LOVE AFFIAIR 前編

火花を散らした、大輪達は―――――。
焼け付いた匂いを漂わせ、観客達の視線を浴びながら。
その姿を暗闇の海へと、姿を消していく。

「綺麗ですね」

「―――――ああ」

うんざりする程の群集に混じって、隣で顔を煌かせながら呟く教え子に。
高々と擡げた首を摩りながら、短く返答。
確かに綺麗だけども・・・・・約2時間近く、この態勢だと流石にきついなあ?おい。

煙草を吸おうにも、吸えやしないし・・・・・。
どして?って?ほら、良くあんだろ?
最近の、『禁煙ブーム』だっけか。

箱から取り出して1本咥えた瞬間、こぞって痛い視線が身に降り注ぐ訳よ。
小さいガキを連れて来てる、家族連れなんて特に。
『こんな所で吸うな』的な、オーラ全開を醸し出してくれちゃうから。
お陰様でこのスモーカーのオレが、2時間近くも紫煙を吐いてない。

・・・・やれやれ。

本当『喫煙者』にとっちゃあ、肩身狭い世の中だねえ。
なあんて内心、一人愚痴っていたら。
「――――先生?聞いてる?」と、再び声が聞こえてきた。

「んあ?」

一度視線を空から離して、移動させる。

「花火・・・・これで、もう終わりみたい」



小声で呟き終えたと同時に。
高々と連続で咲いては弾け飛ぶ、複数の大輪の花達が一斉に夜空を彩り始めた。
大音量に釣られる様に、再び視線を夜空へ向ける。

数十分後には、静寂と闇だけが――――浜辺を支配し。
『花火』と言う風物詩の、幕が下りた。

あれだけ混んでいた会場が、どんどん波を退いて行く。
ようやっと、スペースを保てる様になって来たので。
オレはぐんと、背伸びをする事にした。

「疲れました?」

「あ〜・・・・まあ、ちょっとは」

あれ?何か身体、ポキポキ言ってんですけど。
ひょっとして、鈍ってんのかあ?

「――――本当に20代?実はサバ読んでるデショ?」

余程疲れてる様に見えたのか・・・・じと目の、からかい口調。
良い度胸じゃねえのよ?そんな台詞吐いちゃう訳?

「あ、そういう事言っちゃうんだね?神楽君。良いんだよ?別に、先生は。
お前がどうしても、花火大会に来たいって言うから。
己の保身も考えず、可愛い教え子兼彼女の為に危険を冒して―――――ひょっとしたら。
同じ高校の生徒達がいるかも知れないのを、承知で来てやったってのに。
そこまで言われるとは、まあ心外?つうか、泣いても良い?」


「――――あ・・・・いや、だから!こうして、少なからずとも変装を――――!」

慌てふためく留学生を他所に、冷静にツッコミ開始。

「変装たって・・・・お前お団子頭から、髪下ろして。
瓶底眼鏡外しただけじゃねえか。んなモン、分かる奴あ、分かるっての」


「へ?そうかな?」

あまり危機感の無さに、思わず溜息。
―――――本当コイツって、どうしてこうな訳?

改めて反論しようとした時-――――。
背後から「あれ?銀八先生!?珍しいですね」と、声を掛けられた。

一瞬だけ身体が硬直―――――鼓動が高鳴った。
出来るだけ自然体を装い、「よお」と振り返る。
目の前に立っていたのは・・・・よりによって3−Zの奴等。

「先生も、花火大会に?」

この状況下で他に何かあんのかよ?
・・・・・と。聞き返したくなる質問を、して来たのは。

ラフな出で立ちの、三人組の一人で。
ツッコミだけが取り得な、ダメガネ事・・・・志村新八。

「一人で見物ですか?あらあら。寂しい人生、送ってるんですね」

爽やかな笑顔で、毒を吐く志村姉・志村妙。
つい「誰が寂しい人生だ、こらあああ!」と額に血管を浮かべ反論。

「もしかして、連れがいたのか?邪魔して、すまない」

一番マシな言葉をくれた、柳生九衛兵。
あ〜・・・・もう先生、今君にオール5を捧げてやりたい気分です!

「え?連れ?・・・・・って。誰かといらしてたんですか?」

オレの背後を志村弟が、覗こうとしたので。
慌てて視線の先を隠そうと、身体を動かせば。

「――――――誰も、いませんけど?」

・・・・・・・は?

肩越しから振り返り、今まで『アイツ』がいた場所に視線を送ったが。
遠くで観客達が、波打ち際ではしゃいでるだけで――――――蛻の殻状態。




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