FIRST EXPRIENCE



窓から差し込む、月の光は。
一つに重なった影を、照らし出す。

私の上に覆い被さった、銀髪の男は。
躊躇いがちに見下ろし、口を開いた。

「・・・・・今更なんだけど。ホントに良い訳?」

「――――本当に今更アルナ」

「そんな事言ってもよお・・・・お前。銀さん的には、後ろめたいって言うか」

「・・・・・・・」

一つの布団に入って、室内も暗くして。
銀ちゃんのモノになるって、意気込んだっていうのに。
――――私の『気持ちと覚悟』を、圧し折らないでヨ。

銀ちゃんだって、それを見込んで納得した上で。
ようやっとその重い腰を、上げてくれたんでショ?

思わず腹が立ち、右腕を持ち上げて。
眼前の男の左頬を思い切り、抓り上げる。

「――――――いっ!」

「ぐだぐだ言ってねーで、とっとと腹据えろヨ」

そう言い放ち、銀ちゃんの服と着流しを両手で掴み。
こちらへ引き寄せ、唇を重ねた。

数秒して離れれば、唇からの熱は空気に触れて冷めてしまう。
驚きの表情を浮かべた―――――男に向かい、笑顔を向けて。

「銀ちゃんが、大好きアル」



そう・・・・この気持ちを、受け止めて欲しい。
何時の間にか銀ちゃんの存在が、心の中で大きくなって。

もう私だって、子供じゃない。
恋や愛が何たるかも、理解してるつもりだし。
ママゴトでも、家族ごっこでも無い事も十分に承知している。

――――銀ちゃんを、一人の『男』として。
心の奥底から、好きになった。

一緒にいるだけじゃ、物足りない程に。

もっと・・・・・私を見て欲しい。
もっと・・・・・私を知って欲しい。
そして、もっと・・・・・銀ちゃんを見たい、知りたい。

「大好き」


視線を逸らさず、死んだ魚の瞳を見つめたまま。
もう一度、しっかりとした口調で言葉を綴り。
両腕を首に回して、顔を胸板に埋める。

すると男は・・・・頭上で溜息を吐き。
「後悔しても、知らねえかんな」と、呟いた。

―――――後悔?そんなモンする訳がないネ。
するとしたら、今この瞬間が無くなってしまう時アル。

しないヨ、絶対」

その言葉を合図に、銀ちゃんの顔が少しずつ近づいて来た。
至近距離になるにつれて、ゆっくりと閉じられていく瞼。

私もそれに倣って、己の瞳を閉じていく。

―――――・・・・愛しい感触が舞い降りた。

軽いタッチのキスは、とても心地良い。
そんな中、唇に柔らかく暖かなモノが当たる。


――――銀ちゃんの・・・・舌?
舌と思われる感触は、私の閉じていた唇を少しずつ開かせて。
軽く隙間が出来た頃に、すっと侵入して来た。

侵入した舌は、私の口内を味わうかの様に。
ゆっくりと、徘徊をし始める。
歯列をなぞられ、舌を絡め取られて。
まるで――――背筋に電流が走ったみたい。

「ん・・・・・・・」

口から滴り堕ちる雫は、頬を通過し―――首筋へと到達する。
少し息が苦しい・・・・どうすれば良いんだろう?
首に回していた両腕を、離して。
再び銀ちゃんの服と着流しを、無意識に強く握り締めた。

それに気付いたのか、一旦唇を離し。
「苦しいか?」と、問い掛けて来る。
自分でも、息が荒いのが分かり―――無言で頷く。

すると銀ちゃんは、右手で私の鼻を軽く摘むと。
「鼻で呼吸するんだよ」と、教えてくれた。
・・・・ああ、そうか。
だからドラマの中の男女達は、あんなに長いキスシーンが出来るんだ。

「やれやれ・・・・ビギナー神楽ちゃんには、キスから教えないとダメかねえ?」

「うっせ。そんなモン、実践していく内に自然と身につくモンアル」

「言葉だけは、大したモンだ」

そこで会話は打ち切られ、再びキスが始まった。
今度はいきなり、舌を侵入させて来たので。
教えて貰った通りに、鼻で呼吸をしてみる。
――――本当・・・・楽だ。

その分―――――この行為に、没頭しそうになる。
今感じるのは、好きな人の唇と舌の感触だけ。
お互いの舌が絡み合い、無我夢中で抱き締めあう。
・・・・・何かこれだけで、蕩けてしまいそうネ。



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