私の心は、今・・・・恐ろしいほどに。

『あの男』の心について、心底知りたがってる。



ジプシー・クイーン 前編


いつもの定位置に腰掛けた私が、今手にしている『モノ』とは。

枚数にして、22枚。

『占い』に用いる為の、カード・・・・タロットカードである。

姐御の職場で今、『占い』が流行っていると聞き。

占いとは何ぞや?と、怪訝に思いつつ。

よくよく話を、聞いてみれば。

人の運勢や相性・物事の善し悪し、将来の行き先を判断・予言する――――。

それを聞いた瞬間、咄嗟に口が開き。

『姐御!私もそれ、貸して欲しいアル!』

と――――勢いで『タロット』に、飛びついてしまっていた。

面白そうだという、気持ちもあったが。

何よりも――――『恋』についても、占えると知り。

其処が私を動かせた、一番の理由でもある。

・・・・・とは、言えど。

『タロット』に頼っている時点で、相当――――。

自分的には、余裕が無いのが伺い知れた。

――――が。よくよく考えてみれば、銀髪男の私に対する気持ちなんか。

「大食漢で色気の無い、ただの『クソガキ』」

無意識に、口を開き。私にとっては、一番辛い台詞を吐いて。

大食漢や色気はこの際、譲歩するとしても。

私はあの男にとって、いつまで『クソガキ』なのか。

ひょっとしたら、未来永劫変わらないかも知れないけど。

悪足掻きなのは、十分理解してるけど。

――――このカード達で、未来を知る事くらいは。

「・・・・占う事くらい、良いよネ」

初めて己の胸中に、芽生えた『感情』。

『坂田銀時』という男を、意識しだしただけで。

胸の中は熱く、そして・・・・痛みを伴い。

それは治まる所か、日増しに強くなり。

最初はこの感情が、一体何なのか理解出来なくて。

連続的に訪れる『病』なのか?と、心底悩んだ時もあったっけ。

・・・・きっと、銀ちゃんは。今私が、『恋』をしてるなんて。

「死んでも、思わないだろうナ」

その言葉を皮切りに両目を瞑って、私は深く何度か深呼吸をした。

始める前に、精神を落ち着かせなくてはならない。

瞑想する事で――――この沸き立つ気持ちを、一旦沈ませなければ。

―――――数分後。

激しく波立っていた感情の波は、静かに凪ぎ始めた。

・・・・今、この状態ならば。

閉じていた両瞼を、ゆっくりと開け。

今は誰もいない、静かな居間で『占い』をスタートさせた。

銀髪侍が家にいないのは、毎度の事だからともかくとして。

定春を散歩に連れてって行ってくれた、新八には感謝せねばならない。

急がなきゃ――――二人と、一匹が帰って来る前に。

手にしていたカードの山を、テーブルの上に置き。

両手を使って反時計周りに、22枚のタロットカードを切り崩していく。

しかし・・・・この状態で、占い事を念じなければならない。

――――私が今、占いたい事。切実に知りたい事。それは。

『坂田銀時は、私――――神楽の事をどう思っているカ?』

気が済むまでシャッフルを繰り返しつつ、何度も念じ返す自分。

シャッフルされ、バラバラになったカード達を。

解説書の手順通りに集め、再度一つの山にしていく。

――――さて、問題は。占い方法である。

解説書には、いろんな占い方が載っているのだが・・・・・。

10枚だけのカードを使った、『ケルト十字展開法』にしよう。

22枚のカードだけでも、占い出来るみたいだし。

伝統的な、占い方法みたいだし。

「ふうん・・・・」

恋や将来・人間関係・将来においても、具体的に占えるのか。

解説書を読んで、いざ―――――。

一つになったカードの山を、左手で持ち。

上から・・・・・7番目のカードを置く。

心の中で数えながら、7番目のカードを指定位置へ。

その次から一気に、6番目の指定位置までカードを置く。

また・・・・次のカードから、7枚目のカードを指定位置へ配布。

そして続きから、10の指定位置まで並べていく。

