちゃんに、告げてみた。

「ふうん。――――良かったじゃねえか」

我関せず的な態度と言葉に、思わず眉尻が上がる。

「良くねえヨ!めっさ、気持ち悪かったアル!絶対、あいつ等――――何か、企んでるネ!」

普段なら『真選組』の事を、あまり歓迎していない家主の筈なのに。

僅かに苦笑いを浮かべ、弁護する様な言葉を吐いた。

「――――お前ね。そりゃあ、言い過ぎってモンじゃない?折角の好意だろ?有難く、受け取っておけよ」

「銀ちゃん!?奴等を庇う気カ!?

「いや、そういう訳じゃあ――――おっ♪見えて来たぜ?」

視界前方には、志村家の立派な門。

銀ちゃんは鼻唄を歌いながら、早足で歩き出す。

「あっ!ちょっと、待ってヨ!」

・・・・・まだ不満は残ったものの、急いでその後を追った。





「いらっしゃい。銀さん、神楽ちゃん。準備は出来てますよ?」

玄関先で出迎えてくれたのは、新八の姉であり。私が尊敬して止まない、女性。

志村妙――――姐御だった。

「準備・・・・・って。何か、予定あったけ?」

そんな話は、全く聞いていない。打ち上げやら、パーティをする時は。

事前に連絡が、新八から回ってくる筈だったし。

「うふふ。まあ、上がって?神楽ちゃん」

姐御に促され、首を傾げたまま――――靴を脱いでお邪魔する。

「悪いけど。オレ、まだ。『コレ』の仕上げ残ってから。後は、頼むわ」

同じ様にブーツを脱いだ家主は、白い箱を指差しながら私達にそれだけ言って。

この場から、離れて行った。

「―――――じゃあ、行きましょうか?」

踵を返し背中を向ける姐御の後を、付いて行く。

通されたのは、いつもの馴染みの部屋だった。

襖がピシリと閉められ、中を伺う事は出来なかったが。

閉じられた襖の前にいた姐御が、急に横にずれて。

「さっ。開けて頂戴?神楽ちゃん」

笑顔で言われ、首を縦に振り――――襖に手を掛ける。

徐々に開かれる隙間から、違和感を覚えた――――瞬間。

完全に戸が、開ききったと同時に。

乾いた発砲音と、数本のテープと色とりどりの細かい紙切れが。

前後から私の頭上に、降り注がれた。

「――――!?」

驚き見開いて、前後を確認すれば。新八と姐御が、クラッカーを手にしている。

お誕生日、おめでとう!神楽ちゃん!!

見事なハーモニーを奏で、笑顔を咲かせる姉弟。

見慣れた部屋には、大層な飾りつけがなされている。

誕生日 おめでとう!神楽ちゃん!』といった、プレートまで。

そうか・・・・!今日、11月3日ネ。

そうである、文化の日である今日は――――私が生まれた日。

何て事だ。すっかり、今日の今日まで・・・・忘れていたなんて。

「・・・・もしかして、神楽ちゃん。忘れてたの?」

新八が意外といった表情を浮かべて、質問を投げかけて来た。

「やっちまったアル・・・・。この私が自分の誕生日に、気付けなかったなんて。年は取りたくないモンだ

額に手を当て、やれやれと首を左右に振る。

「――――いや。つうか、まだまだ。10代でしょ?此処で悲観してちゃ、先が思いやれるよ?

すかさず新八が、ツッコミ。

「ほら!神楽ちゃん、座って。お誕生席、ちゃあんと用意してあるんだから」

姐御に後ろから背中を押され、『お誕生席』へと案内される。

「・・・・有難う、姐御。新八」

―――――何だか、ちょっと。照れ臭い。

「はあい。お待たせ〜。銀さんの、特製『ばーすでーけえき完成披露〜

縁側からいつも通りの、やる気の無い声で現れたのは。

「銀ちゃん!」

両手には特大の、ケーキ。

目を引いたのは、華美過ぎる程のデコレーション達。

「すげえだろお?何てったって、材料やら素材やら。拘って拘り抜いた、超一級品よ?
有名どこの、パティシエさえ。間違いなく、舌を巻いちゃうね糖分に対しては、妥協しねえから。オレ」

