―――――眼前に、両眉を吊り上げてオレを睨んでいる男がいる。
理由は、唯一つなのだが。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
お互い交わす言葉も無いまま、時間だけが過ぎていく。
堪り兼ねたもう一人の従業員が、声を荒げて名を呼んだ。
「銀さん!」
「・・・・・・あ?」
「あ?じゃありませんよ!一体どういう事なんですか!?」
今にも噛み付かんばかりの勢いで、長椅子から身を乗り出した。
「だーから、さっきも言ったろうが」
「神楽ちゃんが此処を出て行ったのは、十分分かりましたよ!
問題は何で出て行ったのかです!どうしてこんな、突然なんですか!?」
テーブルに身を乗り出し、2つの黒い瞳がオレの姿を捕らえている。
・・・・・ったく、えれえ剣幕だなあ?オイ。
本当の事言ったら、またあの技くらいそうだ。
―――――鼻の穴に二本指突っ込まれて、背負い投げ?
あれ結構どころか、だいぶ効くよな。
・・・・・・鼻血、止まらなかったもん。
「銀さん!僕の話聞いてるんですかああああ!?」
一段と声を張り上げさせ、テーブルの上で両手を拳に変えて叩く。
左手を頭に移動させ、軽く掻きながら溜息。
「あ〜・・・・聞いてる、聞いてる」
「真剣に聞いてる態度じゃ、ねえじゃねえかあああああああああああああ!
聞いてるって言うなら、ちゃんと訳を話して下さいよ!
僕だって、万事屋の一員なんですからね!」
視線を眼前のダメガネから外し、それとなく定春の方へと移動させれば。
―――――白い巨大犬は『我関せず』顔で、両目を瞑っていた。
・・・・ああ、良いねえ。今この瞬間オレもお前になりたいよ、本当。
しかし話さない以上、新八は詰問を続けるだろうし。
――――――仕方ねえ。
「・・・・オレが、出て行けって言ったんだよ」
「・・・・は?」
オレが口にした言葉にメガネ少年は、一瞬きょとんとした表情を浮かべた。
「だ〜か〜ら。神楽に、『万事屋』を出てけって。オレが言ったの」
――――――そう言った瞬間。
オレの鼻穴目掛けて少年の二本の指が、勢い良く突っ込まれた。