「何も、望んでませんよ。貴方に望む事なんて、何もありません」
オレの言葉にお妙は、両目を瞑って答える。
「―――――ただ。本当にそれで良いのか?と思っただけです」
「・・・・・・・・・」
「銀さんがそういうのなら、もう何も言いませんよ」
そう言うと立ち上がり、「お邪魔しました」と述べると背を向けて。
玄関へと歩き出すお妙に、知らず内に声を掛けていた。
「神楽は」
「―――――はい?」
両足を止めて、肩越しから振り向く女を見ながら。
「・・・・・オレと一緒に暮らしてて、どう思ってたと思う?」
―――――よりによって。何でこんな事を、この女に問い掛けてしまったのか。
内心・・・・舌打ちをしたい、気分に駆られた。
「・・・・・・・・」
お妙は何も言わずに、ただ―――――オレを凝視している。
「――――――――」
沈黙に、息苦しさを覚えた。
視線を逸らしつつ「やっぱりいい」と、口にしようとした時。
「銀さんは、どう思ってたんですか?」
「え?」
外した視線を、再びお妙に合わせる。
「きっと神楽ちゃんは、銀さんと同じ気持ちだった筈ですよ」
・・・・・・オレと――――同じ気持ち・・・・・?
「・・・・・・・・・」
―――――自分で出した答えに、思わず笑いが込み上げそうになる。
オレがアイツを、『女』として見てると同じ様に。
アイツもオレを、『男』として見てるってのか?
「――――有り得ねえよ」
独り言のつもりだったが、お妙の耳に届いたらしく。
「有り得ないって、どういう意味です?」
「・・・・・・・・・」
何も返答せずにいると、お妙は身体毎こちらに向けて両肩を竦めた。
「銀さん。女ってね?『少女』から『大人の女』に変わるの、男が思う程早いの」
「―――――どういう意味よ?それ」
言葉の意図が分からず、思わず眉間に皺が寄る。
「―――――だから男は『ガキ』のままって、言われるのよ」