流石、甘味大王・糖分王の肩書きを持つ男だ。中途半端は、許さないらしい。

自信満々といった態で、上半身を僅かに反らせた。

「今朝から気力・体力を、全部コレに注いだからな。
感謝しろよお?神楽あ。銀さんの手作りケーキなんざ。そうそう簡単には、口に入れられないんだぜ?」

――――もしかして。今朝から、台所に入り浸っていたのは。

うん。有難う、銀ちゃん。とっても、嬉しいアル

嘘偽り無い、感謝の言葉が。自然と口から出て来る。

この言葉に満足したのか、銀ちゃんは唇の両端を上げた。

真選組の奴等の、プレゼント。気に入ったか?」

「・・・・・あ」

そうか。あいつ等が――――私に、酢昆布を手渡したのは。

誕生日プレゼント』だったんだ。・・・・とはいえ。酢昆布以外で、他に思いつくモノが無かったんか。

「まあ。オレが台所に入り浸ってる間に、暇なお前が散歩に出るのは分かってたからな。
時間稼ぎも含めて、奴等に頼んでおいたんだよ。本当は、嫌々だったけどなあ。
沖田君やゴリラならまだしも・・・・土方の野郎にだけは、抵抗があったというか」

「・・・・しかし。良く彼等が、引き受けてくれましたね?」

家主の説明に、新八が苦笑いで問い掛ける。

「新八君。このオレを、誰だと思っているのかね?ちゃあんと、条件は出したのだよ。沖田君には、喜んで『丑の刻参り』での支援だろ。土方の野郎には、『マヨネーズ』5本。そして、ゴリラにはお妙の――――」

其処で、姐御の怒声が響き渡った。

てめえは勝手に、何晒しとんじゃあああああああ!!

銀ちゃんのどてっ腹に、強烈で見事なワンパンが入る。※ワンパン()

うぐっふおおおおおおお!?

しかしそこは、糖分王。両手の上にある特製ケーキは。どうにか、死守した様だった。





「さっ!早速、誕生日会。始めましょう!」

新八の声を皮切りに、私のお誕生日会が開始された。

テーブルの上には、色鮮やかなオードブル・唐揚げ・軽食スナック等が並べられ。

真ん中に、銀髪男手製の誕生日ケーキが置かれている。

「かんぱ〜い!!」

蜜柑色の液体と、気泡を出す黄金色の液体の入ったグラスが。

ぶつかり合って、澄んだ音色を奏でた。

「んじゃあ、まあ。早速・・・・切り分けますかねえ」

「あっ、じゃあ。僕、その間に。定春に、餌を与えて来ますね」

そう言って新八は取り皿に、手馴れた手つきで料理を盛ると。

縁側にて控えていた、巨大な飼い犬の元へと向かって行く。

湯通しした、ナイフを片手に。

真剣な表情を浮かべた家主が、息を殺してケーキを分割していく。

・・・・・こんな真顔を、浮かべた銀ちゃん。見たの、久しぶりな気がするネ。

「―――――よしっ!こんなモンか?神楽、皿貸せ」

「うん」

指示された通りに、目の前にあった取り皿を渡すと。

ワンカットされた、美味しそうなケーキが戻って来た。

「・・・・とは、新八。お妙――――。んで!残りは、銀さんっと」

ちょっと待てえええええ!!

定春に餌を与え終えたメガネ少年が、銀髪男の背後から大声を出した。

「んだよ!?うるせえなあ?」

眉間に皺を寄せて、煩わしそうに肩越しから振り向く。

「明らかにおかしいでしょ!?何であんたの分だけ、1/2サイズなんですか!?」

よくよく見れば、確かに。銀ちゃんの分だけが。異様に、大きい

「うっせえ!作った奴に、優先権があんだよ!
これ作ったの、誰デスカ?オレだよね?銀さんだよね?異論は?勿論、無いよねえ!?

