「―――――依頼だあ?」
眠い目を擦りながら、思い切り不機嫌な声を上げてやる。
今朝方まで結局眠りの世界へ潜れず、今しがたうつらしかけた時に。
『万事屋』の呼び鈴を押した、人物が現れたのだ。
そのまま居留守を、使ってやろうと思ったのだが。
しつこいくらいに呼び鈴を押されて、いい加減頭に来て玄関の戸を開けてしまった。
立っていたのは、意気揚々と笑顔を浮かべる黒い制服を着た男。
『真選組・局長』の肩書きを持つ、近藤勲――――ゴリである。
局長自らお出ましとは、珍しい。
「ああ。今月末、将軍茂茂公が外出されるんだ。
お一人ならともかく――――妹君もご一緒する為、オレ等だけじゃ警備範囲が回らんのだ。
其処で万事屋、お前達の力を是非借りたいんだよ」
両眉を八の字にさせ、苦笑いを浮かべるゴリに冷たく言い放つ。
「オレ等じゃなくても、人手を揃え様と思えば出来るだろが」
「誰でも良いって訳じゃあない。将軍様とそよ君の警護だぞ?
やはりそれなりの手腕を持っていなければ。
いつ何時―――何があるか分からんのだ。
この前だって、かぶき町の往来でそよ君が、天人の奴等に絡まれた件があったばかりだし」
――――当然だ。
「そりゃ、将軍家がかぶき町を練り歩いていたら
・・・・・天人達だって、黙っちゃいねえだろうよ。でも無事だったんだろ?」
「まあな。だが通報を受けた時は、肝が冷えたよ。その後松平のとっつあんからは、雷が落ちるし。
しかし・・・・・茂茂公もそよ君も、最近は城外に外出される機会が多くなったよなあ。
確かに城内にいてばかりでは、息が詰まる気がせんでもないしな」
同情しながら両腕を組み、首を何度も縦に振る。
このままだと話しが長くなりそうだと判断したオレは、仕方なしに受ける事にした。
「―――――また、キャバクラじゃねえだろうな?それなら、ご免蒙るぜ」
この言葉に、ゴリは一瞬だけ表情を明るくし。
「受けてくれるか!」と、喜びを表した。
「妹君がご一緒なのに、キャバクラなんて行けるか。
行き先は確か――――此処から近くにある『しんじゅく御苑』だったな。
今丁度、『紅葉』が見ごろだろ。」
・・・・・な〜る。『紅葉鑑賞』ですか。
「全くお偉方は、優雅で良いねえ。あんた等だって、本当は仕事なんてしたくないんじゃないの
?ただの紅葉鑑賞に、付き合わなくちゃならないんだからよ」
「――――仕方ないさ。将軍直々から賜った任なら、命を張ってでも遂行する。
オレ等の大切な、主君だからな」
そう言って、ゴリはいつもの愛嬌のある笑みを見せた。