いざという時に限って、オレという男は。
――――勢いを付けないと、行動に出られないらしい。
1,2,3 for 5
女に免疫が無いのか?と、問われれば。
この世に生を受けて、20ン年――――免疫が無い訳が無い。
今じゃ『女性に縁無し』と当然の様に、周囲には思われているが。
――――若気の至りが、許された頃は。
プラトニックだけの、清い関係もあったし。
一度きりの、遊びだった時もあったし。
・・・・泥沼関係にも、遭遇した事もあった。
出会いと別れを、幾度も繰り返して。
紆余曲折を経て、来たものの。
それなりに同世代の女性達との遍歴は、重ねて来ている。
攘夷志士として、剣を振るっていた頃だって同様で。
普通に一折の『恋愛』は、経験して来た・・・・筈だったのに。
――――じゃあ、何で?
オレの全神経は、この人物に向けられちゃってんの?
自分より、10歳以上も年下で。
花よりも、団子。『万事屋』を脅かす、エンゲル係数の持ち主。
『美少女』と喩えられる外見とは裏腹に、口を開けば『毒舌』をぶっ放す。
華奢な身体からは想像出来ない程の、怪力と戦闘能力の持ち主。
色気もへったくれも無い、ただの『ガキ』。
昔のオレだったら、歯牙にもかけなかったろう。
だって、当然だろ?己の理想と、かけ離れ過ぎてるもん。
―――――出会った女達とは、全然。これっぽっちも。
・・・・・なのに。何が、こうなってしまったのか?
オレの脳内にも、胸中にも。
『神楽』と言う名の少女が、居座っている。
「・・・・・・・」
両太股の上に肘をついて、両の掌を広げ頭を埋める。
―――――と、同時に。盛大な溜息。
分かった、良い。
神楽を憎からず思っていると、この際認めようじゃねえか。
その方が、オレらしい。いっそ潔い。
だって、それが事実。
どんなに否定しようが今更、覆えは出来やしない。
『ロリコン』と言われ様が、それもしょうがねえよ。
好いた女が、自分よりも年下だった――――それだけじゃねえか。
「――――銀ちゃん・・・・?どしたカ?さっきから、ずうっと頭を抱えて」
前方から甲高い声色が、自身の鼓膜に届けられる。
「ん・・・・ああ、何でも」
自分でも説得力が無いと思いつつも、眼前に腰を下ろしている少女に返答。
「頭でも、痛いノ?」
人間てのは、不思議なモンで。
今まで意識してなかった対象に、突如意識をし始めれば。
以前と同じ様に、接する事は難しくなる。
―――――当然ながら、オレも。
お得意のポーカーフェイスを、装うのが非常に困難。
だって絶対に顔を上げれば、酢昆布娘の顔が一番に視界に入って来る。
その時に・・・・オレは普通通りに、素を保てるだろうか?
いや、待て。とりあえず、冷静になれ。坂田銀時。
カウントを取れば、良いんじゃね?
・・・・1・2・3。
両手で抱えていた頭を勢い良く持ち上げ、気付かれぬ様に一息つき。
「痛くねえよ、大丈夫だって」
視線を少女に向けて、いつも通りの口調で質問に答える。
――――どうよ?備えあれば、憂いなしだ。
てか、何これ。いい歳した男が、こんな態度取るか?普通。
――――『初恋』に目覚めて、戸惑ってる少年じゃねえんだぞ?
マジで・・・・・かっこわるううううう。
「?――――の割りには、あんま覇気ねえゾ?」
酢昆布娘は首を僅かに傾げると、長椅子から立ち上がり。
こちらへと、歩を進めて来た。
―――――え゙?この展開・・・・もしかして、此処に来るつもり?
予想通りに少女は、オレの近くに辿り着くと。
拳一個分程のスペースを開けて、隣へと座する。
間隔があるにも関わらず、神楽の体温がこちら側へ伝わって来てる様な。
・・・・・いかん。相当、脳味噌湧いちゃってるよ。
自分でも悲しいくらいイタイ男に、なってるよ。
・・・・誰か。傷口を、塞いでクダサイ。お願いシマス。
「熱でも、あんのかな?」
何本かの皺を眉間に寄せ、オレの顔を覗きながら。
華奢で細い5本の指を、額に近づかせて来た。
心地良い程の冷たさを宿した掌が、額に到達した瞬間。
己の顔が、徐々に熱くなっていくのを感じた。
心の臓もうるさいってくらいに、激しく動き始める。
―――――どこぞの、初心な少女なんだよ?オレは。
何か凄い、恥ずかしいんですケド。
てか・・・・こんな事今まで、無かったじゃねえか。
「――――顔も赤いし。やっぱ、熱あんじゃネ?」
いやいやいや、確かに顔は赤くなってますよ?
その所為で、全身が熱くなってるのも理解してますよ?
だけど、これは別に病と言う訳ではなくて。
・・・・・原因は、お前な訳で。
と言っても、気付く気配は一向に無いんだろうけどな。
『恋』だの『愛』だのから、一番遠い地点にいるお前には。
「・・・・・・・・」
そろそろ、オレも――――行動に移すべき?
だって、遠過ぎだもん。お前の、立ち位置が。
「なっ・・・・何アルカ?目が怖いヨ、銀ちゃん」
額に置かれた華奢な手が、離れようとしている。
いつまでも、神楽の前で。
こんな余裕の無い自分なんざ、曝け出せないでしょ。
「神楽」
一度――――堰を切って、流れ出してしまえば。
後は勢いに乗って、どうとでもなる。
さっきと、同様に・・・・気持ちの準備をしようか。
カウント・スタート。
・・・・・1
重力に従っていた、右腕をゆっくりと持ち上げて。
・・・・・2
自身の額から退けようとされている、神楽の手を掴む。
・・・・・3
少女の手を握ったまま、こちら側へと引っ張れば。
「――――ひゃあ!?」
驚きを交えた奇声が、室内へと響き。
・・・・・4
胸元と両腕には自分とは違った、もう一つの体温を感じた。
「ぎ、銀ちゃん!?」
いらっしゃい、神楽ちゃん。銀さんの元へ、ようこそ。
・・・・・5
容の良い小さな耳元まで、己の口を持っていき。
まずは、届けてみようか。この言葉を。
「 」
この先を、一緒に踏み込んで行かない?
1,2,3 for 5で。