「・・・・・あのう。姫様」
慣れない着物で、どうにかそろそろ近づく。
すると私の気配に気付いた、そよちゃんが顔をこちらに向けた。
「どうしました?」
「―――――その・・・・ちょっと、厠に――――」
モジモジしている私を見て、そよちゃんは笑顔を浮かべて。
「どうぞ、行って来て下さい」と、言ってくれた――――が。
右手を上げて、上下に動かし・・・・「こちらに来い」とジェスチャーをする。
「?」
首を傾げながらも、両膝で擦り寄ると。
耳元に手を当てられ、そよちゃんの言葉が送られて来た。
「くれぐれも、気をつけて下さいね。変装――――」
彼女の台詞に、私も頷き「大丈夫ヨ」と返答した。
折っていた両膝を真っ直ぐに伸ばし、小股でその場を離れる。
・・・・・確か、厠は――――。
「あ」
地面に立てられた標識を見つけ、私はそちらへと歩を進めた。
・・・・・いくら見つからない為とはいえ―――――。
やっぱり着物って、歩きにくい。
ずうっとチャイナ服で慣れていた為か、つい思わず普段通りに歩こうとしてしまうし。
足袋も下駄も、私にとっては初に等しい。
「――――ああ。早く終わって欲しいアル」
そんな独り言を呟きながら、女子の厠へと入っていった。
―――――数分後。
やっとすっきり感を覚えた私は、洗面所で手を洗い目の前の鏡で入念に見直した。
真選組の奴等然り―――――銀ちゃんや、新八までいるとは。
これは絶対に、気が抜けない。
何事も無くやり過ごさなければ・・・・・折角の案が台無しになる。
一度深呼吸をして、いざ――――そよちゃんの場所へ戻ろうと出口へ向かう。
が――――――その時だった。
身体に衝撃が走り、「うあ!」と思わず声を上げてしまったのは。
着物の為うまく体勢が取れず、両尻にも衝撃が走った。
「い・・・・たたた」
「あ、悪ィ。大丈夫かィ?」
この時の私はあまりの痛さに、気付かなかったのだ。
頭の上から発せられた、男の声を。