―――――仕方ない・・・・一度、万事屋に戻ろう。

当ても無く捜し歩いたって、身体を消耗するだけだ。

もしかしたら・・・・神楽ちゃんが、顔を出してるかも知れないし。

そんな一誄の望みを持ちながら、帰路へ向かおうとした時。

僕の背後から――――名前を呼ぶ声が。

それはずっと探し続けていた人物の声色に、間違いなかった。

「神楽ちゃん!!」

勢いをつけて振り返れば、番傘を差しながら確かに彼女が立っている。

・・・・・苦笑いを、浮かべて。

「――――何してるカ?」

「何してるって・・・・・!君を探してたんじゃないか!今まで何処にいたの?
さあ、万事屋に戻ろうよ!銀さんもきっとよろこ――――」

しかし彼女は僕の言葉を遮る様に、ゆっくり首を左右に振った。

「・・・・・新八。私を探す必要は、もう無いアル」

「―――――え?・・・・・どして?どうして、そんな事言うのさ?」

この問い掛けに神楽ちゃんは、困ったような顔を浮かべたが。

直ぐに、返答は得られた―――――信じ難い言葉と一緒に。

「――――私、『万事屋』辞めるネ。これ『辞表』アル、銀ちゃんに渡しといて」

差し出された右手には、白い封筒の様な物。

思わずそれに視線を移し、凝視してしまった。

「じ・・・・ひょう・・・・?」

―――――嘘・・・・・だろ?

「うん。あの男の事だから、『雇った覚えねえ』なんて言いそうだけどナ。けじめはけじめって事で」

正直『辞表』なんて言葉を、彼女が知ってるなんて思わなかった。

表情に出ていたのか、神楽ちゃんは再び口を開く。

「――――とある人から、教えて貰ったアル。こうした方が、自分の気持ちも整理つくって」

そう言った彼女は、どことなくだが――――すっきりした顔をしている。

「・・・・・どう・・・してさ。辞める必要なんて、無いだろ!?
あのマダオ侍に、何を言われたか知らないけどさ!あんな奴の事なんて、気にする事無いよ!
神楽ちゃんが辞めたら、僕だって寂しいし困るし!銀さんだって―――――」

必死で今ある感情を、彼女に対してぶつけていたら。

「新八」と静かな声で、制されてしまい。

「―――――これは、自分で決めた事ネ。銀ちゃんは全く関係ないヨ」

にっこりと笑みを浮かべた神楽ちゃんに、僕は二の句を告げる事が出来なかった。



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