居間に一人残されたオレは、長椅子に腰掛け途方に暮れていた。
「―――――――」
立ち上がっては、座る・・・・これを何度も繰り返して。
置き手紙を残していった神楽を、探そうかとも思うのだが。
探して出してその後どうする?と言った、疑問も出て来る。
神楽だってもうガキじゃない、もう一端の大人。
何か考えがあって、オレを待たずに出て行ったのかも知れない。
・・・・・だからと言って。
ほぼ無一文の状態で後にしたアイツを、野放しにするのも気が引ける。
「ああ〜・・・・っくしょ」
無意識に上がった右手は、乱暴に己の癖っ毛を掻き毟り。
両肩を竦めて、盛大に溜息を吐く。
刻々と秒針の音だけが、両耳に届いていた。
「・・・・・・・・・・」
懐に偲ばせていた、茶封筒をテーブルの上に放り出す。
一瞬だけ響いた、金属音。
再び秒針の音が響く・・・・・『万事屋』の室内。
オレ以外の存在は、じっとこちらを見つめる定春だけ。
「―――――何だよ?物言いた気な、顔しやがって」
おそらく口が利けたら、「どうするの?この先?」と口にしてきそうな。
「・・・・・・・・・」
―――――ああ!もう!分かってるよ!このままこうしてたって意味ねえって事くらい!
いくらてめえから、突き放してしまったとはいえ。
突然目の前からいなくなられちゃ、目覚めも悪い。
何より世間知らずの娘だし、どっか変な事に巻き込まれる可能性だってある。
神楽の行くあて先も、見当がつかない訳でもない。
「―――――っし!」
オレは勢い良く立ち上がり、玄関に向かおうとしたが。
「・・・・・っとと」
テーブルに放った、茶封筒を再び懐に入れ込む。
「ワン!」
定春の鳴き声に、肩越しから振り返って。
「お前はとりあえず、留守番な。万が一、あの馬鹿娘が戻ってくるかも知れないし」
「クウン」
「んじゃ。後頼んだぜ?」
右手を掲げて、今度こそ玄関へと向かった。