初詣 後編
「いんや、何でもねえよ」
返答したと同時に―――――再び甲高い音が、深夜に響いた。
規制されていたロープが、ゆっくりと上げられる。
ぞろぞろと前列に続こうとしたのだが、丁度オレ等の前で笛が鳴り。
規制ロープが、張られてしまった。
「おんやぁ?そこにいるのは、旦那じゃねえですかィ?」
このべらんめえ口調は――――ひょっとして。
声のした方向に視線を送れば、笛を口に咥えた『真選組』一番隊隊長の沖田君がいた。
開いてる右手を挙げて、挨拶を交わす。
「―――――よお、沖田君。んでも、沖田君が此処にいるって事は――――」
「勿論いますぜ。クソ土方が」
「だ・れ・が、クソ土方だ!総悟!無駄口叩いてねえで、ちゃんと仕事しやがれ!
―――ったく、とっつあんの命令とは言え・・・・何でオレ等がこんな事を」
案の定口に咥え煙草をしながら、部下に向かって怒声を放ってる男もいた。
その怒りを綺麗にスルーし、沖田君は隣の人物に気付く。
「何でィ。チャイナも一緒か。気色悪ィ格好、してやがんなァ」
いつもの毒は吐くものの、幾らか口調は柔らかに感じるのは気のせい?
「うっせえな、いちゃ悪いのかヨ。それに別にお前の為に、この格好してる訳じゃないネ」
いつもの、売り言葉に買い言葉が始まる。
――――なるほど。あの『破壊王』の命令で、こいつ等が参拝客の規制をしてんのか。
「――――何だ。暇人揃って――――」
オレ等に対して、皮肉か嫌味でも言おうとしたのか―――――が。
土方の口の動きが途中で止まり、徐に酢昆布娘を凝視している。
「どうしたんすか?土方さん。急に固まっちまって。
あまりの寒さに、凍死寸前ですかィ?安心してくだせぇ。
凍死よりも簡単な方法がありやすから」
そう言うと沖田君は、当然の様にバズーカ砲を肩に乗せ。
近距離で、土方に狙いを定めると。
「一気に逝っちまって下せぇ!」
良いぞ、やれやれ。沖田君。
「――――誰が逝くかああああああ!!それよりも、規制ロープの合図だ!合図!」
「・・・・ちっ。そのまま、固まっていやがれば良いものを」
首に掛けていた笛を口に咥えて、真選組の仕事に戻る沖田君。
張られていたロープが、徐々にゆっくり上がっていく。
「そいじゃあ、旦那。今年も宜しくお願いしやす」
「ああ、宜しくね」
その言葉を皮切りに、オレ等はとうとう階段へと歩を進めた。
――――あの野郎、絶対に神楽に見惚れてやがったな。
改めて隣の少女を、見てみる。
階段を転ばない様に、必死にオレの手にしがみ付く横顔は。
陶磁の様に白く、肌理も細かい肌。
鼻筋も通っていて、桃色に彩られた容の良い唇からは白い息が時たま漏れている。
・・・・・普段では、絶対にお目に掛かれない姿だよな。
――――確かに、誰もが見惚れる『女』だ。
そう、少女じゃない。今宵だけは『女』なんだ。
意識した瞬間、冷えてる筈の身体が熱くなるのを感じた。
だ・・・・だってよ?ここン年間『女』と、手を繋ぐなんてなかったし。
こう見えて、銀さん――――奥手だし?
自分から手を差し出したのって、よくよく今考えればすんげえ奇跡じゃねえ?これ。
「銀ちゃん?」
不意に顔を覗き込まれ、「ぬああああ!」と悲鳴を上げてしまう。
両脇には灯篭が立っているが、この分の明るさなら己の顔の表情など見えないだろう。
「何さっきから、ぶつぶつ言ってるアルカ?もうお賽銭の前ヨ?」
「あ・・・・ああ」
しっかり握られていた左手が離され、今まであった温もりは外気に晒され冷たくなる。
紅白の大綱を握り締め左右に振れば、鈴の音がカランと何回か音を繰り出す。
「えい!」
右拳を作って小銭を投げれば、綺麗な放物線を描き賽銭箱に収まった。
二礼に二拍手をし、願い事をする神楽を横目に。
オレもなけなしの小銭を投げて、同じ所作をして両目を瞑り手を合わせる。
一礼し先に祈り終えたオレは、未だに祈りを念じてる神楽を待つ。
ようやく終わったのか一礼した神楽が、こちらを向いて「行こ!」と振り向いた。
来た路を戻る様にして、オレ等は再び歩き始める。
一度手が離れてしまった為、此処はもう一度繋ぎ直した方が良い。
何せ相変わらず人混みも多いし、神楽は着慣れない服であまり上手く歩けない。
――――良いじゃん!さっきみたいに、自然に手を差し出せば!
