CAN‘T TAKE MY EYES OFF OF YOU 前編
―――――非常階段ってのは、便利だ。
言葉の通り非常時にしか使われない上、滅多に人がいる事がない。
『ペロペロキャンディ−』として偽るこのタバコを、悠々自適に吸う事が出来る。
・・・・が。
たまにこの場所を―――――二人の愛の世界に使おうとする、生徒達もいて。
勿論人様の幸福を見て、このオレが喜ぶ筈もないので。
思い切りぶち壊させてもらってる・・・・つか、当然じゃん?
唯でさえ自分には、甘い時間を一緒に語らえる女なんかいないってのに・・・・。
何が悲しくて教え子達のラブラブっぷりを、見過ごさなくちゃなんね−んだよ。
―――――え?器量の狭い男だって?
ああ、そうですよ?その通りだよ。悪ぃか?このヤロ−。
何を言われようが、全然良心痛みませ〜ん。
さっきも案の定非常階段の扉開けたら、いちゃついてる生徒がいて。
むかついたから。
その間に入り込んで、モクモクと煙吐いてやったもんね。
学校でいちゃついてんじゃねーぞ。
せめてオレのいない管轄で、しやがれってんだ。
自分でも理不尽だと思える怒りを感じながら―――――紫煙を吐き出す。
すると―――――背後で扉の開く音がした。
「あ、先生。やっぱり此処にいた。」
風に煽られた髪・・・・・オレにしてみれば、嫌味か?ってぐらいの。
サラサラな桃色の髪を2つのお団子にして、押さえながら現れた女子生徒。
自分が受け持つクラスの留学生―――――神楽だ。
「あ〜・・・・何ですか?神楽ちゃん。此処は立ち入り禁止だよ?」
「じゃあ何で先生は、此処にいるんですか。全然説得力ありませんヨ。この不良教師」
恐らく見た目は可愛いのだろうが、瓶底眼鏡を掛け―――――開いた口はこの辛口調。
初めて見る奴には、すざまじいギャップを覚えるだろう。
「――――先生は、此処でゆっくりしてたいんだよ。用がねーなら、戻れって」
「用はちゃんとあります。先生を探してたんです」
「は?どして?」
「その脳味噌は飾りですか?今の3−Zの授業なんだったか、思い出してヨ」
―――――ああ?授業・・・・?あれ?―――――現国・・・・?
オレの顔を見ていた神楽が、気付いたと知ると。
「やっと思い出しました?チャイム鳴っても、全く来る気配がなかったから
日直である私が探しだす羽目になったんです。全く・・・・此処までの貴重な時間、返して下さい」
やれやれと言った態で、溜息を零す。
―――――常々思う・・・・コイツ、本当。口だけ変えて貰う事出来ねーかな?
・・・・どこからそんな言葉、出てくるんですか?
・・・・オレの事、ちゃんと教師だって理解してマスカ。
「――――ああ、じゃあ自習でもしとけ。それかジャンプの感想文でも書かせっかな」
立っていた膝を折る様にして、階段に座り込むと着ていた白衣の裾が広がった。
「・・・・授業しないんですか?」
頭上から聞こえて来る言葉に、「面倒だからな」とだけ答える。
「・・・・じゃあ私も、此処でサボろうかな」
そう言って神楽が隣に座り込んだ―――――。
・・・・おいおい――――いくら何でもそれは、マズイだろ?
傍から見たら、教師と生徒がこんな場所で何してんの?って・・・・まあ囲いで見えないけど――――。
目の前には少し空間を開けて、コンクリ−トの壁があるだけ。
自分の肩数センチ先に隣に、神楽の肩があって。
―――――何だよ・・・・これ――――やべえよ、オイ。
「お前ね、こんな所誰かに見られたら大変だよ?噂が広まっちゃうよ?
・・・・だからとっとと、教室に戻んなさい」
出来るだけ、平静を装う。
「どして?私は別に先生となら噂が立っても、構わないよ」
――――――目が点になるとはこういう事を言うのだろうか・・・・。
「は?・・・・何を言って―――――」
まさか・・・・まさかよ――――?
「先生の事が、好きだから」
こういう展開になるとは、思わねーだろ?普通。
・・・・落ち着け、オレの心臓。
ああ〜・・・・これは、あれだ。
つまりコイツは勘違いしちゃってるんだな?
LIKEの好きとLOVEの好きを、履き違えてるんだ。
――――――そうに決まってる。
じゃなきゃ、こいつの口からそんな言葉が出てくるもんか。
――騙されんぞ、オレは。
「・・・・そんな簡単に、『好き』なんて言葉使うもんじゃねえよ。
本番の時の為に、大事に取っとけって」
喋った反動で、咥えていたタバコの灰が――――コンクリ−トの床へ静かに落ちた。
紫煙は、空気と同化し消えていく。
「だから」と。
隣から、凛とした高い声。
「――――――今が、その時なの」
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