Happy Happy Birthday 後編
昼間から今の今まで、ずうっとこんな感じで。
時たま眉間に皺を寄せては、「う〜ん」と腕を組んで唸る始末。
あまりの様子に、ダメガネが「どうしたんですか?」と問い掛けるも。
「別に」の一言で、終わってしまったし。
・・・・・話しかけられる様な、フインキじゃないアルナ。
定春はもうとっくに、夢の中。
普段と違う居間の空気に、少々居づらさを覚えた私は。
風呂に入ろうと思い立ち、沈ませていた腰を持ち上げた。
―――――その時。
「神楽」
―――――突然、聞きなれた低音が私の名を紡ぐ。
「?何?」
首を傾げて返答するも、男は其処から言葉を続けようとしない。
じっと・・・・私の顔を、凝視するだけだ。
・・・・・一体どうしたと言うのだろうか?
男の態度に、自然と眉間に皺が寄ってくのが分かる。
「――――何ヨ?銀ちゃん」
少し強い口調になってしまったのは、致し方無いだろう。
なのに――――この期に及んで、まだ男は。
「あ〜・・・・そのう・・・・だな」と、歯切れの悪い台詞。
「用が無いなら、引き止めるなヨ。――――ったく」
止めていた両足を、再び動かそうとしたら。
「誕生日!」
―――――へ?
幻聴だろうか?今、誕生日と聞こえた気が。
「誕生日・・・・だろ。明日――――お前の」
聞き間違えじゃないらしい・・・・言葉は、目の前の男から投げかけられている。
―――――覚えててくれた?
「銀ちゃ・・・・」
きっと驚愕の表情を浮かべているだろう私に、男は口をへの字にさせて。
照れ臭そうに顔を背けると、両腕を組んだ。
「すいませんね、こんな事言うなんて・・・・どうせ、意外でしょうヨ」
「覚えてて・・・・くれたのカ?」
驚きもあるけど――――どうしよう。それよりも、嬉しさが勝ってる。
「いい加減覚えておかねえと、志村姉弟から制裁喰らわせられそうだしな」
救い様の無い返答が戻って来たけど、そんなの私にとっては些細な事で。
「お前の欲しそうなモン、探しちゃみたんだけど。何が良いのか、分かんなくてよ。
なら好きな酢昆布でもと思ったんだけど、それじゃいつもと変わらねえしな」
この台詞に、蘇っていく記憶。
「もしかして、午前中出掛けてたのって―――――」
私のプレゼントを、探してくれたアルカ。
・・・・・何だろう。頬が凄く、緩むのを感じる。
「あ〜・・・・本当、歩き疲れたぜ。久しぶり、あんなに歩いたの。銀さん」
力なく――――そう言うと。
がっくりと頭を垂れて、組んでいた両腕も解き膝の上に乗せながら。
「結局本人に、聞いた方が早いってね。んで?お前――――何が欲しいんだ?」
「答えたら、絶対に『それ』くれるカ?」
私の台詞に、勢い良く頭が上げられ。
慌てて付け加える様に、「オレの出来る範囲でだぞ!300円以内で!」と念を押されてしまったが。
・・・・・300円って。真顔で言わなくても。
思わず、半眼になる自分だったが。
銀ちゃんの出来る範囲――――なら、良いんだロ?
「じゃあ・・・・・・」
唇を動かせば、男は固唾を呑み・・・・何を要求されるのかと構えている。
そんなに顔を、強張らせなくったって。
噴出しそうになるのを堪えて、要望を口にした。
「銀ちゃんの、『一日』を頂戴?」
「は?オレの?」
怪訝な表情をする男に向かって、首を縦に動かす。
「うん。明日一日中、私に付き合って欲しいネ。新八曰く、誕生日会は夜に催してくれるらしいし」
「――――そりゃあ・・・・別に、構わんが。そんなんで良いのか?」
「うん!銀ちゃんと一日中一緒にいられるなんて、こんなに素敵な贈り物は無いヨ」
そう言ってにっこりと微笑めば、男は数秒間私の顔を凝視し。
左手を、口元に当て。
「―――――ヤツ」と、ぼそり呟いた。
「?どしたの?銀ちゃん。顔がなんか――――真っ赤アル」
「〜うっせ!余計な事は良いから。お子様はとっとと、風呂入ってねんねしなさい!」
「ガキ扱い、すんじゃねえヨ。じゃあ明日、宜しくナ」
「へえへえ」
風呂場に向けて歩いている足が、心なしかとても軽い感じ。
午前中抱えていた重い感情も、銀ちゃんの一言で吹っ飛んでしまった。
今日は何だか、良い夢見られそう。
私が浴槽に身を浸けて、ご機嫌に鼻唄を歌ってる間。
居間に一人佇んでる、銀髪男が放った言葉は。
当然私の耳に、入る事は無かった。
「・・・・ったく。主役のお前がオレを喜ばせて、どうすんのよ」