「誕生日ケーキで・・・・そこまでムキになるなんて。
あんた、ガキですか?
今日の主役は、神楽ちゃんなんですよ!?」

盛大に溜息を吐いて、新八は額に手を当てる。

「だから、ちゃんと!大き目のワンカットあげたじゃん!
しかも、『
HAPPY BIRTHDAY KAGURA』のチョコで出来たプレート付きで。
本当はあれも、オレ欲しかったけど
流石にそれはマズイだろ?って事で。
我慢して、譲った
んだぞ!?偉くない?

「・・・・いや。其処で、僕に振られても。何なら、神楽ちゃん本人に。聞いてみたら、どうですか?」

「んなの!異論ありの、反論ありに決まってんじゃねえか!」

・・・・・此処まで必死になる、家主の姿を見て。

異論や反論どころか、少々幻滅している自分に気付く。

―――――んっとに。本当に、20代の男なのか?

「もう良いヨ、新八。糖分に関しては、この男に好きな様にさせるしか無いアル」

「・・・・神楽ちゃんが、そういうなら。僕はもう、何も言わないけど」

仕方ないといった態で、新八は自分の席に戻り腰を下ろした。

それを見て、姐御が両手を軽く鳴らす。

「ほらほら。折角の、誕生日会なのよ?こんな脳味噌空っぽの、哀れな男なんて放っておいて。楽しみましょう?」

誰が脳味噌空っぽで、哀れな男だあああああ!

銀髪男の怒声が響く中――――楽しい誕生日会は、過ぎて行った。





美味しい料理達を、粗方食べ尽くし。

私の胃の中は、大いに満足していた。

「――――神楽ちゃん」

ふと、姐御から。声を掛けられて。

「どしたネ?姐御」

「これ、誕生日プレゼントなんだけど・・・・気に入って貰えるかしら?」

風呂敷に包まれた物を、手渡される。

「本当!?嬉しいアル!開けてみて良い?」

「ええ」

にっこりと微笑んだ姐御に確認を取り、私は包みを開いていった。

「・・・・うわあ・・・・・」

丁寧に折り畳まれた、黄色の着物と紺色の帯

白く小さな花達が、至る所で咲いている。

「神楽ちゃんに、似合うと思って。私のお下がりになってしまけど・・・・」

「ううん!凄く嬉しいネ!有難う!姐御!今度、着てみる!」

「良かったわ。喜んで、貰えて」

姐御から貰った着物を、風呂敷に包み直していたら。

――――今度は、新八から声が。

「神楽ちゃん。僕からも――――あるんだけど」

「え?新八も?」

一旦両手を止めて、対座した新八に向き直る。

「――――これ。神楽ちゃん、ずっと前から欲しがっていたから」

眼前に差し出されたのは、新しいチャイナ靴

「うわあ!本当に良いのカ?新八!」

毎日の様に足を通していた為、今履いているチャイナ靴が。

もうボロボロの域に、達していたのだ。

新しい靴が欲しいと思っていたが、何分購入出来る程の資金も無くて。

諦めに入っていた所で、このプレゼントは有難かった。

新八――――私の事を、見ていてくれたんだな。

心優しい姉弟に、胸が熱くなる。

「・・・・・本当に有難う。大切にするヨ」

二人からの贈り物に、大満足した私は。

お楽しみに取っておいた、銀ちゃんの特製ケーキを食べる事にした。

フォークを手に取り、差し込んで――――口元へと運ぶ。

「―――――――!」

う・・・・美味い!糖分王を名乗るだけはある、伊達じゃあない!

無我夢中で食べてしまい、あっという間に皿の上は綺麗に無くなった。

欲を言えば。もっと食べたかったが、それを言えば。

このケーキは渡さん!絶対に渡さんぞおおおおお!

