そう言うと神楽の前に立ったオレは、椅子を引き「よっこらせ」と言葉に出し。
勢いよく座ると、両腕を上に上げて伸びをして深く息を吐いた。
「・・・・オヤジくさい」
貶しの言葉を耳にしながらも、じと目で反論。
「お前も失礼な奴だね?オレはこう見えてもまだ20代よ?
何処かのゴリみたく、加齢臭を漂わせてないしね。まだまだ若いからね。オレは」
「そう思ってるのは、自分だけかも知れないですよ。今時先生みたいな20代、見たことないです
――――湿気た空気を纏って、カビでも生やしてるんですか?」
笑顔で、毒舌を吐きやがって。
全く・・・・可愛い気のない教え子だこと。
「湿気た空気って、どういう意味だあ?
こんな良い男を前にして、何を言ってくれちゃってるんですか?コノヤロ−」
「自分で自分を褒めて慰めるなんて、惨め通り越して痛々しいですよ。
とっとと、現実を認めろヨ」
今度両手を挙げてやれやれと、溜息を付く。
おいおい――――今のは、聞き捨てならねえなあ。
「――――お前アレだぞ?オレは天然パ−マじゃなければ、モテモテなんだぞ?
抱かれたい男、ベストテン入り間違いなしだな」
反論しておいて何だが。
――――敢えて『ベストテン』と位置づける所が、アバウトで何ともはや。
「NO.1」と口に出来ない所が、悲しいデスヨネ。
「はいはい。分かった、分かった」
不毛な会話を終わらせようと、神楽はもう一度写真集に目を通したので。
腑に落ちないながらも、コイツが読んでいる本に視線を移す。
「・・・何だ?空――――か?」
身を乗り出して覗き込み、問い掛けると教え子は頷く。
「―――たまたま、手に取った本。
・・・・青と白のコントラストに、太陽の陽射しが放射状に伸びてとても綺麗で。
いつか、こんな青空の下を歩いてみたい」
『・・・・無理だろうけど』
途切られた言葉の後は、こう続くんだろうと思った。
寂しげに笑みを浮かべ、視線を窓に移した少女。
同じ様に視線を辿り「あ〜・・・・」と呟きながら右手で頭を掻く。
参った・・・コイツがこんな顔をするなんて。
窓の外から図書室に響いて来る、生徒達の歓声。
太陽の下を思い切り、駆け回る他学年達――――泳ぐクラスメイト。
「――――何てね。訳分からない事言った。先生、忘れて下さい」
視線を窓から移しオレに笑顔を向けて、神楽は再び写真集を手に取った。
無意識に立ち上がりながら、腰掛けていた椅子を押しやる。