振って来た割には、あまり興味なさ気な返答だこと。
「―――――結野アナじゃなきゃ、ダメアルカ?」
「は?いや、別に・・・・そんなこたあねえけど」
――――ただ、そうだったら良いなあと。
どうせ。いやしねえサンタに願い事なんて、はなっからするつもりねえしな。
ただ何故か、『女運』が無いって言うか?
確かに周囲には、美女揃いなんだが・・・・・どうも。
オレがしっくり来る様な、タイプじゃねえんだよなあ。
・・・・・・いや、待てよ?
無意識にオレの右手を繋ぐ、隣の少女に視線を巡らせた。
一番しっくり来るっていやあ・・・・・コイツじゃ――――。
こんだけ一緒にいても、気苦労しないし?
既に気を遣ってる状態なら、オレの方が白旗上げて追い出してるだろうし。
なんつうか・・・・・楽?なんだよな。
ひょっとして、初めてじゃなかろうか。
オレがこんなに長い時を、一緒に過ごしているなんて。
おいおいおい、待て待て銀時。
己を見失ってどうする?コイツは『女』じゃなくて、『少女』――――ガキだろうが。
ロリコンじゃないしね。犯罪者にはなりたかないしね。
己の中の人格と、自問自答を繰り返していたら。
「・・・・じゃあ。私が銀ちゃんの彼女に、立候補するアル!」
「―――――はい?」
今・・・・・何て言った?この娘。
先程よりも眉間に、皺が寄ったのを感じる程。
オレは怪訝な、表情をしていたに違いない。
「だから!私が銀ちゃんの、彼女になってやるって言ってるアル。心から感謝するネ!」
両目を瞑って踏ん反り返る、酢昆布娘に対して呆然とするも。
「――――お前ね。いくら冗談だからって、もうちょっとマシな―――――」
「冗談じゃないヨ」
真顔できっぱりと、短い言葉で遮られる。
「・・・・・私、銀ちゃんの事好きだから」
白く陶磁の様な頬が、ほんのり赤く染まっている。
こちらを見上げる碧眼も、半ば潤んでる様にも見えて。
――――何よりも。少女の左手から、伝わる僅かな震え。
「結野アナよりも、良い女になるって――――断言出来るヨ」
・・・・冗談では無く、本気なのだと実感させられる。
きっとコイツなりの、必死で真剣な告白なのだ。
「――――何で、突然ンナ事言うんだよ?」
「だって・・・・サンタさんに、お願い事されたら。お終いアル」
そんな事を、心配そうに言うもんだから。
思わず腹を抱えて、大笑いをしてしまった。
「なっ!?――――失礼な野郎だナ!いきなり笑いだすなんて!!」
「・・・・・悪ィ、悪ィ」
空いていた左手を、容の良い頭部へ乗せ宥める様に撫でた。
「サンキュな、神楽。――――オレの事、其処まで思っててくれたんか」
「・・・・そうヨ。でも銀ちゃんの中の私は、『ガキ』だから・・・・。
でも――――後数年したら!歳を重ねれば、私もガキじゃなくなるアル!」
「だから今のウチに、立候補ってか?」
「――――うん。駄目?」
綺麗な碧眼が、オレの姿を映している。
眼前にいる美少女が、数年後・・・・今よりも大人になった――――時。
間違いなく、超がつく程の美人になっているだろう。
数多の野郎共の視線を受けて、声を掛けられる事も度々あるんだろうな。
――――それでも。
今と同じ台詞を、口にしてくれるんだろうか?
「・・・・じゃあ、オレも立候補しておくか。数年後のお前の『恋人』として」
「銀・・・・ちゃん?」
大きな瞳を、更に大きくさせて驚く少女。
「でもなあ。神楽が、心変わりしたら――――銀さん凹みまくんだろうなあ」
「そんな事、絶対無いネ!」
自信たっぷりな、返答。
「しかも結構・・・・・独占欲強いし?嫉妬深いし?
神楽・・・・幻滅すっかもよ?」
「私には銀ちゃんしか、いないヨ!マダオだろうが、何だろうが!」
これまた迷いの無い、返答。
しかもえらい、マダオを強調してくれやがって。
一体何処から、こんな自信が出てくるのやら。
きっと『クリスマス』と言う、イベントの所為だ。
柄にも無く、こんな陳腐な台詞が口から自然と出て来てしまうんだから。
「んじゃあ・・・・お互い、サンタさんにお願いしとくか?」
「『恋人』になれます様にって?」
「いんや。神楽の気持ちが、変わりません様にって・・・・ってコレ、神頼みじゃね?」
「其処まで信用無いアルカ!?チクショー!
絶対このマダオ侍を、好き通してみせるネ!覚悟してろヨ?銀ちゃん!」
今にも燃え上がりそうなオーラを迸らせながら、右拳を強く握り締めている。
「―――おお、望む所だ。お前の覚悟、とことん見せてもらおうじゃねえか」
唇の片端を上げて、少女の心意気を受けて立つ事にした。
・・・・・サンタに願い事、する必要なくなっちまったなあ。
だってよ?こんな――――男に。
『好き』だなんて言う、物珍しい異性が眼前にいるんだぜ?
確かに今は、『少女』で『ガキ』のままだけど。
―――――数年後の、お楽しみが出来たって訳だ。
「ほれ、新八とお妙が待ってる。志村家に向かうぞ」
「うん」
笑顔を向ければ、同じ様に笑顔が戻って来て。
絡めていた手を、再度強く握り返す。
いつの間にか止めていた両足を、お互い再び動かし始めた。
――――12月24日。クリスマス・イヴの日に。
数年後、恋人になる事を約束するなんて。
恥ずかしいんだか、微笑ましいんだか。
こんな男の心情に。
サンタと天使が、笑ってる様な気がした