「―――――――は?」
グラサンオヤジの動きが、一瞬止まり――――怪訝な顔を浮かべる。
「だから。アイツ、万事屋辞めたんだって」
「はああああああああああああああ!?」
鼓膜が破れるくらいの、大声が店内に響き。
思わず「うるせえよ」と、怒鳴り返してしまった。
「何で?いつ!?」
空になったグラスに、手酌でビールを注ぎつつ。
「・・・・二週間前――――くらいじゃねかなあ。後から、辞表も受け取ったし」
「――――冗談じゃねえのか?」
「こんな冗談――――あんたに言ったって、何の得にもならねえだろが」
オレから視線を外し、正面を向いて「はあ〜っ」と息を吐き出すマダオ。
「なるほどなあ・・・・道理で見掛けねえ訳だ。あの娘大抵銀さんと、つるんでたもんな。
あれ?つう事は――――もう、一緒に住んでないのか?」
「ああ、お陰様でな。4年間の同居生活も、ピリオドを打てた。
これからは以前の様に、一人暮らしを思い存分楽しむつもり。
なんつうの?独身貴族を謳歌するみたいな?」
再び里芋の煮物へと、箸を取り摘んで口に運ぶ。
――――そう、以前の様に。伸び伸びと、一人の時間と空間を楽しむんだ。
「―――――銀さん、何かフインキ違くないか?」
正面を向いていた長谷川さんが、いつのまにか再びオレを凝視している。
「あ?何言ってんだよ?オレは至って、普通よ?」
「・・・・・の割りには。あんまり、元気無い気ィすっけど。
何て言うか・・・・ああ、そうだ。空元気出してる感じ」
「・・・・・・・・・」
否定しようと口を開きかけたが、反論の言葉が出てきてはくれず。
それを誤魔化す様に、一気にビールを煽った。
オレが沈黙を守っていた為、長谷川さんはもうそれ以上追及はせず。
「―――――まあ、人生いろいろだよな」
冷えてしまった熱燗を猪口に注ぎ、透明な液体を飲み干した。
何も聞かずにいてくれる、マダオに少なからず感謝を覚えつつ。
空になったビール瓶を端に置き、熱燗を注文する。
今は―――――酒の力に、身を委ねようか。
アルコールに溺れて、少しでもアイツを忘れられる様に。
こんな事したって、てめえの身体を虐めてるだけだろうが。
悲しい事に・・・・他の方法が、思いつかねえ。
少しでも酔いが襲って来てくれるのを、信じるしかないのだ。