「はい、お待ち」

気風の良さそうな、女性が笑顔を浮かべて注文の品をテーブルに置いた。

目の前に置かれたラーメンは、白い湯気を立て良い匂いを放っている。

「珍しいね。あんたがこんな可愛い娘を、連れて来るなんて」

「む?彼女はオレの知り合いの、仲間だ。以前からいろいろと、接する機会が多くてな。―――――?どうした?食べんのか?伸びてしまうぞ?」

割り箸を割りながら、ヅラはこちらを見やる。

ヅラの隣に座るエリーは、もう既に箸を付けていた。

いつもの私なら、言われるまでも無く。

がっつき、あっという間に食べ終わるのだが。

―――――今は、そんな気力も無い。

カウンター越しから、女将が「何か・・・・あったの?」と質問をして来る。

「うむ。リーダーが思い詰めた顔をしてるなんて、珍しい事この上ない。
一丁オレに話してみないか。そうそう。こちらはこの『北斗心軒』を切り盛りする、幾松殿だ」

「宜しく。貴女は?」

名前を聞かれたので、重い口をどうにか開いて。

「・・・・・神楽」と名乗った。

「――――無理にとは言わないけど。
でも・・・・吐き出すことによって、少しは気分も楽になると思うよ?」

・・・・・幾松と名乗った女性は、両目を細めて笑顔を浮かべる。

隣のヅラに視線を移せば、真剣な表情をして何度も頷いていた。

エリーは我関せずと言った具合で、ラーメンに夢中だ。

私は器の中に映る、自分の顔を見つめながら。

ゆっくりと――――己の唇を、開いた。

「今日突然銀ちゃんから、『万事屋』を出て行って欲しいと言われたアル」

この言葉に一番の反応を示したのは、ヅラだった。

これでもか!と言うくらいに、両目は見開いている。

「な――――っ!?それは本当か!?リーダー!」

「・・・・今此処で、冗談言える訳ねーダロ」

「信じ・・・・られん・・・・・」

呆然とした顔をし、口にしようとしていた箸を再び戻す。

「――――銀さんがねえ・・・・。考え無しに、そんな事言う人とは思えないけど」

彼女は、眉間に皺を寄せて腕を組む。

「きっと――――私との生活が、嫌になったアル。
銀ちゃん、言ってたヨ。『一人の時間が欲しい』って。
私ももう18だし、大人の仲間入りなんだから・・・・一人でやっていけるって。
確かに・・・・銀ちゃん、一人きりの時間って・・・・あまりなかったネ」



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