SURFACE & REVERS 後編

「仕事の邪魔よ。そこどいて」

「へいへい。そういやあ、あのちっこいワンコロは?」

渋々立ち上がりながら、右手で頭を掻き始める。

「定春なら、自宅よ」

「良いのかよ?豪邸が、大変な事になってんじゃねえの?」

「誰かと違って、おりこうだもの。私の言う事はちゃんと、聞いてくれるわ」

「はっ・・・さよですか」

椅子に腰を下ろし。
デスクに向かいながら、問い掛ける。

「あなた、仕事は?『店』は、これからでしょう?」

愛用のタバコを取り出し、口に咥えたら。
『ホスト』である金時が、すかさずライターを差し出した。

「今日は非番なんでね。愛しのパトロン様の顔を拝みに来たって訳」

「・・・この前もそう言って、無断欠勤したわよね。新八が、お冠だったわ」

「ったく――――融通の利かねえ、男だなあ」

勢い良くソファに腰掛けて、首を左右に傾けて鳴らす男に。
紫煙を吐き出しながら。

「サボり魔よりは、数倍マシよ。さあ。とっとと此処から、出て行って」

「冷たいねえ。こんなに良い男が、傍にいたいって言ってんのに」

「そういう台詞は、お客様に言ってあげなさいな。喜ぶわよ」

紫煙が漂う部屋の中で、金時は急に真顔になり。
こちらを見て、口を開いた。

「オレは――――

「?」

「オレはお前にしか、こんな事言わねえよ」

「・・・・・・・」

たまに見せる、その真剣な眼差しが。
私の心をどれだけ、乱しているか。
あなたに、分かる?

けれど――――
決して、そんな素振りは見せない。

あなたは、私と深く関わってはいけないから。
常日頃から、『命』を脅かされるなんて。
考えた事もないでしょう?

――――有難う、金時。嬉しいわ」と、にっこりと、微笑んで。

決して『こちら』側に、来ない様に。
あなたは、『表』の世界で生きていて。

「・・・や〜れ、やれ。いつになったら、お前の『壁』を崩せる事やら」

ソファから立ち上がり、両肩を竦めて。
ドアへと歩き出すその背中を、じっと見つめていたら。
「けれど」と立ち止まって、振り返らずに。

――――オレは諦めの悪い男なんで」

それだけ言うと右手を上げて、再び歩き出し。
ドアの向こう側へと消えた。

タバコを灰皿で揉み消して。
椅子から立ち上がり、ビルから出て来た金髪男の姿を・・・・窓から確認し。
軽く・・・両目を瞑った。

もう・・・既に。
あなたによって、私の『壁』は崩されているのよ。

けれど
『表』の世界のあなたと。
『裏』の世界にいる私が。
向き合う事は、きっと・・・ないでしょう。



※此処のサイトの金さんは、ホストのオーナーである神楽さんに
「ホ」の字設定でございます。
今後も気の向くままに、金魂小説を書こうと思っております。
この様な駄文に目を通して下さり、真に有難うございました。


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