ホワイトデー前日。
『3月14日は―――是非、お店の売り上げに貢献して頂戴。
頼んだわよ?NO.1ホストさん?』
耳を疑う様な台詞を吐いて、眼前にいた妖艶なチャイナ美女は笑った。
SOUL LOVE
――――オーナーの命令に、従ったのかって?
勿論・・・・従う訳が、無い。
本日はホワイトデーであり、数多の上客を相手するよりも。
心に宿る愛しい女、唯一人の為にあるのだ。
当然の事ながら、オレは仕事をOFFにした。
今日――――此処へ来る前に、勤務先へと顔を出し。
和製ホストNO.1だった、ケツ顎新八に――――無理を言って。
『ヴァレンタインのお返しは、このダン箱に入れてあるからよ。
気持ちって事で渡しといてくんない?』
右手の親指で示した先は、ダンボール箱`5つ分の『ホワイトデー』。
オレが仕事を休むなんて、思ってもみなかったらしく。
新八は驚愕の表情を浮かべて、「はい?」とだけ聞き返してきた。
『悪ィけど。今日客の相手、してらんないのよ。行く所あっから』
「んじゃ、後宜しく」と、右手を掲げて店を出ようとしたら。
『ええ!?ちょっ・・・・待って下さいよ!急にそんな事言われても!金さん!』
背中に焦りと戸惑いの混じった声が、聞こえて来たが。
――――敢えて無視をし、現在に至る。
胸中にて「悪いな」と、謝罪の言葉を浮かべながら。
もう何度も、通っている・・・・彼女の家までの道程へと繰り出した。
自然と足も、早く動き出すってもんだ。
ジャケットのポケットに忍ばせてある、『合鍵』を強く握り締めて。
我が愛する、『オーナー』の元へ。
都内の一等地に、堂々と建てられた超高級高層マンション。
同時に開かれた、自動ドアを潜り――――。
オートロックされた、ドアの前に佇むと慣れた動作で。
部屋番号と呼び出し音を押さずに、オレは合鍵を鍵穴に差して右に回した。
ロックは解除され、閉ざされていたドアが左右同時に開かれる。
鍵穴から合鍵を抜き、エレベータへと足を運んだ。
愛しい女が住まう部屋は、このマンションの最上階。
両目を瞑ってでも押せる、階の数字を右手の人差し指で押した。
僅か1分足らずで、目的階数へと到達。
軽快な音と共に、鋼鉄のドアがゆっくりと開き出す。
半ば急ぐ様にその間をすり抜け、目的の部屋へと向かった。
ドア前に辿り着き、一応身形を簡単に整えて。
インターホンに備え付けられた、呼び出しボタンを押す。
『・・・・・・・』
返答は――――無い。
もう、一度。
『・・・・・・どちら様?』
今まで寝ていたのか、それとも疲れているのか。
少し気だるそうな声が、オレを出迎えた。
「どお〜も。貴方の心のオアシス、金時で〜す」
『・・・・・・何しに来たの?』
おんやまあ。つれねえお言葉だこと。
「先月――――今日、一日。傍にいると、言っただろ?」
ヴァレンタインの日―――――オレが彼女に向けて、言った言葉。
ところが・・・・インターホン越しから、深い溜息が聞こえて来た。
『私の言った言葉、覚えてる?』
「勿論。ちゃあんと、頭に入ってるぜ?」
『じゃあ、とっとと。お店に戻って』
「心配いらねえよ。算段は、付けてあるから。オレがいなくても、売り上げは上々さ」
新八を始めとする、肝の据わった野郎達がいるんだから。
『・・・・大した、自信ね。事後報告で、売り上げが伸びてなかったら・・・・』
「どうする?オレを、クビにでもするか?」
クビにされようが、何だろうが。
オレは彼女から、離れる気はさらさら無い――――が。
『別れるわ。―――どうせ、週に一度の恋人だしね』
心臓に悪い台詞を言われ、思わず苦笑い。
「・・・・とりあえず、中入れてくんない?
