―――――不意に自分と本に、影が出来た。

「?」

不思議に思った私は、顔を上げたら至近距離で担任の顔があって。

―――――!?ど、どうしたんですか?」

仰け反る様にして、先生から離れようとするが。
両腕が伸びて来て、私の両肩に手が置かれた。

「・・・・・・・・」

一言も発しない眼前の男は、どんどん距離を縮めていく。

――――せ、せん―――――

普段は見せない真摯な顔に、心臓がうるさいくらいに鼓動を打つのを感じる。
鼻の先端と鼻の先端が、くっつく程に。
そこでやっと担任が、口をゆっくりと開いて。

「・・・・お前、綺麗な青色持ってるじゃね−か」

「・・・・え?」

大きく瞳を開いて、銀髪の男を見つめた。
銀八は両腕を離し、右手の人差し指で瓶底の眼鏡を弾く。

「分厚い眼鏡だったから、分からなかったけどな。
―――――オレからしてみれば、眼鏡越しの空ってヤツ?」

その言葉に思わず、少々呆然としてしまったが。
思わず笑みが毀れ出し、右手を口元に当てる。

―――――らしくない台詞。不覚にもちょっとだけ、嬉しかった」

先生は再び椅子に腰掛けると、腕を組み意地の悪い笑みを浮かべる。

「・・・・ちょっとカッコいいとか、思ったろ?」

ほんの一瞬、ほんの一瞬だけだけど―――――でも言ってやらない。
お決まりの言葉で、返答してやる。

「寝言は寝て言えヨ、天パ」

「てめ。天パは関係ね−だろが」

手にしていた『空の写真』の本を閉じながら、先生に微笑んでみた。
『有難う』の言葉を篭めて。

―――――――

それに対し先生は、突然視線を逸らし咳払いを一つする。
と・・・同時に授業終了の、チャイムが校内に響き渡り。

「自習、終わりっと。先生も次は授業、あるんですよね?」

そう言って目の前の本を集め出し、棚に戻そうと席を立うとしたが。
・・・・それを拒否するかの様に、突然右手を掴まれて。



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