AN ANNULAR ECLIPSE 中編
「楽しみだなあ〜」と、新八はテレビに向き直る。
そういやあ・・・・。
ふと、脳裏に蘇る記憶。
あの『ガキ』も、そんな事を言っていた様な。
やっぱりテレビでやっていた、何かの特番で。
画面を食い入る様に、見つめていたと思ったら。
突然振り向き。
『銀ちゃん!指輪!』
一瞬。
ジャンプのページを捲っていた手を、止めてしまった。
『・・・はあ?何ガキが色気づいてんだ?そんなモンなあ、お前に『男』が出来たら。
上目遣いを使って―――』
『そういう意味じゃねえヨ』
『んじゃ、どんな意味?』
すると神楽は、無言でブラウン管を指差す。
画面の右上に『金環食』の三文字。
資料映像か何かで。
細い光の輪を帯びた。
まるで、プラチナのリングにも見える。
『私、これ。見てみたい。すんげえ綺麗アル』
『見てみたいって・・・これ、後数年先じゃねえか』
『でも、見てみたいアル!一緒に見ようヨ、銀ちゃん!』
『あ〜・・・覚えてたらな。ってか、覚えてる方が奇跡に近けえが』
『絶対だヨ?忘れるんじゃねーゾ』
・・・・そんな会話、今思い出した。
けれど。
そんな事言ったって。
お前――――『
人に忘れんなとかって、抜かしといて。
お前自身が、忘れてんじゃねえの?
「―――――――」
戻って来るかも分からない、『クソガキ』に文句言っても。
意味がねえ・・・・な。
やれやれ。
年は取りたくないモンだ。
感傷に、陥りやすくなっている。
ふと。
明るい音を、連続で2回ほど。
居間に響かせた、インターホン。
「依頼ですかね?は〜い!今、玄関開けます!」
新八が立ち上がり、玄関へと向かう。
左手で軽く、頭を掻いていたら。
「ぎ・・ぎ・・・銀さん!!」
どもりながら、オレの名を呼び
けたたましい音をさせながら、居間へと戻って来た新八。
今にも、『信じられない』って顔をしている。
「あんだよ?そんな目ん玉、毀れんばかりに開きやがって」
首を傾げて、立ち上がり。
玄関へと向かおうとした――――時。
廊下を歩く、聞き覚えのある足音。
まさ・・・か。
「ワン!ワン!ワンワン!」
いつの間にか、寝そべっていた定春までが。
起き上がり嬉しそうに、吼え始めた。
ゆっくりと、顔を上げて。
その人物の方へと、視線を向ける。
「―――久しぶりアルナ。銀ちゃん、新八」
オレが知ってる、『ガキ』はもういなかった。
『えいりあんはんたー』の姿に扮した、大人の女性。
あまりの風変わりに、一言も発する事が出来ない。
「神楽ちゃん、いつ『地球』に?」
「今さっきネ。今日、重大なイベントがあるから。パピーに無理行って、連れて来てもらったアル。
・・・・またすぐに、発つ事になるだろうけど」
神楽はこちらへ近づき、顔を寄せて。
「銀ちゃん?いつまで、そんな顔してるカ。ほら、シャキッとしろヨ」
軽く頬を叩かれ、やっと我に返る。
「―――ぬあっ!?」
近い!顔近いんですけど!
「変な奇声上げてんじゃねえヨ。ところで、銀ちゃん?」
姿(なり)は変わっても、中身は変わってないんですね。
「な・・・何だよ?」
てか・・・神楽相手に動揺してる、オレって一体。
「―――あの時の、約束。覚えてる?」
「―――約束・・・?」
疑問系で口にした途端。
神楽が右手を持ち上げて、拳を作る。
「嘘っ!う―――そっ!ちゃんと、覚えてます!!」
「ならば、ヨロシ」
にっこり微笑む神楽。
「約束?」
新八が問い掛けて来たので、すかさず神楽が、返答した。
「今日の金環食、一緒に見るって約束したネ。新八も一緒に見るカ?」
一瞬だけ、こちらを見やって。
バツが悪そうに。
「・・・良いの?一緒に見ても」
「何を言うアル。こんな幻想的なイベント、皆で見なきゃ勿体無いヨ。定春!おいで!」