ジプシー・クイーン 中編





『近未来』

このまま進んでいけば、近い将来がどうなるか?

いざ!オープン!

――――イラストは、正位置だった・・・・が。

解説書を読んだ瞬間、私は全身が項垂れるのを感じた。

『塔』・・・・正位置。

『恋の成就・結婚は困難』

――――結婚は、ともかくとして。己の恋は。

「――――実らないって、事・・・・・カ」

やっぱり・・・・銀ちゃんに、恋心を抱く事自体。

「間違ってるのかナ・・・・・」

両膝に肘を着いて、そのまま掌に顎を乗せたら。

無意識に盛大な溜息が、肺から出て来てしまった。

悲壮感を漂らせていると、突然背後から。

「何が?」

聞き慣れた低音が、耳元すぐ傍で聞こえて。

「ぬおおう!?」

身体全身が硬直し、悲鳴を上げてしまっていた。

「ぬおおう!?・・・・って。お前――――仮にも、女の子だろうが。
もうちっと可愛らしい声、上げらんないのかよ?」

顔を歪めて、文句を言って来たのは。

「ぎっ・・・・・銀ちゃん!?」

『雇用主』であり、『家主』である・・・・坂田銀時、その人。

突然の登場に、鼓動は激しく動き始め――――忙しなく脈を打つ。

肩越しに振り返り、浮かんだ疑問を投げ掛けた。

「いっ・・・・いつの間に、帰って来たアルカ!?」

「――――今さっき。ただいま言っても、返事が無かったから。誰もいねえと思ったんだけど。
いるなら、返事しろよ〜。・・・・てか、何してんの?これ」

興味津々といった態でテーブルに広げられた、10枚のカードを見つめながら。

私の背後から移動し、隣に腰掛ける。

―――――しまったああああ!!
集中していて、ちっとも気配に気付けなかった!

額から幾つもの嫌な汗が、流れ始める。

「・・・・カード?なんつうか、色とりどりのカードだな」

占っている本人が横にいて、どうしろっていうのだ?

硬直している私を他所に、銀髪男は私の手から解説書を奪い取る。

「何だ?・・・・タロットカード・・・・占い?」

―――――てか、とっとと。それ!返せヨ!

言葉にならない声が、胸中に響き渡った。

「お前、占いなんてやってんの?ほお〜・・・・」

「なっ・・・・何アルカ?」

意外というニュアンスが、含まれた台詞に。

私は動揺しつつも、悟られない様――――男を睨みつける。

「いんや。やっぱり、なんだかんだ言っても。女の子なんだなあと」

「わ・・・・悪いかヨ!」

「別に悪いなんざ、言ってねえだろうが。何喰って掛かってんの?

――――うるさいい!良いから、とっとと自室へ行け!

ところが私の願いも空しく、銀髪の男は腰を上げようとしない。

それどころか、「どれどれ」と上半身を乗り出させる始末。

「―――和室に、行かないノ?」

さり気無く、聞いてみるも。

「あ?今は、行く必要ねえけど?」

呆気無く、返されてしまう――――しかも。

「占いの内容、何なんだよ?」

聞いて欲しくない部分を、さらりと言いやがって!

「銀ちゃんには、関係ないアル!」

両腕を組み、慌てて顔を逸らせば。

「もしかして――――恋占い・・・・だったり?」

一瞬だけ心臓が、高鳴った――――が。

「まっさかな〜?お前に限って、それは無いか!」

笑いながら完璧に否定されて、怒りのボルテージが途端MAXに

――――っの野郎!

逸らしていた顔を、勢い良く銀髪男に向け。

私だって、恋ぐらいする――――!

つい口を滑らせ、我に返り――――右手で口元を覆った。

「え?何?マジで?・・・・お前、好きな奴いんの?」

男は驚愕した表情を浮かべて、こちらを凝視する。

チクショー。こうなりゃ、開き直りネ。

恐らく赤くなっている顔を、見られたくない故に。

再度顔を逸らし、鼻を鳴らした。

「いちゃ悪いかヨ?私だって、年頃の少女アル。好きな人がいたって――――」

「・・・・・ふうん。良いんじゃね?別に。青春真っ盛りで」

そう言うと、隣に腰掛けていた男は。

長椅子の背凭れに身体を預け、視線を宙に移動させた。

・・・・・?マズイ事でも、言っただろうか?

―――――まあ良い。どうやら、興味を削いでくれた様だし。

このまま放っておけば、銀髪男も飽きて席を立つだろう。

中断していた占いを再開する為、私はテーブル真正面に向き合った。

――――残されたカードは、後4枚。

7番目に置かれたカード。・・・・・あれ?解説書。

両手の中に置いてあったのを、隣の男に奪われたのを思い出し。

両太股の上に置かれていた解説本を、速攻で奪い返した。

ええと・・・・『現在の立場』

自分が置かれている状況を、第三者的に捉える事が出来る・・・・と。

『吊るされた男』・・・・またもや、逆位置。意味は。

『我儘から評価を落としている』

―――――脳天に、衝撃を喰らった感覚。

・・・・そんなに、私って。我儘を、言ってるんだろうカ?

たかが占い・・・・・されど、占い。

自分が望んで、姐御から借りて。

あくまでも、助言や予見の手助けだという事は。

理解しているつもり、だったのだが。

「―――――――」

こうも悪い結果ばかり、出て来ると。

気持ちは沈んでいくのは、仕方ないことだろう。

先程よりも盛大な溜息が、零れた。

――――ああ。何か、もう・・・・この先知らなくても、良くなって来たな。

半ば投げやり状態になってしまうのは、致し方ない事で。

もし残りの3枚も、悪い結果だらけならば。

それ即ち――――私の『恋』は、見事にご破算ってことだ。

やっぱり・・・・相手が、相手だからかな。

銀ちゃんを好きになる事自体、間違っていたのかも。

「・・・・・はあ」

何度目かの溜息を、零してしまった時。

静かに座していた銀髪男が、急に身体を起こして。

私の頭を、叩いた。

「―――――って!」

「さっきから溜息ばっかり、零してんじゃねえよ!うざってえ」

「―――――」

「お前はこの占いとやらに、何を期待してたんだ?」

「・・・・・」

銀ちゃんの気持ちを、知りたかっただけで。

『ガキ』という殻を、抜け出したかっただけで。

「――――何も、期待なんかしてないヨ。ただ・・・・姐御達の職場で
『占い』が流行ってるって聞いたから。ちょっと興味が、湧いただけで」

叩かれた頭を右手で摩り、小声で答えながらも。

『恋占い』をしてしまった事に、後悔した。

こんな物に頼らずとも、今の状況が変わる事は無いなんて。

始めから分かっていた事・・・・ではないか。

私はあくまでも『居候』であり、万事屋銀ちゃんの『従業員』であり。

・・・・・そして。『ガキ』だという事が。

それは自分が・・・・どう悪足掻きをしたって、鮮明な『事実』で。






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