「―――いつにも増して、酷い顔だねぇ」

カウンター越しで、煙草を吹かしてる大家が溜息交じりに言う。

「・・・・うるせえよ、ババア」

その場から逃げ去る様な形で、スナック『お登勢』に来てしまった。

神楽の自分を見つめる視線に、耐え切れなかったのだ。

下手すると己の口から言い出した事を、リセットしてしまいそうで。

引き止めてしまいそうな自分に、悪態をつきたくなる。

「んで?頼んだモノは?」

「あんたね、誰に物言ってんだい?――――払うモノは、払ってもらうからね」

ババアは眉間に皺を寄せて、小さく折り畳まれた茶封筒を差し出す。

――――さすが「かぶき町」を、牛耳る四天王の一人だ。

1日2日かで、もうアイツの部屋を見つけてきた。

「サンキュ」

茶封筒を手にすると、少しだけ重みを感じる。

それを着流しの懐に入れて、立ち上がろうとした時。

「――――話合いは、うまくいかなかったようだね」

「・・・・・・・」

「まあ・・・・いきなり追い出されるんじゃあ。誰だって納得はすまいよ」

「――――んなこたあ、わあってるよ」

吐き出される紫煙は、悠々と室内を漂いながら空気と同化していく。

「しかし何故に今更、万事屋から追い出そうとするんだい?」

「追い出すとは聞き捨てならねえな。それじゃあまるで―――オレが悪者みてえじゃねえか。
・・・・アイツだって、もう大人なんだから。そろそろ一人立ちが必要だろ?
それにいつまでも年頃の娘が、大の男と一つ屋根の下だなんて・・・・世間体的に良くねえよ」

「―――それこそ、今更って感じだねえ。
なら出会った初期から、部屋を見つけてやりゃあ良かったのに。既にあの娘は『年頃』だったろうが」

この言葉に「それもそうだ」と思いつつ、テーブルに肘を着き顎を乗せた。

「あたしはてっきり―――アンタ等の『男と女』なんか、関係無いと思ってたけどね」

・・・・・・まあそうだろな。

「やっぱり顔の似てねえ『親子』か『兄妹』ってトコロだろ?」

するとババアは両目を大きく開いて、一瞬動きを止めたが。

唇の片端を上げて、再度煙草の煙を吸い込んだ。

「―――――馬鹿だね。そういう意味で、言ってんじゃないよ」

「は?じゃあ、どんな意味だよ?」

「答えを簡単に、教えてやる程優しくないさね。てめえの頭で考えな」

・・・・・何が言いてえんだ?

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