訳分からん状態で、己自身と闘っていると。
「銀ちゃん!おみくじ、引こうヨ!おみくじ!」
今年の運勢を占う、ここ一番のおみくじの事か。
オレが返事をするまでもなく、神楽は再び左手を取って。
人が大勢屯している、売り場までやって来た。
お札やら、お守り・破魔矢やら・・・・絵馬・交通安全・家内安全・安産祈願・縁結び等。
それらを購入し、帰っていく参拝客達。
どうにか人込みを避けて、巫女さん姿のお姉さんに「おみくじ」を伝えると。
「100円になります。どうぞこちらを振って、棒を取り出して下さい」
ワンコインを払い、六角形の木箱に両手を添えて。
「ふんぬううううう!」と、これでもかと振り回す神楽。
・・・・・おいおい。やり過ぎでしょ?それ。
取り出し口から出てきた棒は「49」と、墨で書かれていた。
「49って・・・・あんまり、良い感じしないアルな」
仕方なくついでにと、オレも木箱を振りながら。
「たかが占いだろお?気にすんなっての」
出てきたのは、「77」と書かれた数字。
お互い巫女さんに、「はい」と手渡すと。
巫女さんは手馴れた手つきで、「49」と「77」と書かれた棚を選んで。
「どうぞ」と薄っぺらな用紙を、渡してくれた。
―――――と、突然。神楽が「うきゃっほおおう!」と奇声を上げる。
「銀ちゃん!私、『大吉』だって!」
「へえ〜・・・・そりゃあ、よか――――」
捲った二文字に視線を送れば、『大凶』の文字が。
「うわあ・・・・銀ちゃん、大凶アルカ」
「はっ、おめえ馬鹿だねえ。こんなの今年の運勢の、手本にしろっていう意味なんだよ。
別に銀さんは、大凶だろうが――――関係ないしね。つうか、大吉引くより確立低いしね。
寧ろすげえよ、オレって。それに大凶より、悪くなる事ないし?」
・・・・・・嘘だよ。思いっきり、凹んでるよ?大凶って!何デスカ!コノヤロー!
しかし――――大の男がおみくじの結末に、凹んでるなんて思われたくないし。
「大丈夫ヨ、銀ちゃん。大吉の私と、
大凶の銀ちゃんを――――足して二で割れば。丁度良い運勢アル」
にっこり微笑む神楽を見ていたら、内心凹んでる自分がアホらしく思えてきて。
「んじゃ、帰るか」
「うん」
神楽の右手を取り、帰路を目指す為に先程の階段を目指す。
・・・・・あれ?あんなに葛藤していた自分は、何処に?
再び左手に温もりが感じられ、それを逃さぬ様に力を篭めた。
人混みを避けながらも、未だに感じられる神楽への視線。
羨望と恨みがましい視線を受けつつ。
そんな野郎達を見て見ぬ振りしながら、オレ等は階段を下りていく。
何となく優越感と言うか、誇らしいというか。
「そういえば・・・・随分と長いお祈りしてたなあ。何祈願してたんだ?」
「―――――内緒ヨ。銀ちゃんは?」
「―――――お前が教えてくれたら、教えてやるよ」
「じゃあ私も、教えてくれたら。教えてやっても良いアル」
そんな話をしながら、階段を下り終えて。
「それじゃあ、万事屋にもどるアルカ」
桜の簪をしゃなりと鳴らして、こちらに顔を向ける神楽に。
「―――――あ〜・・・・もうちょっと、遠回りしてくか」
この言葉に驚きを隠せない神楽は、2つの碧眼を大きく開いた。
「え?でも銀ちゃん、早く帰りたいんじゃ――――」
「ん?まあ、気まぐれ。身体を最大限に冷まして、
炬燵でキュッと熱燗をやるのがうまいんでね」
―――――まさか、着物の神楽とまだ一緒にいたい。
なんて言える訳がない。つうか、死んでも言えない。
10歳以上年下の娘に、中学生の初心な野郎ですかああああ?オレはあああああ!
またもや自分でツッコミを入れる、何ともヘタレ野郎に対し。
「了解ヨ」と笑顔になる、神楽。
遠回りなんて、ただの口実だとも知らずに。
握られたお互いの手は、温もりを通り越して。
下駄の小気味良い音を、BGMにしながら。
いつもと違う、違う道を歩き始める。
「――――なあ、何を願ったんだ?」
「だ〜か〜ら。銀ちゃんが、教えてくれたらって。言ったロ?」
済ました顔で返答され、両肩を竦めるしかなかった。
でも・・・・本当は聞かないでも、分かる―――――。
きっと願った内容は、二人とも同じだから。
時が許す限り―――――
一緒にいられます様に。
←BACK
銀神処へ戻る
※新年明けましておめでとうございます。中々更新出来ないサイトですが、これからも
どうぞ宜しくお願い致します。
複雑骨折はするわ、肺炎にはなるわ・・・・・・・年女の厄年は本当に恐ろしい・・・・・ORZ
とりあえず銀さんと神楽ちゃんに、初詣を行かせたかったので
一発で書いてしまいました。たまには神楽ちゃんの着物姿とか、本誌で拝んでみたいものです。
きっと可愛い筈!!ウチの銀さんには、見惚れて頂きましたが。(沖田さんと土方さんにも)
この様な駄文を最後まで見て下さり、真に有難うございました。
前編で使用した背景画像は、なつる様が運営する「空に咲く花」様よりお借りしました。