と、言った反応が戻って来そうなので。やめておくことにする。

――――だが、その本人も。いつの間にか、姿を消しているのに気付いた。

飲んでいたアルコールが足りなくて、台所にいるのかも知れない。

・・・・やれやれ。本当に、糖尿病になるアル。

「ちょっと、厠に行ってくるヨ」

立ち上がり、近くにいた新八に一声掛けて。

私は、この場を後にした。




「ふう・・・・・」

用を済ませた私は、手を洗うと。

厠から出て、誕生会の開かれた部屋へと戻る事にする。

廊下を歩く途中で、見慣れた姿を発見した。

「銀ちゃん」

両腕組んで背を壁に預けた状態で、佇んでいる。

こちらから声を掛けても反応が無いので、もう少し近づいて再度名を呼んだ。

「銀ちゃん?」

「ん?ああ?」

ようやっとこちらを振り向いた男は、両頬を僅かに赤く染めている。

両目はトロンと力を無くし、しかもご機嫌らしく。唇の両端を吊り上げ笑顔を、浮かべていた。

「―――――酔ってんのカ?」

「馬鹿言うなって。これくらいで、銀さんが酔うタマかよ。まだまだ、これからよ?銀さんパワーが発揮されんのは」

けらけらと笑う銀髪男に、私は半眼で凝視するも。

「あんま、飲み過ぎんなヨ?ジャンプの主人公が、糖尿病になるって。
めっさ、恥ずかしいゾ?お『初』の称号、承る事になんゾ?」

「あっら〜?神楽ちゃん、心配してくれてんのお?やっさしい〜」

――――――駄目だ、こりゃ。相当アルコールを、含んだとみた。

「だ・れ・が!銀ちゃんを気遣うなら、もっと他の事に気を遣うネ」

それだけ言って立ち去ろうと、止めていた両足を動かそうとしたのだが。

一瞬だけ、目の前の視界が遮られた。

「!?」

――――と、思ったら。程よく筋肉のついた、男の片腕が映る。

どうやら、通せんぼをされたらしい。

「・・・・・この腕、退けてヨ。先、進めねえだロ」

全く。こんな酔っ払いに、構ってる暇なんかないのに。

だが眼前の男は、動く気配が無い。

両肩を竦め、軽く溜息を吐き――――遮った腕の下を通ろうと、腰を屈めた。

・・・・・その時。

私の顔に影が、重なる。

「?」

怪訝に思い、僅かに俯かせていた顔を上げた時だった。

「!?」

瞠目する瞳に映るのは、銀髪男の顔

男の『ソレ』が、ゆっくりと近づいて―――――。

「ぎん・・・・・」

最後まで名を呼ぼうとしたのだが、それは叶わぬ事となる。





「―――――――――」





数分だったのか・・・・それとも、数秒だったのか。

間近にあった家主の顔は、先程と同じ様にゆっくりと離れて行く。

クリーム。付いてんぞ?

短くも、はっきりとした口調で。

言葉を発すると、銀ちゃんは踵を返して。

何事も無かったかの様に、のんびりと歩み始める。

「――――――」

・・・・・びっくりした。心臓が、爆発するかと思った。

心なしか、頬が熱い―――――。

両膝の力を無くし、壁に沿って。ズルズルと、身体は沈んで行く。

無意識に震える手で、今先程。銀髪男が触れた部分に、そっと触れてみる

熱を帯びていた部分も、今は外気に晒され――――冷えていた。

己の唇から、僅か右・・・・・数センチの距離。

其処を唇で触れて―――――銀ちゃんは、舐め上げたのだ。




んな・・・・モ・・・・・ン。口で、言えヨ





最後の最後で。こんなサプライズが、あったなんて思いもしなかった。





※前後編で神楽ちゃんのお誕生日小説、書かせて頂きました!長くなってしまい、大変申し訳ありません(T▽T)
神楽ちゃんを総受けにしてしまえ!と思い立ち、真選組の皆様に出張って頂きました。と言っても、ほんの少しですが。
今回は神楽ちゃんも、誕生日忘れていたという方向で。皆からの言葉で、気付かされる!みたいな。
銀さんはケーキ作りが得意そうなので(第1巻、初登場時ではケーキを作っていた様な)、神楽ちゃんの為に作って頂きました!
絶対美味しいと思うんだ。材料とかに拘っていそうだ。でも自分で半分以上は、食すと思うんだ。←勝手な想像です。
最後の最後で、銀神で締めさせて頂いたんですけれども。ちっとも甘く無いですね・・・・・私の文才じゃこれがあ、限界。←開き直ってる。

この様な駄文に目を最後まで通して下さり、真に有難うございました。


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