「銀時が――――その様な事を、言ったのか?」

その問いに答えようとして、視線をヅラに向けた――――が。

今まで見た事の無い、怖い表情をしており。

思わず、言葉を飲み込んでしまった。

・・・・・ヅラ?何でそんな顔してるカ?

「――――馳走になった。行くぞ、エリザベス」

注文の品を綺麗に片付けたエリーは、『はい、桂さん』とプラカードを掲げた。

それを確認し椅子を引いて、店の入り口へと向かう。

「ちょっ・・・・ヅラ!蕎麦、残ってるヨ!」

――――と言うか、殆ど口にしてない。

振り返る事もせず、ヅラは立ち止まり。

「ヅラではない、桂だ。・・・・リーダー、オレの分を頼む。では、またな」

それだけ言うと、『北斗心軒』を後にしてしまった。

突然の行動に、思わず呆気に取られていたら。

カウンター越しから、溜息が聞こえる。

振り向けば、幾松さんが「やれやれ」と言って両肩を竦めていた。

「――――ねえ、あんたさ。この後、行く所あんの?」

「・・・・・・・・・」

無言で首を左右に振ると、「じゃあさ」と左肩を軽く叩かれた。

「とりあえず、家に泊まりなよ。今あたし、一人暮らしだし。
一人増えた所で、何ら大差ないからね。お江戸も最近は、物騒だし
・・・・あんたみたいな、若くて綺麗な娘が一人歩いてたら危ないよ」

この上なく、有難い申し出だったが――――知り合ってまだ、間もないのに。

「――――――でも・・・・・」

本当に良いの?と言葉を続けようとしたら、先手を打たれた。

「困った時は、お互い様ってね。それより、ラーメン。
とっとと食わないと、冷えちゃうよ?――――あ、いらっしゃ〜い!」

背後から引き戸の音が聞こえ、4人くらいの男性客が現れる。

幾松さんは「ごめんね」と一言言うと、私の前から姿を消す。

「・・・・・・・・・」

少し冷めたラーメンの器を、両手で持ち。

陶器の縁に口を付けて、汁を啜る。

―――――あ・・・・美味しい。

割り箸を手にして、麺を口に運びながら。

先程のヅラの言葉を、思い返していた。

『信じられん』って言ってたけど、何が信じられないんだろう?



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