AIR MAIL 前編
いつもの様に、並んでいる。
『坂田』名義のポストを、確かめる。
「・・・・・・・」
スチール製で、出来た箱の中に。
数枚のチラシと、公共料金の明細等。
そして。
――――――数通の封書。
それらを手にして、階段を昇り。
自室へ向かう。
もうこの行為は、既に習慣化され。
ひどいと、1日に2・3回は。
中身を覗く、羽目になってしまった。
そんな自分が、無性におかしい。
背広のポケットから。
鍵を取り出し、ノブを回す。
出迎えるのは、暗闇の部屋。
玄関の照明を、付け。
革靴を脱ぎ、緩んだネクタイを外しながら。
先程のポストの中身を、テーブルに放り出す。
すると。
散らばった中に。
「――――――あった」
『AIR MAIL』。
と、書かれた封筒。
テーブルの上に置かれてる、煙草に手を伸ばし。
咥えながら、封筒を開け。
ライターで火を点し、中身に目を滑らせた。
「3−Z」の担任として。
個性が強い奴等ばかりだった、生徒達を。
無事、卒業させたのは二年前。
式も終え、最後のHRも終わり。
やっとコイツ等から、解放される喜びと。
少し寂しいと思う気持ちが、残ったまま。
教室を後にしようと、した時だった。
「先生!」
肩越しに振り向けば。
「――――――?何だよ、神楽」
留学生は卒業証書の筒を抱え、眼前に立ち。
「今まで、有難うございました」
ペコリと、頭を下げる。
「いんや、別に。礼言われる程の事、してねえし。お前等の力で、卒業したようなモンだろ?」
「なるほど。それも、そうですね」
あっけらかんと、返答する神楽。
「―――――――」
あ〜・・・・いや。
確かに、オレ等教師ってのは。
生徒達を導き、時には叱咤激励し。
影から支える存在・・・・だと思ってるんだが。
そうも、簡単に頷かれちゃうと。
立場無いって言うか?
・・・・まあ、良いか。
「んで?どした?」
「先生の住所って、変わりませんよね?」
「・・・・当分はな。それが?」
意図が掴めず、首を傾げる。
すると神楽は、急に顔を俯かせ。
「―――――先生に、『手紙』書こうと思って」
「・・・・・手紙?」
「そう。私明日で、『日本』離れるし」
そう言えば、コイツの進路って。
『故郷に戻る』だったっけ。
「だからって、どうして・・・・オレに手紙?」
神楽は俯かせていた顔を、急に上げて。
「そ・・・・れは・・・・その」
「?」
言葉を詰まらせ、理由を述べようとしない。
仕舞いには、慌てる素振り。
「―――――とにかく、送らせて下さい」
「・・・・別に構わねえけど。・・・・送るんなら、メールでも良いんじゃね?」
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