残ったカードは、山にして端へ。

「―――レイアウト、完成」

・・・・・さあ、この10枚のカードに。

自分が心底知りたかった、内容が表記されている。

「まずは・・・・現在の状況・・・・カ」

1番目のカードの上に乗せられた、2番目のカードを下にずらして。

書かれた通りに、伏せられていたカードを開いてみる。

法皇』と表記された、イラストと文字が現れた。

「――――逆さじゃないから・・・・正位置って事だよネ」

私とあの銀髪男の、現状況――――は?

解説書を手に取り、法皇と書かれたページを開いてみた。

『信頼関係で結ばれている』

・・・・・あ、確かに。そうかも知れない。

私は『坂田銀時』という男を、心から信頼しているし。

向こうも滅多に態度には出さないが、信頼してくれてると・・・・思う。

とりあえず、悪い結果では無かった事に。

安堵の篭った溜息を、吐き出した。

―――――次は、2枚目。

他のカードとは違って、縦では無く横に置かれている。

「これが・・・・問題を起こしている、原因」

つまりは銀ちゃんが、私を『クソガキ』としてしか見ていない部分?

ある意味・・・・勇気がいるナ。

「此処で怖気ついちゃ、神楽様の名が泣くアル!」

横に伏せられたカードを、勢い良く開けば。

「・・・・?正義?――――この位置は――――」

解説書で確認すれば、逆位置となっていた。

慌てて、『正義』の逆位置の意味を確認。

『価値観の違い』

「・・・・・・・」

20代の男と、14歳の少女じゃ―――。

「確かに、価値観の違いが出て来るとは思うけど。でも・・・・それが原因?」

――――何てことだろう。価値観なんて、出されたら。

「・・・・克服の意味、ねーじゃねーカ」

いきなりショックを受けるとは、思いもしなかった。

ああ・・・・でも、結果が悪くても。

自分の行動次第で、変わってくるって・・・・書かれてるし。

頭を左右に思い切り振って、悪い結果を遠方へ飛ばす。

「――――まだまだ!後8枚、あるネ!」

鼻息を鳴らし、無意識に両腕の袖を捲り上げる。

――――次は3番目の、カード。

「悩んでる本人の、意識・・・・・カ」

カードは再び、縦方向になっている。

伏せられたカードを手にし、徐ろに開くと。

イラストは、正位置。

『恋人』

―――――さてはて。一体どんな、意味だろう?

『恋に夢中』

「・・・・・・うわあ」

当たっている、気がして来た。

――――お次は、4番目のカード。

「ええと?悩んでいる本人の、潜在意識?」

用は、本心といった所だろうか?

伏せられたカードに手を添えて、開いてみた。

『運命の輪』、正位置。

「―――――運命の輪・・・・・意味は?」

パラパラとページを捲る度、紙が擦れる音がする。

「――――む?『状況を好転させたい』

・・・・・・益々、当たってる気がして来た。

タロット占い・・・・怖くなって来たナ。

額に汗を感じつつも、先を続ける。

―――――5番目のカード。

「この問題の『過去』・・・・カ。――――『力』の逆位置

逆位置と分かった瞬間、気分は萎えてしまう。

・・・・・が。気持ちとは裏腹に、動いてしまう両手。

『相手への要求が多かった』

「―――――――」

過去どころか、現在でもそれは――――あるんじゃなかろうか?

何処をどう捉えれば良いのかは、分からないが。

良い意味でも、悪い意味でも。無茶を言ってた気が、しないでも無い。

「はあ〜・・・・」

とりあえず10枚の内、半分まで来たけど・・・・・。

この先を知るのが、怖くなって来てしまった。

しかし、すぐさま。気分を持ち直す。

「こんな所で逃げ出すなんて、神楽様らしくないアル!」

よっしゃあ!―――――次、行くゾ!6番目!





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