AIR MAIL 中編



あまり深く考えず、返答したら。
神楽は、じと目で質問をして来た。

「・・・・先生、パソコン持ってましたっけ?」

―――――あ・・・・持ってねえや。

首を左右に振り。
持っていない事を、ジェスチャーで示す。

ちなみに、今のご時勢で。
携帯すら、持ってやしない。

周囲からは、『買え』と。
口うるさく、言われているが。
まあ、いずれって事で。

しかし。

「何だって。そんな――――手紙に、拘わんだよ?」

「メールとかって、便利ですけど。イマイチ感情が、伝わりにくいって言うか。
まあ絵文字とか顔文字とか、入れれば伝わりやすいんでしょうけど・・・・元から、苦手なんですよ」


「手紙だって、変わんなくね?」

「そんな事ありませんて。字には魂が篭るって言うデショ?」

―――――まあ、そんな言葉があった様な。

「送られても、返事出さねえよ?」

何せ面倒臭がりだし。
今までも。

手紙を読んでも、返事を出した事。
あんま無い気がする。

この言葉に、神楽は。
納得した表情を浮かべて。

「先生ですもんね。構いませんよ、でもちゃんと読んで下さいよ?」

確実に「分かった」とは、言えないので。
「読む・・・・努力はする」と、言葉を濁した。

「良かった」

話が一段落着いた所で。

「神楽ちゃん?もう行くよ。」と、呼ぶ声がした。
「今行く」と、返事をし。

「これから、姐御達と『卒業パーティー』するんです。私の送別会も兼ねて」

オレは両肩を竦め、笑みを浮かべ。

「行って来い、馬鹿騒ぎして来い。許されんのは、今のウチだからな」

このぐらいの年齢になると。
『若気の至り』なんて言葉は、使えない。

「じゃ、先生。さよなら」

「おお。気を付けろよ」

踵を返す、お団子頭の少女を。
見送った、あの日。







―――――故郷に戻った、その翌日に。
手紙を書いて、空の便に乗せたらしく。

初めての『AIL MAIL』が。
数日後、この手に届いた。

それから、月に一度

決まった日では無く、ランダムで。
アイツ仕様の便箋・封筒が。
自宅のポストに、収まる様になる。

記念すべき1通目、書かれてる内容は。
他愛もない事で。

地元での生活や、その日の出来事。
『煙草の吸い過ぎ注意』と言った
オレの体調を、気遣う文面だったり。

だが。

2ヶ月を過ぎた頃。

送られて来た、手紙に。
オレへの気持ちを、綴られた文章が書かれて。

何故卒業式の日に、手紙を送ると言い出したのかも。
全ての理由が、此処に記されていた。

何度も消しては、書き直したと思われる



『会いたい』の、文字と一緒に。



「――――――馬鹿ったれ」

読み終わり、つい漏らした言葉。
瓶底眼鏡を掛けた、お団子頭の少女が
脳裏に浮かぶ。

最初から素直に、そう言えば良いだろが。

でも多分、その時正直に。
アイツの口から、聞いたとしても。

自分がどう、答えていたかなんて。
想像も、つかない。

その後も。
返事も来ない相手に。

『真剣な想い』を、文面にし。
手紙を出して来る、少女に対し。

・・・・己の胸の中に、少しずつ。

『ある感情』が、芽生え始める




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