Influence 前編
『先生のべスパに、乗せて?』
―――と・・・卒業式後に、現国準備室前で。
アイツがオレに、向かって言った言葉。
「そんなモンで良いのか?」と、思わず聞き返した。
すると笑顔を、浮かべて頷き。
『―――うん。これなら、先生の財布も傷まないでショ?』
・・・・・まあ・・・その通りなんだが。
「別に遠慮いらねえぞ?」と、見栄を張ってみる。
大の男が・・・年下の少女に。
気を遣われちゃ立つ瀬無いし、居た堪れないっての。
「高級」の名が付く、品物は買ってやれないが。
そこそこの・・・モンなら――――。
『ううん、良い。それよりも、先生の愛車に乗ってみたい』
――――そこまで、言うんなら・・・・。
「構わない」と、言葉を述べると。
瓶底眼鏡から少し覗かせた、2つの蒼い瞳が弧を描き。
『アリガト』
そう言って、淡い唇の両端を上げた。
3月14日――――放課後。
愛車に腰掛け、背広の胸ポケットに手を突っ込み。
タバコを取り出し口に咥えて、火を点しながら。
校舎裏にある、駐輪場に一人佇む。
遠くグランドから、運動部の掛け声。
あんなに暗くなるのが早かった、空の色も。
まだ明るさを、保っている。
腕時計に、視線を移せば。
「・・・16時半か」
予定では17時に、アイツの家の前で待ち合わせ。
・・・・そろそろ、行くとしよう。
短くなったタバコを、携帯灰皿に押し込み。
べスパのキーを差込み、エンジンを掛け。
アクセルを回して、職場を後にした。
学校帰りの生徒達を、両脇にちらほら見掛けられて。
「先生、さよな〜ら」と、挨拶をされる。
「遅くならねえ内に、とっとと帰れよ?」
と―――教師らしい言葉を口にして、通り過ぎ。
街中―――住宅街へと、愛車を走らせる。
――――確か・・・この辺りだったような。
「ん?」
前方に見慣れた『元教え子』が、暇そうに佇んでいて。
目の前でブレーキを掛け「よう」と、右手を上げた。
「お疲れ様、先生。―――約束の時間より、早いですね」
「まあな。こうみえても時間には、几帳面なのよ?オレ」
「・・・そうだったっけ?授業の時間、結構遅れて来てた気がするけど。」
両腕を組み、じと目で反論して来たので。
「うるせー。それはそれ、これはこれだ」
開き直りの言葉を、神楽に返し。
改めて私服姿の、少女に視線を戻すと。
メットを被る為か、今日はお団子にしておらず。
サラサラのストレートヘアが、一房肩から毀れ落ちた。
それどころか、瓶底眼鏡も掛けていない。
「・・・・・・・・」
――――セーラー服を着ていた時とは、全くの別人。
・・・・大人びた様な・・・気がしないでもない。
髪型と服装が、違うってだけで。
こうも印象が、変わるもんなのかね。
ある意味・・・・新鮮・・・・だよな。
「先生?どうかしました?」
「――――あ、ああ・・・別に。あの瓶底眼鏡は、どうした?」
誤魔化す様に、返事をして質問をする。
「メット被るのに、邪魔かなと思って。一応コンタクトに変えました」
「そうか――――よしよし、ちゃんとオレの言う事を聞いてるな」
「何が?」
「少し厚手のコートかダウンジャケット、デニムのズボン。
んでもって、手袋&スニーカー」
「だって、何度も繰り返すんだもん」
「ば〜か。お前ね、二輪を舐めちゃいけねえぞ?」
単車程じゃねえが、バイクに乗るには。
それなりの、装備が必要になる。
いくら3月中旬とは言え。
スピードに乗った、向かい風は冷たい。
一度べスパから降り、シートの部分を上げて。
中からもう一つの、メットを取り出すと。
「ほれ」と、神楽に手渡した。
「スペア、あったんですか」
「ああ、オレのお古だけど」
ちらりと、オレの方を見やって。
「――――大きくないかな」
「そりゃあちょっとは、緩いかもしれねえけど。
何枚かタオル敷き詰めてあっから、平気だと思うぞ。
まあ・・・良いから、被ってみろって」
首を縦に振り、持っていたメットを頭に被せる。
慣れない手つきで、ベルトを締めて。
「・・・・少し緩い気もするけど。大丈夫そうかも」
「ほんじゃ、まあ・・・・どうぞ」
少し前にずれて、乗れるスペースを作ってやり。
右手で軽く、その空間を叩いた。
覚束ない動作で、シートに跨ると。
「お邪魔します♪――――うわ、何か変な感じ。」
「――――危ねえから。しっかり腰でも腹でも、掴まっとけよ」
「うん」
未だにメットの位置を、微調整しつつ頷く。
「――――で?何処に行けば良いんだ?」
「う〜ん・・・そうですねえ。―――――海!」
即答なのは、何よりだが。
無意識に眉間に皺が、寄ったのが分かった。
「・・・・海?今から行ったって、暗いだけだぞ?海風だって冷たいだろうし」
「ダメですか?―――先生、その格好じゃ寒いかな」
2つの碧眼がオレの姿を捉えて、ご丁寧に上下へと行き来する。
別に心配して貰う程の、格好してねえけどな。
背広の上に厚めのコートを、羽織ってるだけだし。
「お前が良いってんなら、構わないが」
「そんじゃ、決定」
「はいはい」
アクセルを掛けながら、ふと内心呟く。
―――オレは・・・別に何処だって、良いんだよ。
お前と一緒に、過ごせれば・・・・・それで。
ゆっくりと前進させ「走るぞ?」と、一声掛ければ。
「うん」と返答が、来たので。
海までの路を目指し、二輪を発車させたら。
「ひゃあああ」と、背後から甲高い声。
遠慮がちに、腰に置かれていた両手が。
いつの間にか、腹に移動している。
背中から回される、二本の腕。
じんわりと―――伝わって来る、神楽の体温。
※少し早めの、「ホワイトデー」ネタです。
先月銀八先生視点で、書くか悩んだのですが。
やっぱり書きたいと、指が勝手に動いてました。←無理がある。
これもまた・・・長くなると思います。
まとめられるだけの、文才が欲しい・・・・ORZ←滝涙。
この様な駄文に目を通して下さり、真に有難うございます。
引き続き、物語を楽しんで頂ければ幸せです。
※以前ブログ掲載したものより、抜粋。加筆修正あり(09/03/10)
→後編
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