SUBTLE OF VALENTINE(後編)



「ねえ、銀ちゃん!?話聞いてるアルカ?」

「んあ?何が?」

再びトリップしていたオレは、神楽の声で引き戻される。

「何が?じゃねえヨ。もうアーモンドスライス、無くなったネ。
他にトッピング出来る物無いカ?後もう少しで終わりアル」

無くなった空の袋を逆さにしながら、真剣な表情で尋ねて来た。

「・・・・・・・・・・」

「どしたネ?そんなに難しい顔しながら、眉間に皺寄せて。
ひょっとして、便秘カ?だったらトイレ行って、出すもの出して来いヨ

おいおい――――――便秘・・・・・・って。

首が項垂れそうになるのを、必死で堪えて。

まあ確かにコイツが、人の心の機微に通じてるとは思えんが

「トッピング材料だろ?・・・・・・ある事はあるけどよ」

「じゃあ、頂戴」

己の胸内に――――何とも言い難い感情が、沸々と湧き出でる。

右手を差し出す少女を、軽く無視して。

「――――もっとオリジナリティ・・・・出せば?」

「え?」

「ほら、カラフルチョコのスプレーとかアラザンでも良いけど。それじゃつまらんだろ?」

固まった人差し指に付いたチョコを、口の中に運ぶ。

「・・・・そうかな?」

神楽はオレの言葉に首を傾げて、シンクの上に並べられたチョコ達に視線を下ろす。

「そりゃそうだよ、お前。こんなノーマルなヤツじゃ、インパクトに欠けるよ。
どうせだったら、貰った奴にもっと喜んでもらいてえだろ?

『もっと喜んで』の言葉に、お団子娘の顔がパッと明るくなる

「うん!!」

ソウデスカ―――――そんなに、ソイツの事が良いんデスカ

・・・・良いよ?良いですよお?何でしたら、とことん喜んでもらおうじゃねえか。

口内に含んだ指を音立てて放し、再び冷蔵庫へと手を伸ばす。

オレノナカノアクマガ、コエヲタテテワラッテイタ


―――――翌日。


2月14日が、やって来た。

前は上下のスーツに、蝶ネクタイだったもんな。

―――――どうすっかな?今回は――――――。

なんだかんだと結局、『テーマ』を決められず仕舞い。

・・・・・仕方ない――――普段着でいくか。

いつもの様に着替えると、和室から居間へと通じる襖を開けた。

時計に視線を移せば、まだ9時前。

定位置には定春が、体蹲らせて寝ている。                               

―――――もう一人の、住人の姿は未だない。

まだ寝てやがんのか?と、両腕を上げ伸びをした時。

玄関先の方から、良く知った二つの声が聞こえてきた。

どうやらダメガネの、ご登場らしい。

・・・・・てか、神楽の奴―――――起きてたのかよ。

欠伸をしつつ長椅子に腰掛け、テレビのリモコンを手にしようとしたら。

え?貰っても良いの?有難う、神楽ちゃん」と言う、照れ笑いが含んだ新八の声と。

ま。たまにはナ」と返事した、神楽の声が耳に入る。

この会話から想像出来るのは、神楽が新八に『何か』を渡したと言う事。

――――――ひょっとして・・・・昨日のチョコ?

「・・・・・・・・・・」

アイツの『渡したい人』って――――まさか・・・・新八!?

このオレを差し置いて・・・・・ダメガネナンデスカあああああ!?

神楽の中では、オレ<新八って事!?

あまりの現実に、逃避したい気分ナンデスケド。

背凭れに上半身を預け両腕を掛けながら、見慣れた天井を仰ぐ。

「―――――――――」

ふっ・・・・・落ち着け、銀時。

何の為にあの『秘策』を、神楽に伝授したと思ってる?

新八よ・・・・・・束の間の喜びを、存分に味わうが良いさ。

お前があの『チョコ』を、口にした瞬間―――――――。

ふっ・・・・・ふふふふふふふふふははははははははは

「―――――ぎ、銀さん?どうしたんですか?急に。気味悪い笑い方、しないで下さいよ」

戸惑い気味の新八が、両眉を寄せて顔を覗き込んで来る。

それに対しオレは、姿勢を崩して意味深な笑みを向けた。

「ああ?――――――これが笑わずにいられる―――――」

・・・・・・?あれ?

