「は〜・・・・今日はこれで、閉店」

幾松姐は厨房で、大きく背伸びをすると。

腰に巻いていたエプロンを外し、店の入り口へと向かう。

引き戸を開けて、外に掛けていた暖簾を外し中にしまった。

もう既にラーメンを食べ終えてしまっていた私は、何をする訳でもなく。

カウンター席に座り、ただただ時間が過ぎるのを待っていた。

「――――お腹空いてる?」

背後からの問い掛けに、首を左右に振った。

普段の私ならこの時点で、お腹が大きく悲鳴を上げる筈なのに。

「・・・・そう。ね、ちょっと付き合って?」

「?」

何を・・・・付き合えと、言うのだろうか?

すると彼女は、再び厨房に戻り大きな冷蔵庫から茶色の瓶を取り出した。

「仕事の後は、やっぱこれでしょ!」

目の前に小さなグラスが、置かれた――――が。

自慢じゃないが、アルコールなんて今まで口に含んだ事が無い。

『未成年者は飲むな!オロC飲んどけ!』と、銀ちゃんが許してくれなかったのだ。

「あの――――私・・・・・」

「――――あれ?もしかして、飲んだこと無い?これ」

自分と同じ目線まで、瓶を持ち上げ指を差す。

小さく頷くと、「そうか」と彼女は言い。

栓抜きで蓋を開けると、私のグラスに琥珀色の液体を注ぐと。

白い泡がグラスの天辺付近で、留まった。

「!?」

「一杯だけでも、飲んでみ?
・・・・まあ本当は、未成年に勧めちゃいけないってのは分かってるんだけどね。
何かさ――――気分変えたい時だって、あるでしょ?」

白く綺麗な人差し指を、口元に持っていき。

片目を瞑って、『内緒ね』と呟いた。

自分の分も注いで、右手でグラスを持つと私の前に差し出す。

・・・・意味は分かっていたので、置かれたグラスを静かに持つと。

「乾杯」の言葉と、グラスとグラスのぶつかる音が店内に響いた。

幾松姐は一気にそれを飲み干すと、「うまい!」と笑顔を浮かべる。

「ほれ、あんたも」と煽られて、おずおずと口に運んだ。

「―――――――!」

に・・・・・苦い・・・・・!何で皆これを、旨そうに飲めるネ!?

顔に出ていたのだろう、彼女は声を立てて笑った。



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