ETERNITY 後編
「・・・・・・・・・」
無言で、ショーケースの前に立ち。
銀色の輪に鎮座する、輝く透明な『石』達。
その大きさは、ピンキリ。
値段もそれらに、合わせてある様だ。
――――大変申し訳ないんだが・・・・。
宝石の大小は、分かるとしても。
それ以外の差って言うのは、ちっとも分からん。
どれもかしこも、同じに見えてしまう。
よくよく、目を凝らせば。
銀色の輪の部分が、多少なりと異なっている。
「・・・・いろんなのが、あんだなあ」
屈めた腰が少しずつ、痛みだしたが。
そんな事は、気にも留めず―――再び、睨めっこ。
アイツの細い指だと―――こんな感じか?
・・・・いや、待てよ?ひょっとしたら、こっちの方が―――。
「どんな指輪をお望みですか?」
頭上から降る、店員の声。
「―――えっと・・・どんな―――どんなかあ・・・・」
自分でも分かってねえのに、説明はしづらい。
すると再び、違った質問。
「お相手の方は、どんな方でしょうか?イメージによって、指輪も決まりやすいと思いますので」
「そうだなあ・・・まず、大飯喰らい・毒舌・未だに酢昆布好き――――」
オレん中の頭にある、アイツの事を口に出すと。
「あ・・・あの、お客様?」
――――と・・・戸惑った様な笑みと、態度で言葉を遮る。
「そういう事では無くて・・・例えば、可愛らしいとか。綺麗とか・・・・」
「――――ああ、そういう事ね?」
どんな方と聞かれたから、思わず素で話しちまった。
両腕を組み、改めて思考を巡らせる。
『銀ちゃん!』
突如浮かんだ、アイツの笑顔。
思わず毀れた、無意識の言葉。
「・・・・・笑顔の・・・似合う・・・可愛い奴かな」
「可愛い方なのですか?」
笑顔で質問されて、再び額から大量の汗が流れる。
・・・いや・・・だからね?聞き返さなくて良いから!
めっさ、恥ずかしいんだって!
「――――それでしたら、この様な指輪はいかがですか?」
両手に、手袋を嵌め。
事前に準備されたと思われる、リングケースに。
取り出した指輪を溝に嵌める。
確かにデザイン的には、可愛らしさがあるのだが。
―――アイツのイメージとは、違う気がする。
眉間に皺を寄せて、首を傾けると。
「―――でしたら、こちらは」
再びショーケースから、取り出し溝に嵌める。
さっきの指輪よりは、少し大人びている気はするけど。
・・・これも何か、違う・・・・。
「う〜・・・む」
指輪選びって、ムズイよなあ。
それぞれ、デザインの好みがあるし・・・。
「―――――む?」
ふと視界に映った、『指輪』。
店員も気付いたらしく、「ああ、これは」と。
ショーケースから取り出し、リングケースに収める。
「手作り物でして。と言っても、そんな値は張るモノではないんですけど」
「――――どして?手間が掛かってんじゃないの?」
「売り手側――――これを作成された方が。
この指輪で、二人の愛を繋いで貰えたら。それが何よりの、『報酬』だと申されて」
再び視線を、指輪に戻せば。
至ってシンプルで、飾り気も何も無い。
―――――けれど。
作り手の願いが篭められた指輪が、他のどんな指輪よりも輝いて見えて。
「・・・気に入った。これ―――貰える?」
「畏まりました。只今、お包み致します。まずはお会計を―――」
そう言うと店員は、レジに向かう。
だが突然――――進めていた、歩を止めて。
思い出した様に、「あっ」と声を上げた。
「?」
何事かと思い、首を傾げたら。
こちらに振り向いて、口を開いた。
「――――この指輪には、名前が付けられているんですよ」
「名前?」
「ええ。それは――――」
――――何か・・・・あの数時間で。
全ての気力を、使い果たした気がする。
「はあ〜・・・・・・」
疲れた身体にムチ打って、戻って来た我が家。
眼前には、『スナックお登勢』と『万事屋 銀ちゃん』の看板。
ふと―――2階にいるだろうと思われる、人物を思い浮かべながら。
懐に偲ばせてある、小さな紙袋に左手を添えて。
「・・・・・・・」
アイツ・・・どんな顔、すんだろな?
想像つく様な、つかない様な。
拒否とかされたらショック過ぎて、生きていけねえよなあ・・・・。
――――まあ良い。
全ては、『明日』に掛かってる。
今日は極力普段通りに、接していよう。
家へと続く、階段を昇り。
玄関の戸に手を掛けて、「け〜ったぞお」と言えば。
「お帰り、銀ちゃん」と、聞き慣れた声がオレを出迎えた。
――――願わくば・・・この日常が。
指輪の名前の由来通り・・・――――続きます様に。
『二人の愛が未来永劫続く様。
『ETERNITY』と呼ばれているんです』
※銀さんの、婚約指輪購入話を書いてみましたが。
銀さんて、いざプロポーズをすると決めた時(此処では神楽ちゃんですが)
ムードも言葉も無しに、突然婚約指輪を差し出しそうなイメージがあります。←あくまでも、イメージです。
「言わんでも、頼むから悟って」みたいな。
この様な駄文を読んで下さり、真に有難うございます。