公園を後にし、万事屋の前まで辿り着くと。

「それじゃあ、オレはこっちなんで」

そう言って沖田君は右手を掲げ、軽く頭を下げる。

「――――ああ。お勤め、ご苦労さん」

黒い制服の背に向かって、労いの言葉を送った。

これから屯所に戻って待機している上司二人に、巡察報告をしなければならんらしい。

重い足取りで階段を昇りながら、玄関を目指した。

懐から鍵を取り出し、差込んで解除する。

ゆっくりと戸を開ければ、出迎えるのは静寂さと暗闇。

白い巨大犬は、夢の世界に旅立っている様だ。

ブーツを脱いで忍び足で、廊下を歩いていく。

・・・・・てか、普通に歩いて良いんじゃん。

以前は同居人を起こすまいと、息を殺してまで実行していたが。

そんな配慮をする必要は、無くなったのだ。

苦笑いを浮かべつつ、居間に到着――――長椅子に腰を沈める。

ほうっと息を吐くと身体全身から、力が抜ける感覚。

「・・・・・・・」

豆電の室内の中、視線は押入れへと落ち着いた。

両膝に力を入れて立ち上がり、歩を進めて襖の前で止まる。

まるでアイツの寝息が、今にも聞こえそうに。

脱力した右腕を持ち上げ、そっと掌を襖の表面に置いた。

「――――――――」

胸中に湧き上がる、熱い感情。

・・・・・神楽がいなくなって、たった2週間ちょっとしか経っていないのに。

姿が無いだけで、声が聞こえないだけで・・・・笑顔が見れないだけで。

発狂寸前になりそうな、自分がいる。

己の出した結論に、後悔しそうな自分がいる。

4年と言う歳月は、こうも人の気持ちを変えてしまうものなのか。

辛くも酒に逃げ込んでみてはいるものの、いずれ効力が効かなくなるのは一目瞭然。

この気持ちに気付くまでは――――何て事無い、日常だった・・・・のに。

「   」

あの娘の名前を口にするだけで、言葉にし難い気持ちが全身を貫いて。

「もう一度・・・・記憶喪失になんねえかな」

そうすればこんな思い、しなくて済むんだ。

神楽と言う娘の影に、囚われる事もなくなるんだ。

空笑いと一緒に出てくる、切なる願いは室内に静かに響いた。




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