何度か瞬きをして、己の視界が映しているモノを凝視する。

オレの態度に気付いたのか、「ああ」と新八が笑顔を浮かべた。

両手の中に、ラッピングされた袋を抱えながら。

―――――だが。昨日目にした包装では無い。

「神楽ちゃんに、貰ったんですよ」

「っても。中身はチ●ルチョコだけどナ。良く味わって食えヨ?」

両腕を組んで胸を反らせる少女を横目に、ダメガネは苦笑い。

「・・・・・10円チョコね。まあ、貰えるだけでも有難いし」

成る程――――ラッピングされた袋の中は、10円チョコの集大成か。

「銀さんには?神楽ちゃん、渡したの?」

一旦間を置いて首を左右に振り、「まだアル」と伝えた。

「新八――――定春を、散歩に連れてって欲しいネ」

「え?今から?何で?」

怪訝な表情で、問い掛けるダメガネに少女は。

「良いから!行って来いって、言ってんだロ!」

無理矢理定春を起こし、リードを付けると。

軽く頭を撫でて、新八に紐を手渡した。

「――――――分かったよ」

何やら意味深な笑顔を浮かべ、首を縦に動かす。

「じゃあ、行って来ます。さっ、定春行こうか?」

まだ寝ぼけ眼の状態で「ワン」と返事し、4本足を稼動させ。

一人と一匹が、玄関へと向かった。

・・・・アイツも今回は、普段着か。

そんな事を考えながら、見送っていたら。

―――――同時に神楽が、ソワソワし始め。

戸の閉まる音を確認するかの様に、じっと息を潜める。

数分後『ピシャン』と乾いた音が、居間に届いた。

深呼吸を2・3回して、お団子頭娘がこちらにやって来ると。

眼前で立ち止まり、「銀ちゃん」と名を呼ばれた。

「・・・・・・?」

時々上目遣いでオレを見ながら、何かを言いたげにして。

眉間に皺が寄るのを感じながら、「何だよ?」と先を促した。

若干頬を染めつつ、両手を差し出され――――。

「――――――!?」

おいおいおい?これって―――――。

銀ちゃんに、あげるアル

白く細い両手の中に、見掛けた事のある包装紙。

「・・・・・昨日の――――?お前が作ったチョコ・・・・だよな?」

「うん」

じゃあ・・・・・コイツの、渡したい人って。

銀ちゃんに、あげるネ

そう言うとオレの顔を見ながら、はにかんだ。

「―――――内緒ってのは・・・・・」

「・・・・・だって。ばれたら、つまらないし。渡しにくいデショ」

つう事は――――あれ全部、演技だった訳?

呆然としていたら、「はい!」との両手を出され。

―――――サーっと、血の気が引くのが分かる。

だってえええええ!!
まさか
てめえの所に来ると思う!?普通ううううう!?

さり気なく視線を、眼前の少女に戻せば。

貰ってくれる?』と言った期待感が、全身から溢れ出ていた。

しかし・・・・・とある言葉が、脳内を駆け巡る――――。

『逃』の一文字。

いつまで経っても、受け取ろうとしないオレに。

期待を含めさせていた2つの碧眼が、翳り始めて。

「――――受け取ってくれない・・・・アルカ?」

悲しげな声色が、己の両耳に届いた。

「――――――――」

うぬああああああ!!分かった!分かりましたよ!
コイツの気持ち台無しにしたら、それこそオレ最低じゃん!!
最悪の男
じゃん!!

「サンキュな。神楽」

内心で葛藤しながら、表面上は穏やかな笑顔を浮かべれば。

瞬時―――――昨日と同じ様に、明るい笑みが向けられた。

そして・・・・・禁忌の一言が。

ね?食べてみてヨ
って、言っても――――銀ちゃん、中身知ってるもんナ」

ははははは

ああ・・・・つい、空笑いが。

此処で逃げる訳にもいかず、包装紙を解いていき。

可愛らしい模様に施された、四角い箱を開ければ――――。

全12個の手作りチョコが、所狭しに並べられていた。

「・・・・あれ?神楽ちゃん。アーモンドスライスで、トッピングしたチョコは?」

「ああ、あれ?銀ちゃんに、オリジナリティが足りないって言われたから。止めたヨ

―――何です・・・・・とおおおおおおおおおおおお!!??

「全部、此処に入ったネ。今頃もう、溶けて無くなってるヨ♪」

そう言って神楽は、右手の人差し指で胃の上辺りを差す。

インパクトのあるチョコの方が―――――喜んでくれるんデショ?」

にっこりと微笑む少女に、「おお」としか応えられない。

見た目は・・・・・普通のチョコなんだが。

ロシアンルーレットの様に、何処に何が入っているのか分からない。

己の脳をフル回転させ、昨日の事を思い返す。

冷蔵庫の中を物色し、神楽に手渡した物といえば。

――辛子明太子・納豆・からし・わざび・マヨネーズ・ケチャップ・・・・・etc

手当たり次第に、手渡した気が・・・・・・。

背中に流れる冷や汗を感じながら、生唾を飲み込んでいると。

オレが『どれを食べようか悩んでいる』と、勘違いしたらしく。

隣で状況を見守っていた神楽が、人差し指と親指で箱の中のチョコを1つ摘み。

「私が食べさせてアゲルネ♪」と、口へと距離を縮めていく。

――――――逃れる事も出来ず、自然と開く体内への扉

発案した『インパクトチョコ』が、口内で溶けて行く最中。

―――――コイツがチョコを、渡たそうとしていた人物が。

自分だと知った、瞬間の。
―――――何故か、胸中に湧いた安堵感と喜び・・・・は。

○△※!☆%∞

言葉で表現するのも難しい味の所為で、見事に砕け散ってしまう

「美味しいアルカ?」

満面笑顔の少女に、問われた質問に。

涙堪えて、一言。

最高にオイシイデス



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※銀神でヴァレンタイン小説・・・・・・の筈だったのですが。
ラブラブでもなく、ロマンティックでもなく。
ギャグ仕様(ギャグにもなってないかも)。しかも新八君、可愛そうな扱い(チ●ルチョコって)
神楽ちゃんが手作りに挑戦するなんて、想像も出来ないのですが←酷い
此処は敢えて、させてみました。
その隣で銀さんが誰に渡すのか、気になるような気にならない様な
と言うか・・・・・・・とりあえず自分の名前を、出して欲しいみたいな。
そんな感じを出して書いてみました。←どんな感じだ。

この様な駄文を読んで下さり、真に有難うございました。

背景素材は(前後編) 管理人なつる様が運営されている サイト名:「空に咲く花」様よりお借りしました。

 サイトアドレス:http://sky.itigo.jp/