『あの・・・・男を、救っ・・・・て』と。






震えたか細い声で、囁いたと思ったら。
握り返された手が。






・・・・滑る様に―――――力を失い地についた。






両目が瞑られ・・・・頭がゆっくりと、仰け反っていく。






「・・・・か――――ぐら・・・・?」

脱力した身体を抱え直し、揺さぶり。

「おい・・・・神楽。こんなとこで、寝るんじゃねえって」

どんなに・・・・どんなに揺さぶっても、頬を叩いてみても。
両目が開かれる事は無かった。

「―――――おい、神楽!冗談やめろって!起きろって!」

性質の悪ィ冗談なんだろ?銀さんを脅かそうとして、演技してるだけなんだろ・・・・?
な〜んちゃってとか言って、また毒吐くんだろ?

「・・・・・・・」






反応しない――――ぐったりと項垂れた、身体を強く抱き締める。






失ってから、初めて気づく。
お前の存在は。






オレにとって。
『必要不可欠』なんだよ、神楽。







「逝くな・・・・逝くな。――――――逝くな!」

死なせるつもりなんか、なかった。
まさか、自ら死を選ぶなんて。

己の課した、決意も全ては――――。

ただの『戯言』に、変わってしまう。

――――――――

己の不甲斐なさに。
・・・・涙さえ、出てきやしない。

誰か―――――誰でも良い。
これは、『夢』なんだって。
お前はひたすら、『長い悪夢』を見ていたんだって。
一言・・・・言ってくれ。










呆然自失の中。














まだ・・・・暖かさの残る、顔に手を添えて。
唇に付いた、血を拭ってやり。
ゆっくり、顔を寄せる。







「オレも――――お前が――――」







出来なかった返事を、今此処で言葉にし。







小さな唇に、触れた。







城外からは、途絶える事も無く。
連続で砲弾が、撃ち込まれるているのに。
四方からの大衝撃音も、全く耳に入りはしない。


・・・・このまま、お前と一緒に。
最期を迎えられたらと、切に願うのに。


なあ、神楽。
お前は、やっぱり残酷だよ。






『後を追う』

それすらも、させてくれやしない。






「あの男を、救って」






それが、お前の望んだ事ならば。
オレは、実行するしかない。

動かない、身体を抱えて。

崩れ行く城の中を。
覚束ない足取りで、歩を進めて。
砲撃を喰らった、原型を留めない城門を潜る。

―――――炎上する、街中。

未だに逃げ惑う、人々が。
オレ等の脇を、通り過ぎていく。

両足を止めて。
頭上を仰げば。


欠片月を目掛け、立ち上がる黒煙と。

勢いをつけて、闇夜を染める紅蓮の炎。

夜空に舞い散る、細やかな火が。
ハラリ・ハラリと、降り注ぐ。
その火花は。
まるで。








――――餞の、花弁―――――






END

→後書き

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