まあどっちにしろ、鍵あるから入れちゃうけど」
プッとインターホンが、切断され・・・・数秒後に。
オレと彼女を隔てていたドアが、徐々に開き始める。
「・・・・・それ。いずれ、返して貰うわよ」
そう言って――――――少し、不機嫌な表情で招いてくれた。
だがどんな顔でも、この妖艶な超絶美女は。
オレの心を捉えて、離そうとしてくれない。
「お邪魔、しま〜す」
広い玄関に長い廊下・・・・そして、これまた広大なリビング。
視界に映った大きな窓からは、100万ドルの夜景。
スクリーン程の液晶テレビ、その前にはガラステーブルと本革のソファが置かれている。
あまり物を置くのが、好きでは無いと言っていたのは記憶してるが。
必要最低限の物だけしか、置いていない為・・・・えらく閑散としてる気も。
分かりやすく言えば、最上級のホテルのスイートルームに物が全く無い感じ。
「・・・・いつ来ても、思うんだけど。1人で住むには広すぎねえ?」
「1人じゃないわ。定春がいるもの」
―――――ああ。あの小さいわんこね。
「そういやあ、キャンキャン言わねえなあ」
首を左右に動かし、小さな白い犬の姿を探そうとするが。
「もう自室で、寝てるわ。誰かさんと違って、規則正しい生活を送ってるから」
・・・・・マンションの一室を、飼い犬に与えるって。
「それって、お前の事?」
「――――残念ながら、私は一応規則正しい生活を送ってるわよ。貴方が来ない時は」
両肩を竦め、盛大に溜息を吐いて。
いかにも座り心地が良さそうな、ソファにその身を沈めた。
「ひょっとして、寝てた?」
「―――――いいえ」
細く華奢な首を、左右に振る。
「それとも、疲れてる?」
「―――――ええ。貴方が、此処に来た瞬間にね」
オレは再度苦笑いをし、隣に腰を下ろした。
「そう、言うなって。今日は『ホワイトデー』だぜ?お返しさせてくれよ」
超絶チャイナ美女は、両腕を組むと同時に。
チャイナドレスのスリットから、すらりと伸びた美脚を露にして足を組む。
「一応、伺いましょうか?貴方の『お返し』って?」
オレは腰を持ち上げ、片膝を付き――――右手を胸に置く。
まるで女王の前に膝を折る、臣下の様な動作で。
「坂田金時の――――とっておきの、『愛』を」
しかし彼女は、鼻で笑うと。
「そんな事だろうと、思ったわ。――――お断り」
流石に本命相手に、シャットダウンされ――――思わず眉間に皺が寄る。
「即、却下かよ。いくら何でも、酷過ぎねえ?」
「何度も、言ってるけど。そういう台詞は、貴方の上客達に言ってあげたら?
凄く喜ぶわよ、きっと」
・・・・・全く。いつになったら、オレの気持ちを理解してくれるのやら。
オレには、お前しか眼中にないんだって事を。
「言いたい相手にしか、言わねえよ。正直モンだから、オレ」
―――――そう。神楽しか見えない。
どんな台詞を吐かれようが、態度をされようが。
そんなモン、オレん中ではどうでも良い事で。
「――――愛してるのは、お前だけ。お前しか、いらねえよ」
これ程言葉を紡いでるのに、愛しい女はちっとも表情を変えやしない。
右手の親指と人差し指を、シャープな顎に掛ければ。
振り払おうと、細い腕が動き出す。
空いてる左手でそれを阻止し、一気に唇を塞いだ。
固く閉じられた、頑固な唇。
―――――だが。それも、数分の間だけの事。
一文字だった唇は解かれ、深く絡み合う様な接吻に変わる。
開かれた隙間から、微かに漏れる吐息だけで。
身体中に、電気が走った感覚に陥る。
夢中で貪る様に・・・・激しく、求めて。
名残惜しさを感じながらも、一旦唇を解放する。
お互い絡み合った銀糸が、重力に従い放物線を描いて落ちた。
――――ふと、己の唇に何かが触れて。
「?」
眼前の女が魅惑的な笑みを浮かべ、細く白く美しい指でなぞり始めたのだ。
その仕草だけでも、脳内が麻痺する様で。
背筋が――――粟立った。
「お返しは・・・・とっておきの『愛』って・・・・言ってたわね」
「ああ」
「―――――見せて、貰えるの?」
「勿論」
「―――――感じさせて、貰えるの?」
「当然」
「―――――満足させて、貰えるの?」
「無論。ご期待に、添えますよ」
つうっと滑っていた指が、下唇でぴたりと止まり。
「私が――――満足しなかったら?別れるだけじゃ、済まないわよ?」
そう言うと今度は、意地の悪い笑みを浮かべている。
「何でも、お望みのままに――――オーナー」
オレは下唇に止められていた指を、ぱくりと咥え――――。
挑発的で好戦的な碧眼を凝視し、極上の笑顔を浮かべた。
これ以上の『愛』を。望むなら。
――――己の『魂』を、全て貴女に捧げましょう。
※先月のヴァレンタインに続き、ホワイトデー編です。
ウチのサイトの金さんは、上司である神楽さんにメロメロに惚れております。
他の女性達なんか、目に入ってない感じ。
それに対して、神楽さんはいつも金さんの前ではクール&つれないです。
でも本音は、金さんを愛してます。
本誌でもこんな二人を拝んでみてえ・・・・・ORZ←高望みだろ。
この様な駄文を最後まで読んで頂き、真に有難うございました。
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